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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その12

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 四ヶ所目、『噴き荒ぶ灼火洞』は時間経過で感じる暑さが強まる迷宮だ。
 魔物に関しては氾濫のため外へ向かっており、俺たちの邪魔はしてこない。

 その代わり、平時以上の熱気が三人を苦しめていた。
 俺だけは多くの耐性に加え、ナシェクの鎧が守ってくれているので無事なのだが。

 迷宮は階層を経れば経るほど、基本的な気温そのものが向上する。
 そのため、耐性をどれだけ持って備えていようと暑さと戦わなければならない。

 ……だからだろう、煮詰まった脳内が導き出したあるアイデアが口から零れ出ていた。


「──とりあえず、『魔臣』と称するのが一番だな」

『……急にどうしたのですか?』

「いや、いつもそんな必要性を感じてなかったから、総称を決めてなかったんだよな。知性の高い俺の迷宮の魔物たち、ローラやハナやセツ、そしてこの迷宮のアイツとかを総じて魔臣と呼ぶことにする」

『まあ、良いのではありませんか? ……あとでそれを伝えれば、喜ぶことでしょう』


 現在の彼女たちは、かなり疲れている。
 もともと素で高温での耐性が低い魔物──改め魔臣たちなので、強化された暑さにかなり滅入っているようだ。

 いちおう全員が異常耐性スキルを持っているのだが、実はあちらに成長性は無い。
 ……いわゆる体験版で、成長させたいならば正規版が必要になるのだ。


「おーい、三人ともー、大丈夫かー?」

「「「…………」」」

『ダメでそうですね。そもそも、付いてきているだけでも奇跡というモノ。本来合わないどころか命に関わるような場所で、しかもこれほどまで過酷だというのに』

「……魔物が来なくて助かったよ。たぶん、これも観てくれているんだろうな……ナシェク、引き返してもらうことはできない。だから、このまま突っ切るぞ」


 魔物は出てこない、リソースも無限ではないので俺たちに送る余裕が無いのだろう。
 だからこそ、ふらふら歩いている三人も今なお無事でいられている。

 すでに場所で言えば、魔臣が居るであろう最奥付近。
 ここまで魔物が出てこないというのは、平時ではありえない状況だ。


「……一先ず、槍になってくれ」

『──正気ですか?』

「構わん、少しだけ上がった耐性で発動までの時間は耐える」

『ハァ……好きにしなさい』


 耐性のレベルが強制的に減少するこの迷宮だが、スキル自体はきちんと成長する。
 カンスト以上になることは無いが、レベル上げにはもってこいなのだ。

 なんせ何もせずとも、耐性にどんどん負荷が掛かっていくわけで……経験値ががっぽり手に入るため、そういう目的で来る者居るほど──まあ、平時であればだけども。

 ナシェクの姿が鎧から槍へ。
 すでに『生命の秘海』でも用いたが、この槍──『寒氷の天槍』は周囲ごと冷やすことができる聖なる槍だ。

 当然ながら、冷やすためには相応のエネルギーが必要になる。
 周囲が暑ければ暑いほど、必要な量は増大していく。

 戦闘に使わない魔力を注ぎ込み、灼熱の空気に対抗する冷気を槍から生み出す。
 結果、気温が一気に低下し、外と変わらない……それ以上に涼しい場所となった。

 消耗のせいで少し膝をつきかけるが、彼女たちを心配させないためにも、スキルを全開で使い、意地を張ってどうにか耐え切る。


「くっ……消費はかなりのものだな。まあ、この場だけならどうにかなりそうだ」

「! メ、メルス様……申し訳ありません」

「すまんが、先に行けば行くほどこれも持たなくなる。三人で力を合わせて、最奥の手前で待っていてくれるか? アイツには、最初から独りで会った方がいいだろう……これ以上暑くなりそうだしな」

「で、ですが……うぅ、分かりました。ですが、絶対に戻りませんからね! そのまま迷宮を出て、私たちを置き去りに……などということはしないでくださいよ!」


 三人を代表して、セツがそう叫ぶ。
 俺は苦笑して……内心、もしかしたらありえるかもなぁなどと考える。

 それを知ってか知らずか、この限られた時間で彼女たちは暑さ対策を取り始めた。
 ローラが耐性を強化し、ハナが熱対策の植物を展開、セツが場の空気を冷やしている。

 彼女たちのその決意は大変嬉しいが……俺はいつも、適当だからな。
 ──ナシェクにこっそり、忘れないよう再度言ってもらうよう頼んでおいた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 最深部には巨大なマグマ溜まりがある。
 本来であれば、そこで待つ守護者との戦闘があるのだが……今回は違う。

 マグマの中に点々と配置された踏み場を経由し、その中央に渡る。
 俺の待ち人もとい待ち魔臣は、間違いなくそこに居るはず。


「居るんだろう? 来てく──っ」

「チッ、外したか……」

「相変わらずだな、『ラヴ』。しかしまあ、アレだけ大規模に迷宮の設定を変更されると後が大変なんだぞ」

「知らん知らん。そんなの、レン様とお前様が苦労すればいいだけの話だ」


 マグマが突然隆起し、襲ってきた。
 別の足場に渡り回避していると、目指していた場所から現れた人型のマグマ。

 具体的な容姿の説明などは無い。
 ただのっぺりとした人形を、マグマで構築したような存在……それこそがラヴ、この迷宮に住まう魔臣であった。


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