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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と新人イベント その16

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 SIDE:花子

 ──目的:PKの殲滅。

 周囲のPKたちを殺し終えると、再び脳裏にイメージが浮かぶ。
 次に向かう場所がどこなのか、そのために何をすればいいのか……具体的に。

 曖昧なその内容は、勝手に[マップ]システムと結びつく。
 どの部屋にどれほどの数、そしてその難易度などが……詳細に。

「──“隠絶”」

 隠蔽系スキル、その複合版。
 基となった隠蔽、気配遮断、認識阻害などの効果に加え──システム的な探知を、上級以下ならばほぼ完全に防ぐことができる。

 ……あの男は、自力で気配を探るであろうから無駄であろうけど。
 それでも、ゲームをゲームとして遊ぶPKぐらいならば、簡単に殺せる。

「っ、向こうも動いた」

 私の他に、あの男に指導されている二人。
 そして、その他にもPKを倒すためにこの専用空間には多くの祈念者が来ている。

 お嬢とござる、あの男にそう渾名あだなを付けられた二人。
 ……あのとき適当に対応していたせいで、私の渾名なんて花子だ。

 まあ、それについてはどうでもいい。
 呼ばれ方で決まるものがあるわけでもないし、何より初期設定で付けた名前こそが普段使われている名前なのだから。

「って、そうじゃない……“独断”」

 ネタスキルと呼ばれる独断。
 効果は単独行動時の能力強化──そして、[パーティー]での位置確認不可。

 前者の効果もそこまで高くないため、大して使われていないスキル。
 しかし、後者の効果は絶対……アレ・・がすぐに取得するよう告げるのも納得だった。

 もし、『敵』がそれを利用するなら。
 私がどれだけ手を尽くそうと、システムという理不尽が私の居場所を教える。

 あの男が語った通り、この世界は圧倒的な力だけではどうにもならない。
 すぐ眼前に浮かぶ[メニュー]、祈念者である以上この理が付いて離れないのだから。

「……早めに済ませないと。経験値が減る」

 あの忍者は生まれ育った環境ゆえに、あのお嬢様は……努力する才を持つがゆえに。
 そして何より、あの男の指導を受けているがゆえに必ず多くのPKを殺すだろう。

 祈念者はたとえ格上を殺しても、そこまで実入りの無い存在だ。
 一説によると、死に戻りする存在だからこそ、正しく死を経験値化しないとのこと。

 また、私の就いている職業は、レベルを上げるために必要な経験値が非常に多かった。
 ……それでも、もっとも効率が良いとされる自由民殺しを私が選ぶことは無い。

 望めばその指針は出るだろう──だからこそ、その選択肢だけは絶対に拒む。
 ──それを選んだ時、私は正しくこの忌々しい力の奴隷になるのだろう。

 だからこそ、私は最大効率で無かろうと、この方法の中で取れる最適解を選ぶ。
 何を選ぶかは私の自由、その権利を奪うことは──誰にだって許さない。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 SIDE:お嬢

 私たちは専用空間の通路を進みます。
 拠点としての利用もしっかりとしていたようで、[ログアウト]をするための簡易な個室がいくつも続いていました。

『そろそろだよ~』

 もっとも前をずんずんと進むのは、私の人形の一体『魔法少女』。
 彼女の魔法(?)によって、私たちはその姿を完全に消している。

「お嬢殿、魔法少女殿」

「ええ、よろしくてよ」
『はーい、いつでもいいよ~』

「それでは。忍術──影遁“影潜り”」

 忍術、ござるさんが先生の指導を受けて以降、井島で忍者の方々と修行して手に入れたという新しい力。

 それこそ、『NINJA』と呼ばれる創作物の忍者のように、属性に合わせた現象を引き起こすことができる。

 ござるさんはその忍術で、魔法少女の陰に潜んだ。
 これで傍から見た私たちは、人形とその人形遣いにしか見えませんの。

「それでは、行きますの。お願いします」

『はいはーい。うーん──えいっ!』

 扉の前に立っていた魔法少女は、派手な装飾の付いた光る杖を振ります。
 詠唱も発動のための宣言も無い、ただ気合いを入れた声を出しただけ。

 それだけなのに、扉が爆発してその先へと吹き飛んでいく。
 モクモクとした黒煙が立ち込める中、私たちはその先へと進んでいきます。

『防御もね──えいっ』

 先ほどより力まない声、しかし発動した魔法(?)だけはしっかりと。
 術式なども先生に下で学びましたが、それでも彼女の行っているソレは理解できない。

 ……本当に、私の人形なのでしょうか?
 そう何度も思っていますが──彼女以上の理不尽が、まだまだ[アイテムボックス]の中には眠っておりますの。

「……考えても仕方ありませんもの。たとえあの先生が悪魔でも、願いはたしかに叶えてくれました。では、それに報いることこそが重要なのですわ!」

『おおー、なんだか凄そう! わたしも協力するね!』

「ええ、ええ、よろしくてよ! それでは、共に参りましょうか!」

『はーい!』

 ……これだけ騒げば、ござるさんをわざわざ探ろうとはしませんわね。
 独りで来た愚か者、そのような認識で構いません。

 あくまで私は囮、人形も一体しか連れていないからこそそこにしか注力しない。
 元より、そういう人種と認識されるのであれば……それこそが隙となりますわ。

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