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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と箱の中身 前篇
しおりを挟む夢現空間 居間
新人イベントが幕を閉じ、ナックルに後のことも押し付けることに成功。
そして、眷属たちが得たポイントの使い道についても、いいものを教えてもらった。
「えー、それじゃあこれから一人一つ、この箱を渡していきます。全員分あるから、押さず駆けず静かに、おかしを守ってくれよー」
眷属全員分、交換した箱型のアイテム。
好感度上昇という謎の効果を持った課金アイテムの中でも、特に効果が強かった『クリティカルボックス』という物を選んだ。
なお、交換の際に注意点を確認したが、どうやら課金アイテムで上昇するものには、何でも限度があるらしい。
他にもSPを増やすアイテムや、身・能力値を増やすアイテムなどもあったのだが、そのどれもが限界値の設定された物ばかり……金の力には限度があるわけだな。
そうなると、【強欲】にはいっさいの制限が無かったので、例外的な存在となる。
等価交換をしているかは別なのだが、やはり大神の権能の一部だからなのかもな。
閑話休題
そんなことを考えている間に、眷属たちに箱を配り終えた。
まだ誰も開けておらず、せーので開けるということになっている。
何人か、開けたくてうずうずしているのでその期待に応えなければ。
俺は彼女たちとは別に、ランダムでアイテムが得られるという箱を代わりに手に持つ。
名前はそのまま『ランダムボックス』、中身は石ころから貴重な素材まで何でもあり。
……まあ、さすがに世界に一つだけのアイテムなんかは入っていないようだが。
「はーい、それじゃあ開けていこうか。いっせーのー」
『せー!』
パカッと箱を開く──俺はそれと同時に、周囲を全力全開の能力値で確認する。
眷属たちの箱の中身、それを何としても覗いて──閃光が奔り、轟音が鳴り響く。
「ぎゃーーーーっ!?」
「──何もしなければ、何も無かったでしょうに。メルス様、一つ賢くなりましたね。乙女の秘密を覗くことは禁忌なのですよ」
「くっ、おのれぇ……!」
何が起きたのか、いわゆるスタングレネードのようなモノが使われた。
正確には、そのイメージを眷属ネットワーク経由で叩き込んできたようだ。
創作物でよくある、膨大な情報量が神経細胞を焼き切るみたいなヤツ。
アレの上位版……かは分からないが、よりリアルな情報を押し込まれた。
視覚と聴覚が塗り潰され、その情報過多によって他の感覚も押し流されてしまう。
……つまり、眷属たちが何を得たのか、その最重要機密を知れないまま仕舞われた。
悔しさに声を震わせながらも、潰された感覚を復元して平常に戻す。
眷属たちもそれが分かっているからこそ、容赦なくこんなやり方をしたのだろう。
「ちくせう……見たっていいだろう!」
「ズルはいけませんよ。盗み見て、望む物を知ろうとするなんて……それはメルス様自身のお力で、機会を得て知るべきでしょう」
「…………ちなみに、俺の好物とかいろいろと把握されている皆さん、聞かずともなぜか知っていた皆さんや。プライバシー、それとプライベートって知っていますか?」
うん、俺の方はもう完璧に把握されているからこそ、今回の計画を立てたわけだが。
なんだか理不尽な気がしないでも無いのだが……うん、今更だよな、別にいいし。
「まあ、もう過ぎたことだしもういいけど。そういえば、あまりのショックで中身の確認ができてなかったな」
ランダムボックスの中身は、俺の方で受け取れなかったからか[アイテムボックス]に直送されたようだ。
開けたモノを受け取れず、落としてしまうなどの事態を予期しての仕組みなのだろう。
俺のようなケースもあれば、物が大き過ぎるという場合もあるとのこと。
そう、大当たりクラスの代物は一般人では持てない大きさになるようだ。
事前にナックルに聞いておいたのだが、過去に機械人形なども出てきたらしい。
「さて、中身は……『壊れたガラクタ』」
「……お察しします」
周囲の反応も、何というか同情する感じになっている気が。
そりゃあ自分たちはいい物を得ておいて、俺だけ罰ゲームにプラスしてハズレだしな。
取り出したソレは、とても機械人形とは思えない一掬いのゴミの山。
大きい物だったら、注意勧告が出るはずだし……本当にハズレだったのか?
「…………いや、まだだ。なんかこう、特別なスキルがあれば分かる情報なんかがあるに違いない!」
「メルス様、諦めが悪いのは──」
「おっ、鑑定眼にヒット!」
「……問題は、内容ですね」
創作物の定番、隠しテキストを求めて必死に足掻き──そして見つけ出す。
いやまあ、テキスト自体はあることは最初から分かっていたんだけども。
知識系のスキルや上位の鑑定スキルがあれば、大抵のアイテムは情報量が増えていく。
そして、鑑定眼はある意味その最上位なので、ほぼ確実に必要な情報が手に入る。
「──『修繕を行い、組み立てることで魔道具として利用できる』とのことだ。ただ、一つ問題があって……」
「なるほど、複数パターンあるのですか」
「保有しているスキル、実績なんかで本当なら最適な物が一つ出るから簡単なんだが……俺の場合は生産系は全部だな。だから、どれにしたらいいのか……うん、悩ましい」
魔物を殺し続ければ勝手に完成するバトルルートや、魔法を何千何百と掛けることで完成する魔法ルートなんてのもあるとんでも無い面白アイテムだった。
「しかもこれ、複製魔法が効かない」
「っ、それは何とも……当たりですね」
「ああ、大当たりだな」
神代魔法の一つ、複製魔法が通じないモノの方が珍しい。
だからこそ、アンも驚いている……とりあえず、解析してもらおうか。
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