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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内反乱 その01
しおりを挟む第四世界 迷宮都市
ランダムボックスから出てきた、神代のアイテムから派生した情報のおさらい。
そして、その時代に存在したとされる、眷属の一人と同じ種族『魔導機人』の技術。
少なくとも、俺たちの見解では魔導機人とは他世界から来訪してきた存在だ。
この世界の機人族とはまったく異なる……その世界の『魔導』で造られた存在。
──というシリアスな話は、正直理解が追い付かないのでしばらく置いておく。
問題は、アンから頼まれたある依頼をこなすということだ。
「迷宮がねぇ……詳細はレンに聞いてくれとしか言われてないから、縛り装備で来たぞ」
「主様、お越しいただきありがとうございます。この度は、私の不手際で──」
「あー、たぶんそれは違うと思うからいい。元より、【迷宮主】抜きでいろいろ頑張ってもらっているんだ。それを責める理由なんて何も無いさ」
都市内に存在するカフェの一席、まったりとする俺に相対する蒼銀髪の女性。
無機質な黄金の瞳も、今は申し訳なさそうに細まっている。
レン、彼女は俺が初めて手に入れた迷宮核が擬人化した存在。
運営神の邪縛で【迷宮主】を失った俺の代わりに、すべての迷宮を管理している。
今回、そんな迷宮の方にいくつかトラブルが生じているらしい。
その解決や調査を行うため、俺はこの場に呼ばれていた。
「メルス様が必要な案件が数件、残りは基本的に誰でも可能な案件です」
「俺が必要って……もしかして」
「──その、メルス様に会わせろと」
「…………あー、正直すまん。いちおう、定期的に顔は見せていたんだけどな。やっぱり頻度の問題か」
迷宮に現れる魔物の中には、高い知性を有する個体も多かった。
天然の環境とは異なり、人工的な環境であるがゆえにそういった存在が生まれやすい。
特に【迷宮主】が居ると、意図的にそのような個体を創る場合がある。
その個体に指揮権を与え、魔物たちを統率させることで自身の負担を減らすためだ。
俺の場合、スキルの実験なども兼ねてそうした知能の高い個体を多く揃えた。
……ほら、受けたスキルの影響は、直接受けた相手に聞いた方が手っ取り早いからな。
そういった個体はそれぞれ、【迷宮主】に就いていた頃に造った迷宮に居る。
だが、彼らはほぼ同様の目的で造ったはずのフェニと……少々扱いが違うわけで。
ほぼカウンセリングだが、時折通って彼らとの対話は続けてきたつもりだ。
終焉の島に行ったときは、正直危うかったのだが……それでも乗り越えてきた。
「ここに来て限界が来たか……ああ、そっちの方は俺が何とかする。それで、それ以外の場所では何が起きているんだ?」
「……実は、今回は迷宮の暴走を想定した訓練をしたいのです。制御は行っていますが、神々の干渉により迷宮の権限を奪われる可能性がございます」
「まあ、迷宮神珠みたいな上位アイテムもあるわけだしな。絶対じゃないか……」
迷宮神珠とは、『超越種』である『宙艦』の試練を経て手に入れた迷宮核の上位版。
だが、それもまた複製はできず、世界運営のために使われている。
そのお陰で入手後の外部からの干渉成功率は抜群に低下したものの、やはり絶対は無いということで警戒はしている……今回の件もまた、その一環なのだろう。
「各世界でも、何らかの干渉による災害への対策は何度もやっているからな。うん、別に良いと思うぞ。ただ、ここに割く人員が問題になるわけだな」
「はい……なので眷属ではなく、一般の方々に対応してもらえると。美徳、大罪の迷宮に関しては眷属で対応させていただきます」
「ああ、そっちはな。アレらは氾濫とか起きないように、最初から設定しておいたはずだけど……仕方ないか、最奥のアレは飾っておきたいし」
七×二、計十四の高難易度迷宮群は、ほぼクリアさせる気の無い険しい迷宮だ。
その最奥には共通して、ある物が置かれているが……それはまた別の話。
それらの攻略は眷属……せっかくだから祈念者の眷属も呼んで、対応してもらおう。
奥まで行けるならソレを見せてもいいし、使うことだって別に構わないからな。
だが、他の迷宮は眷属という特別な力を持たない者たちに任せておきたい。
眷属が居ない時、運営神が干渉してきた時に対応しなければならないのだから。
「一先ず、【探索王】を中心に探索者たちの承諾は得られました。また、迷宮都市に住む生産者たちにも、しばらくは非常時を想定した行動を取ってもらう予定です」
「しっかりと報酬は用意しておいてくれよ。そうなると、俺も俺で知り合いに連絡しておいた方がいいな」
「……お手数をお掛けします」
「問題ない、問題ない。それよりも、いろいろと試したいことも増えたからな。縛りはそのまま、どんどんやっていこうか。レン、どうにか明日までアイツらを抑えてくれ。一つひとつ、巡っていくって伝えてもいい」
俺の言葉に、レンは頭を下げる。
縛りを継続するのは、圧倒的なレベル差を持ったまま彼らに会いに行くのが、ある意味失礼だからと思ってのことだ。
力があるから、悪びれることなく謝るというのもアレだろう……彼らが殺せる程度に弱い体で行くのも、誠心誠意というものに当て嵌まるのではないだろうか。
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