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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その19
しおりを挟むさまざまな場所で戦いが行われている。
眷属を除けば、そのほとんどが祈念者同士の戦い……死なない者たちは、己の信念を貫くために相対する者たちを屠っていた。
「要するにアレだな、傍観勢な俺って何というか……それこそ、傍から見たら物凄いつまらない奴なんだろうな」
もちろん、眷属たちの頑張っている姿を観ているのはとても楽しい。
ただそれって、ある意味ヒモとか寄生虫な気もするんだよな。
彼女たちに頑張らせて、俺はその功績をポイントとして奪っているわけだし。
眷属と主という関係だからか、彼女たちの功績が自動的に俺のモノになるんだよな。
祈念者の眷属たちはそうではないので、その理由はある程度分かっていた。
……いずれにせよ、ポイント総取りの現状はかなり危うい気がする。
完全にアウトだろう。
あとで彼女たちに報酬は分配しているーなどと供述しても、有罪確定で即死刑の世界もあったかもしれない。
「まあでも、創作物的にはこういうスタンスの連中ってごまんと居るし。生徒たちがどんな風に活躍しているのか、チャンスを奪わずに見届けるのも義務かもしれないか」
現在、PKたちの根城から出て残党狩りに励んでいる三人の少女たち。
そんな彼女たちの活躍は、俺の片目にしっかりと映し出されている。
彼女たちがPKたちを襲撃したら、知らせてもらえるようにうちのクランの裏方組に依頼していたのだ。
その報告を受け、神眼を起動すれば──彼女たちの活躍をばっちり視られる。
……なんだか指導役というより、変態とかストーカーな気もするけど。
「……気づかなかったことにしよう。それにしても、三人とも頑張ってるな。うんうん、大抵のPKは余裕そうだ」
万能な花子(仮)はもちろんのこと、古武術使いというござる(仮)や人形遣いとして成長したお嬢(仮)も凄まじい功績を出している。
それぞれが自分の課題を認識し、より極めるために邁進していた。
彼女たち一人ひとりが、俺の知らない場所で成長するために努力したのだろう。
「本当、何様面で言ってるんだろうな……いいさ、別に。それより今は、三人がどこまでやれるか見ておくとしよう」
たしかに彼女たちは強くなった……が、それは主力が眷属たちにほとんど殺られたからに過ぎない。
彼女たちには、始まりの街に隣接する四つのフィールドでの活動だけだと頼んである。
それ以上逃げれば見逃すし、近づかなければ手を出さないようにとも言ってあった。
なので勘のいいPKは先に仲間を向かわせて、危機を免れていたらしい。
俺も気づいていなかったが、今は眼がばっちりと捕捉しているので間違いない。
「……おっと、もう相対したようだな。さてさて、どうなることやら」
三人組の中でも、初めに気付いたのはなんとお嬢……ではなくその人形だった。
ただしそれは受動的に感じどったわけではなく、能動的──危機が訪れたからこそ。
瞬時に、それこそ彼女に斧は振り下ろされる直前に盾が届く。
完璧なタイミングで防がれ、襲撃者も無駄と考えたのか煙幕を張って距離を取った。
「うんうん、お嬢を狙わなかったら上手く殺れたか……いや、花子もござるも自分が狙われたらさすがに気付くか。ただ、完璧に防御できたかはまた別だよなー」
その点、特製人形『主護騎士』はお嬢に危機が迫ると自動的に防御することができる。
これは相手が一枚上手だったか……まだ二人では、対応できないシステムの差だな。
彼女たちも襲撃を知覚したことで、ようやく襲撃者に気付いたらしい。
黒尽くめでもカモフラージュもしていないのに、まったく気づかなかったその男に。
「プラスで“鑑定眼”っと……ふむふむ、職業は【凶襲者】。これは普通に上位職だが、固有スキル持ちか……【闇雲体迷】。これが気づけなかった原因だな」
上級職の能力ぐらいであれば、優れた才覚次第でどうにか暴くことができる。
しかし、固有スキルはその効果によって他の能力を何倍にも増幅可能だ。
彼女たちの才覚はたしかに優れている……だがその理の前に、強制的に屈せられた。
ござる(仮)は技術が、花子(仮)はスキルが通用しなかったわけだな。
お嬢(仮)というか『主護騎士』は、俺特製の嗜好……じゃなくて、至高の人形。
生産神の加護は本来、極級職【生産神】の付属品──まだ足りない、そういうことだ。
上級職と固有スキル、その二つでようやく超級職ぐらいの性能となる。
これが三人の内、一人だけが正しく対応できたわけだ。
「──まっ、分かってしまえばどうとでもなるよね。頑張れー、応援してるぞー」
彼女たち、というかお嬢(仮)視点があるならばこれから始まるのは終盤の激闘なのだろう……がしかし、他の二人からしてみればこれから行われるのは単純作業だ。
「今回だけと花子が提案し、ござるはそれを受け入れる。お嬢は分かっていないようだけども、人形たちがしっかり分かっているみたいだから大丈夫だな」
「──メルス様」
「ん? おおっ、アン……というかもうみんな来たのか。えっ、もう終わったの?」
「ええ、理解しておりますよメルス様。時間が経つのはあっという間です。それこそ、ご趣味であらせられる女性観察をされておられれば、すぐにでも」
鑑定眼にしていた片目を、異なる神眼へと変更する。
その眼の名は具現眼、その力で俺が映し出す光景をその場に映し出した。
「……三人の美少女だけですよ?」
「……ああうん、もう終わったみたいだ」
目を放して……はいないのだが、眷属たちが男を観ることはできなかったようだ。
結果、勝利を得た少女たちだけがその場には残されている。
…………本当に、これはもう終わりだな。
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