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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と箱の中身 中篇

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 ランダムボックスを開けたら、かなり古いゴミが入っていた。
 だが鑑定眼によるとそれは当たり、無数の可能性を秘めた魔道具……の残骸らしい。

 より詳細な説明をするならば、これは古き時代における──ある種のオモチャ。
 知育玩具のようなもので、どのような形になるのかを楽しんでいたようだ。


「いわゆる、大人のオモチャってわけか」

「うわぁ……」

「おいおい、誤解しないでくれよ。実際、大人も使っていたんだろうよ。じゃないと、戦闘への持ち込みに対応する……とかそんな形状が入っているわけないだろう?」

「むむっ、たしかにそうかも。ワタシ、そういうのって実際に見たことが無いから気になるんだけど……チラッ」


 わざとらしく効果音を口に出す少女は、地球からの転生者であるアイリス。
 元は病弱だったため、入院中にさまざまなゲームに手を出し……こうなっている。


「理論上、そういうのもこれが形作ることはできなくも無いみたいだぞ」

「えっ、ほんと──」

「ああ。ただし、エロいスキルとかが必要だし、かつ用途に合わせた経験をしないといけないけどな……そんなの無駄だろ」

「あー、メルスの言いたいこと分かった! 要するにあれでしょ、知らない道具より俺の方が満足させられ──むぐっ!?」


 前世ではいったいどんなゲームに手を出していたのやら、桃色の妄想に耽っていた彼女の口が塞がれた。

 それは俺の仕業では無く、彼女の後ろからスッと現れた女性によるもの。
 鮮やかな血のような瞳が、ジッと彼女……そして俺を見ていた。


「ア・イ・リ・ス……それに、旦那様まで。いったい、どのようなお話をされていたのでしょうか? じーっくりと、聞かせてもらいますからね?」

「え、あの、ちょっと……メルスぅうう!」

「……すまん、南無」


 アイリスの保護者役、フィレルは彼女をまるで猫でも摘まむかのように持ち上げ、この場を去っていった。

 毎度のことながら、アイリスも懲りないモノである……まあ、今日の夕食には彼女の好物でも並べておくとしよう。


「実際の所、できなくは無いけど……せっかくのアイテムだし、どうするかはその後に決めないとな」


 アイテムは現在、研究班が調べている。
 鑑定眼で分かったことは可能な限りすべて資料にして送ってあるので、ほんの少しは手助けになっているだろう。

 複製魔法が効かない以上、現状アイテムを増やすことはできない。
 また、ランダムボックスを使おうと、確実にそれが出る可能性は相当低かった。


「ハズレは種類が多過ぎて、逆に分からない状態だしな。うーん、ソシャゲでも当選率が出るのはいつだってレアな物ばかりだ」


 現実世界の法律もあるからか、いちおうの排出率は載っている。
 だがハズレだからか、当たりとして設定されているもの以外はかなり大雑把だった。

 なお、その当たりの中には眷属たちが全員で開けた『クリティカルボックス』も含まれている……それなりに高かったんだぞ?


「──お待たせしました、調査結果のご報告に来ました」

「お、おう……もう終わったのか?」

「はい。アイリス様に、卑猥なことを言わせて興奮されているときには」

「そんなことしてませんけど!?」


 アイリスの発言を密告したのは、アンだったわけだ……地味に納得。
 ススッと近づいて俺の隣に座った彼女は、無表情のまま報告を行ってくる。


「まず、複製は無理でした。神代の技術の中に、神の祝福も含まれているようでして」

「……何でもありだな、神代。子供の遊び道具程度に祝福を注ぐなよ」

「同じことをされているメルス様には、大変耳の痛い話でしょうね」

「…………うちのは、必要経費だ」


 迷宮学校に通う子供たちの、いわゆる防犯対策の品だ。
 現在、活動停止中の神々だが、システム的なものもあり加護は条件付きで配られる。

 ……うちの世界だと、運営神関係の神々の加護は(リオンとその友神を除き)絶対に出ない仕様となっているけども。

 そんな神々の加護が付いた防犯グッズをいくつか作り、子供たちに配っている。
 適性に合わせて光る仕様で、いつか神々から本当の加護が貰えるかも……と企み中だ。

 少なくとも、眠る前の神はまともだったとアイにも確認済み。
 また、宗教関連の住民たちも神託に助けられたことがあったと言っていた。

 今の運営神はそういった行動を、むしろ祈念者に押し付ける形になっている。
 まあ、俺たちの行動は自動的に貢献となって糧になるので、効率的ではあるけどな。


 閑話休題せいとうほうしゅう


 まあ、AFOという世界をプレイするための代金だというのであれば、祈念者たちも何も言わないだろう……実際、ハードやソフトはともかく、利用料はただになっているし。

 だが、それらは祈念者にこそ適応する話であり、自由民たちには関係ない。
 正当な神々を祭り上げ、かつての繋がりを取り戻す……それも一つの偽善である。


「──だいぶ話が逸れていますよ。ですが、運営神のやり方も間違ってはいません。今の時代、祈念者に救われた者も多く居るでしょう。数の力はやはり偉大、手の届かぬ場所に彼らは自ら率先して向かいますので」

「騙している、って一点を除けばな。まあ、それについては俺もそこまで言えないけど」

「誰かのためになる嘘、という言葉もありますがね。もっとも、祈念者たちは気にしないでしょうけども。さて、メルス様──続きをお話ししても?」

「ああ、何が分かった?」


 まず、と言っていたしダメだったことから話していたのだ、そうではない──益になる話もちゃんと持ってきているのだろう。

 神代のアイテムで何ができるのか、ぜひともそれを聞いておきたい。


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