上 下
2,475 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と箱の中身 前篇

しおりを挟む


 夢現空間 居間


 新人イベントが幕を閉じ、ナックルに後のことも押し付けることに成功。
 そして、眷属たちが得たポイントの使い道についても、いいものを教えてもらった。


「えー、それじゃあこれから一人一つ、この箱を渡していきます。全員分あるから、押さず駆けず静かに、おかしを守ってくれよー」


 眷属全員分、交換した箱型のアイテム。
 好感度上昇という謎の効果を持った課金アイテムの中でも、特に効果が強かった『クリティカルボックス』という物を選んだ。

 なお、交換の際に注意点を確認したが、どうやら課金アイテムで上昇するものには、何でも限度があるらしい。

 他にもSPを増やすアイテムや、身・能力値を増やすアイテムなどもあったのだが、そのどれもが限界値の設定された物ばかり……金の力には限度があるわけだな。

 そうなると、【強欲】にはいっさいの制限が無かったので、例外的な存在となる。
 等価交換をしているかは別なのだが、やはり大神の権能の一部だからなのかもな。


 閑話休題おかねのちからはいだい


 そんなことを考えている間に、眷属たちに箱を配り終えた。
 まだ誰も開けておらず、せーので開けるということになっている。

 何人か、開けたくてうずうずしているのでその期待に応えなければ。
 俺は彼女たちとは別に、ランダムでアイテムが得られるという箱を代わりに手に持つ。

 名前はそのまま『ランダムボックス』、中身は石ころから貴重な素材まで何でもあり。
 ……まあ、さすがに世界に一つだけのアイテムなんかは入っていないようだが。


「はーい、それじゃあ開けていこうか。いっせーのー」

『せー!』


 パカッと箱を開く──俺はそれと同時に、周囲を全力全開の能力値で確認する。
 眷属たちの箱の中身、それを何としても覗いて──閃光が奔り、轟音が鳴り響く。


「ぎゃーーーーっ!?」

「──何もしなければ、何も無かったでしょうに。メルス様、一つ賢くなりましたね。乙女の秘密を覗くことは禁忌なのですよ」

「くっ、おのれぇ……!」


 何が起きたのか、いわゆるスタングレネードのようなモノが使われた。
 正確には、そのイメージを眷属ネットワーク経由で叩き込んできたようだ。

 創作物でよくある、膨大な情報量が神経細胞を焼き切るみたいなヤツ。
 アレの上位版……かは分からないが、よりリアルな情報を押し込まれた。

 視覚と聴覚が塗り潰され、その情報過多によって他の感覚も押し流されてしまう。
 ……つまり、眷属たちが何を得たのか、その最重要機密を知れないまま仕舞われた。

 悔しさに声を震わせながらも、潰された感覚を復元して平常に戻す。
 眷属たちもそれが分かっているからこそ、容赦なくこんなやり方をしたのだろう。


「ちくせう……見たっていいだろう!」

「ズルはいけませんよ。盗み見て、望む物を知ろうとするなんて……それはメルス様自身のお力で、機会を得て知るべきでしょう」

「…………ちなみに、俺の好物とかいろいろと把握されている皆さん、聞かずともなぜか知っていた皆さんや。プライバシー、それとプライベートって知っていますか?」


 うん、俺の方はもう完璧に把握されているからこそ、今回の計画を立てたわけだが。
 なんだか理不尽な気がしないでも無いのだが……うん、今更だよな、別にいいし。


「まあ、もう過ぎたことだしもういいけど。そういえば、あまりのショックで中身の確認ができてなかったな」


 ランダムボックスの中身は、俺の方で受け取れなかったからか[アイテムボックス]に直送されたようだ。

 開けたモノを受け取れず、落としてしまうなどの事態を予期しての仕組みなのだろう。
 俺のようなケースもあれば、物が大き過ぎるという場合もあるとのこと。

 そう、大当たりクラスの代物は一般人では持てない大きさになるようだ。
 事前にナックルに聞いておいたのだが、過去に機械人形なども出てきたらしい。


「さて、中身は……『壊れたガラクタ』」

「……お察しします」


 周囲の反応も、何というか同情する感じになっている気が。
 そりゃあ自分たちはいい物を得ておいて、俺だけ罰ゲームにプラスしてハズレだしな。

 取り出したソレは、とても機械人形とは思えない一掬いのゴミの山。
 大きい物だったら、注意勧告が出るはずだし……本当にハズレだったのか?


「…………いや、まだだ。なんかこう、特別なスキルがあれば分かる情報なんかがあるに違いない!」

「メルス様、諦めが悪いのは──」

「おっ、鑑定眼にヒット!」

「……問題は、内容ですね」


 創作物の定番、隠しテキストを求めて必死に足掻き──そして見つけ出す。
 いやまあ、テキスト自体はあることは最初から分かっていたんだけども。

 知識系のスキルや上位の鑑定スキルがあれば、大抵のアイテムは情報量が増えていく。
 そして、鑑定眼はある意味その最上位なので、ほぼ確実に必要な情報が手に入る。


「──『修繕を行い、組み立てることで魔道具として利用できる』とのことだ。ただ、一つ問題があって……」

「なるほど、複数パターンあるのですか」

「保有しているスキル、実績なんかで本当なら最適な物が一つ出るから簡単なんだが……俺の場合は生産系は全部だな。だから、どれにしたらいいのか……うん、悩ましい」


 魔物を殺し続ければ勝手に完成するバトルルートや、魔法を何千何百と掛けることで完成する魔法ルートなんてのもあるとんでも無い面白アイテムだった。


「しかもこれ、複製魔法が効かない」

「っ、それは何とも……当たりですね」

「ああ、大当たりだな」


 神代魔法の一つ、複製魔法が通じないモノの方が珍しい。
 だからこそ、アンも驚いている……とりあえず、解析してもらおうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...