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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内反乱 その02
しおりを挟む迷宮の暴走を想定し、あえて氾濫を引き起こす今回の計画。
それと同時、高い知性を持つ高位の魔物たちが反乱モドキを起こしていた。
俺がレンに頼まれたのは、後者への対応。
元より俺が彼らが今回の騒動を引き起こしたのは、俺のコミュニケーション不足と言っても過言では無いからな。
だが、俺一人ですべてを処理しては本当に問題が起きたときにどうにもならない。
ゆえに、迷宮都市の民や普段から迷宮を使う連中に声を掛けることに。
「──はい、というわけで皆さんには、迷宮の暴走を食い止めてもらいます!」
『…………』
「毎度毎度、つまらない顔で見られるのは虚しいんだぞ? それよりも、ちゃんと呼ぶときに内容は伝えてあるから説明はしなくてもいいよな? 擬似的に『魔物たちの騒動』を引き起こすので、討伐してくれ」
「まあ、俺は喜んで協力するが……あんまり時間は無いぞ?」
絶対に来ると思っていた、迷宮大好き人間であるナックル。
そして、その他の迷宮使用者たち……実は『ユニーク』のメンバーがかなり居た。
ナックルが俺の世界特有のポイントを貯めて、入場券を何枚も購入していたのだ。
別に拒否することもできたが、実験体……もとい探索者は何人居てもいいからな。
そうしてこちらに来た祈念者が、また自分で他の者を招く。
鼠講みたいな要領で、どんどん探索者が増えているのが現状だ。
そうしてそれなりの数が居る祈念者探索者に加え、別の場所で待機している迷宮都市の住民たち……迷宮から溢れ出す魔物たちに彼らで対処してもらうことになる。
「まあ、用事があるなら仕方ないさ。本来なら、こっちの住民だけでやってほしいぐらいだしな。けど、都市として完璧に成立しているわけじゃないから、今はまだ祈念者の力を借りたかったんだよ」
「……ハァ、知っている者も知らない者も居るだろう。こいつはここの……まあ、管理者みたいなもんだ。【迷宮主】には就いていないが、それ以上に何でもできる。絶対に、怒らせるんじゃないぞ」
「チーッス、ご紹介に預かりました何でもできる奴でーす。えー、今回はいわゆるボーナスタイム。魔物を討伐すればするほど、普段以上のポイントががっぽり。物資はこっち持だから、どんどん使っていいっすよ」
「──とのことだ。今回、氾濫する迷宮はある程度決まっているから、各々行きたい場所に行くといい。各地に『ユニーク』の幹部が居るから、指示を仰ぎたいのであればその者に接触してくれ」
真面目な話に移りそうなので、俺はこの場から去ることに。
長居をすると、面倒なことになるだろうと思ってのことだが──
「なあ、ちょっといいか?」
「……なんだい?」
「ああいや、一つ聞きたいことがあってな。迷宮はどうして全部氾濫させないんだ? どうせなら、『世界樹』とか『花園』とかも解放してもいいんじゃ……」
声を掛けてきた祈念者が問いかけてきたのは、氾濫を起こす予定の迷宮に実入りの多い場所が大して入っていなかったからだろう。
その疑問は多くの祈念者たちが思っているようで、周囲の視線が再び俺に向く。
俺もナックルを一瞥するが……残念、顔を合わせてはくれなかった。
ならば仕方がない、ありのままに応えるしかないだろう。
その予感を掴んだのか、ナックルが俺を見ようとするが──もう遅い。
「それは単純さー。絶賛氾濫中の迷宮は、この場のほとんどの方々が対応できないレベルの魔物が出てくるんだよー。お上りさんには少し、いやかなり早いよ」
「おま……っ、すまん」
「いやいや、分かってくれて何より。みんながみんな、それぐらい物分かりがイイと助かるんだけどねー」
俺の顔がまったく笑っていないこと、そしてこの場に混ざっていたある存在に気付いたのだろう……うむ、なかなかに有望な探索者も居るでは無いか。
「君なら、入れる場所もあるだろう。どうだい、案内してあげようか?」
「ありがたい申し出だが……すまん、止めておく。周りの目が怖いし……アレだろ? それって言ったが最後、じゃなくて最期だろ」
「ハイリターンには、ハイリスクが付き物なのは当然だ──どうだ、彼の言葉に俺も心を改めたぞ。志願者が居るなら、最高難易度の迷宮を今回だけ解放しようじゃないか!」
最高難易度、その言葉に釣られる祈念者の多いこと多いこと。
……自由民だったら、おそらく誰一人として反応しないだろう──むしろ逃げる。
当然、こんな発言をすれば纏めようとしていたナックルから苦言が来るわけで。
正確には、苦言という体で情報を貰おうとしているのだろうが。
【おい、どこに連れて行く気だ?】
《シンプル・イズ・ベスト、彼らはただ前に進むだけでいい》
【……まだマシな方か。おい、絶対にあそこ以外連れて行くなよ!?】
《りょーかーい》
俺の説明で、どこに連れて行こうとしているのか理解したようだ。
ナックルには、協力者として全部巡ってもらっている……交渉材料に最適だったしな。
だからこそ、十四の迷宮を巡った唯一の存在としてまだマシと判断した。
奥まで向かえば、そのすべてが猛威を振るう美徳/大罪を冠する迷宮たち。
まだマシ、とはつまり──いろんな意味で引き返せないところまで、侵入者が堕ちないという意味でもあった。
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