上 下
2,478 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その01

しおりを挟む


 第四世界 迷宮都市


 ランダムボックスから出てきた、神代のアイテムから派生した情報のおさらい。 
 そして、その時代に存在したとされる、眷属の一人と同じ種族『魔導機人』の技術。

 少なくとも、俺たちの見解では魔導機人とは他世界から来訪してきた存在だ。
 この世界の機人族とはまったく異なる……その世界の『魔導』で造られた存在。

 ──というシリアスな話は、正直理解が追い付かないのでしばらく置いておく。
 問題は、アンから頼まれたある依頼をこなすということだ。


「迷宮がねぇ……詳細はレンに聞いてくれとしか言われてないから、縛り装備で来たぞ」

「主様、お越しいただきありがとうございます。この度は、私の不手際で──」

「あー、たぶんそれは違うと思うからいい。元より、【迷宮主】抜きでいろいろ頑張ってもらっているんだ。それを責める理由なんて何も無いさ」


 都市内に存在するカフェの一席、まったりとする俺に相対する蒼銀髪の女性。
 無機質な黄金の瞳も、今は申し訳なさそうに細まっている。

 レン、彼女は俺が初めて手に入れた迷宮核が擬人化した存在。
 運営神の邪縛で【迷宮主】を失った俺の代わりに、すべての迷宮を管理している。

 今回、そんな迷宮の方にいくつかトラブルが生じているらしい。
 その解決や調査を行うため、俺はこの場に呼ばれていた。


「メルス様が必要な案件が数件、残りは基本的に誰でも可能な案件です」

「俺が必要って……もしかして」

「──その、メルス様に会わせろと」

「…………あー、正直すまん。いちおう、定期的に顔は見せていたんだけどな。やっぱり頻度の問題か」


 迷宮に現れる魔物の中には、高い知性を有する個体も多かった。
 天然の環境とは異なり、人工的な環境であるがゆえにそういった存在が生まれやすい。

 特に【迷宮主】が居ると、意図的にそのような個体を創る場合がある。
 その個体に指揮権を与え、魔物たちを統率させることで自身の負担を減らすためだ。

 俺の場合、スキルの実験なども兼ねてそうした知能の高い個体を多く揃えた。
 ……ほら、受けたスキルの影響は、直接受けた相手に聞いた方が手っ取り早いからな。

 そういった個体はそれぞれ、【迷宮主】に就いていた頃に造った迷宮に居る。
 だが、彼らはほぼ同様の目的で造ったはずのフェニと……少々扱いが違うわけで。

 ほぼカウンセリングだが、時折通って彼らとの対話は続けてきたつもりだ。
 終焉の島に行ったときは、正直危うかったのだが……それでも乗り越えてきた。


「ここに来て限界が来たか……ああ、そっちの方は俺が何とかする。それで、それ以外の場所では何が起きているんだ?」

「……実は、今回は迷宮の暴走を想定した訓練をしたいのです。制御は行っていますが、神々の干渉により迷宮の権限を奪われる可能性がございます」

「まあ、迷宮神珠みたいな上位アイテムもあるわけだしな。絶対じゃないか……」


 迷宮神珠とは、『超越種』である『宙艦』の試練を経て手に入れた迷宮核ダンジョンコアの上位版。
 だが、それもまた複製はできず、世界運営のために使われている。

 そのお陰で入手後の外部からの干渉成功率は抜群に低下したものの、やはり絶対は無いということで警戒はしている……今回の件もまた、その一環なのだろう。


「各世界でも、何らかの干渉による災害への対策は何度もやっているからな。うん、別に良いと思うぞ。ただ、ここに割く人員が問題になるわけだな」

「はい……なので眷属ではなく、一般の方々に対応してもらえると。美徳、大罪の迷宮に関しては眷属で対応させていただきます」

「ああ、そっちはな。アレらは氾濫とか起きないように、最初から設定しておいたはずだけど……仕方ないか、最奥のアレは飾っておきたいし」


 七×二、計十四の高難易度迷宮群は、ほぼクリアさせる気の無い険しい迷宮だ。
 その最奥には共通して、ある物が置かれているが……それはまた別の話。

 それらの攻略は眷属……せっかくだから祈念者の眷属も呼んで、対応してもらおう。
 奥まで行けるならソレを見せてもいいし、使うことだって別に構わないからな。

 だが、他の迷宮は眷属という特別な力を持たない者たちに任せておきたい。
 眷属が居ない時、運営神が干渉してきた時に対応しなければならないのだから。


「一先ず、【探索王】を中心に探索者たちの承諾は得られました。また、迷宮都市に住む生産者たちにも、しばらくは非常時を想定した行動を取ってもらう予定です」

「しっかりと報酬は用意しておいてくれよ。そうなると、俺も俺で知り合いに連絡しておいた方がいいな」

「……お手数をお掛けします」

「問題ない、問題ない。それよりも、いろいろと試したいことも増えたからな。縛りはそのまま、どんどんやっていこうか。レン、どうにか明日までアイツらを抑えてくれ。一つひとつ、巡っていくって伝えてもいい」


 俺の言葉に、レンは頭を下げる。
 縛りを継続するのは、圧倒的なレベル差を持ったまま彼らに会いに行くのが、ある意味失礼だからと思ってのことだ。

 力があるから、悪びれることなく謝るというのもアレだろう……彼らが殺せる程度に弱い体で行くのも、誠心誠意というものに当て嵌まるのではないだろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...