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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その08

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 新たに『凶楽の花園』の管理者ハナを連れ出した俺とローラ。
 次に向かう場所を考えたところ……ハナから意見が出て、目的地が決まった。


「うぅ……寒い寒い。二人とも、平気か?」

「「…………」」

「──“耐寒付与エンチャントレジスト・コールド”。これでしばらくは大丈夫なはずだが……ホットドリンクもいちおう飲んでおいてくれ」


 海に住まう魔物と植物の魔物、どちらも寒さにはそこまで耐性を持っていない。
 俺の迷宮の魔物は、そのすべてが異常耐性スキルを持っているが……ここは特別だ。


「ふぅ……寒耐性スキルがどんどん上がっているな。さすがは『吹き荒ぶ凍雪原』だ」

「あ、ありがとうございます、メルス様」
「申し訳ございません、主様……」

「なーに、謝ることは無いさ。実際問題、いつかは来なければならなかったわけだし。それに、俺の付与魔法はそこまで効果が続かないから、人数が多いと持たない……よく教えてくれたよ、助かった」

「! お、お役に立てたのであれば……ありがとうございます」


 俺たちが訪れたのは『吹き荒ぶ凍雪原』。
 とにかく寒い場所なのだが……フィールド特性として、耐性を持っていようと時間経過でそれが弱体化していく。

 たとえ無効スキルを持っていようと、少し長持ちするだけで結局は寒くなる。
 そうならないためには、簡易の耐性を何度も付け直すか──耐性を大量に持つかだ。

 二人は前者で、俺は後者。
 なんせ寒耐性、環境耐性、熱耐性、そして新たに氷耐性と凍耐性を発動しており、五種類もの耐性を重ねて付けているのだから。

 なお、同時期に雷耐性も得ている……精霊たちの協力のお陰だな。
 また、その他ここに至るまで、雷耐性や空間耐性、重圧耐性や呼吸耐性も獲得済みだ。

 すべては『快適』の効果付きの装備を、身に纏っているから。
 意図して性能を調整することで、耐性の熟練度が得られるギリギリにしていたのだ。

 最初の方のスキルは、大砂海での経験が影響したスキル。
 多種多様な魔物との戦闘を経て、いつの間にか習得していたのだ。


「それにしても、魔物が……居ないな。逆に新鮮じゃないか。さすが、ハナが教えてくれた場所だ」

「私が申すのも何ですが、彼女は少し嫉妬深いですので……そこの人魚同様に」

「いえいえ、ハナさんほどではありません。ですが……たしかにそうですね、あの子はそういった気質でしょうか?」

「まあまあ。たしかに、アイツは隠すことなくアピールしていたな……そうか、気づけなかったなぁ」


 まったく魔物が襲ってこないという、これまでとは異なる状態を不思議に思いつつ、この迷宮に居るであろう知性の高い魔物について話し始める。

 それが【嫉妬】由来のものであると、全然気づけなかった俺だった。
 迷宮の魔物の中には、一部<大罪>系統スキルで召喚可能になった種族が含まれる。

 そう、そういった種族は<大罪>に性質がやや引き摺られるのだ。
 もちろん、そうじゃない種族もそれなりに居る……が、大変便利なんだよな。

 俺の<大罪>系統スキルの適性が高ければ高いほど、俺への忠誠度が高くなる。
 実際には俺の適性など知れたものだが、そこは{感情}スキルがすべて補っていた。


「迷宮を書き換えるのはもう当たり前か……ナシェク、聞こえているか?」

『……何ですか?』

「いや、お察しの通りこれからメンバーが増えれば増えるほど、俺もナシェクも出番が無くなるからな。いちおう確認するけど……第二形態、使うか?」

『! よ、余計なお世話です!』


 どれだけ取り繕っても、その事実は変わらないので正直に。
 なんだかんだ、出番を望むナシェクには大変酷な話だからな。

 いちおう支援をするため、杖としての利用ならまだありそうだけども。
 あくまでも、ナシェクが求めるのは先代の利用者ミコト先輩の武術を使うことだ。

 その願いを叶えられない以上、杖として利用してもナシェクは不服だろう。
 今回は魔物たちがメイン、そのことは彼女も分かっているのけれどな。


『ええ、どうせ私はただの道具……大人しくしておきましょう』

「いや、急にそんなノリになられてもな。一度もそんな風に思ったことは無いから、そんな卑屈にならないでくれよ。だからこそ、もう一度聞くが……どうする?」

『……ハァ、鎧を許可しましょう』

「そっちか……了解だ──『純無の天鎧』」


 塗料シリーズの装備の上から、着装される天使の鎧。
 武器が持つ特殊性能同様、事象を拒絶するというチート臭い能力を持つ。

 そのため、他の属性聖具と違ってなかなか許可が下りないが……今回は特別らしい。
 改めて、そんな判断を下してくれた彼女に感謝を伝えておいた。


「……ハナ」

「……間違いないでしょう。まったく、メルス様にあのような古臭い物を使わせるとは」

「おーい、二人とも。そろそろ魔物の反応があるから、注意していくぞー」

「「はい! ……監視しなければ」」


 ……身体強化の効果もあるので、聴覚の方もばっちりである。
 よくは分からないが、二人はナシェクをあまり好ましくは思っていないようだ。

 まあ、そうして俺が外部で誰かに関わることで、彼女たちと会う時間が減っていったというのは事実だし……うん、これからのことはきちんと考えた方がイイかもな。


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