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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その15
しおりを挟む??? 専用空間 SIDE:お嬢
専用空間、といったものがございますの。
AFOにおいて、イベント報酬で得られるポイントで交換できる亜空間。
条件を満たした場所に展開できるそれは、内部を所有者の自由にできる秘密基地。
拡張を重ねれば、その中に町ぐらいならば作ることもできると誰かが言っていました。
そして今、私たちが居るのはそんな専用空間の一つ。
……しかもそれは、今回魔物を引き連れて襲撃してきたPKたちの本拠地でした。
「……うぅ、どうしてそんな場所に」
「何を今更、お嬢殿も納得されていたではござらぬか。主君の傀儡にならぬため、より多くの功績を上げる必要がある。ゆえに、少しでも下手人の多く居る奴らの拠点を襲撃し、功績を得ると」
お嬢……私たちの先生が勝手に決めた呼び名ですが、もう諦めていますの。
何を言っても聞いてくれない方ですし、どうせ実力を示せと言ってきますわ。
ですがござるさんの仰る通り、たしかに私もそれに賛成した。
この場には私たちだけでなく、実力のある祈念者の方々が何人も居りますもの。
「花子殿も、それで良いと……もっとも、すでに行動しているようですが」
「……私としては、ござるさんもそうして動くと思いましたの」
「ふむ、それもまた一つの手ではござった。しかし、今回は敵もまたなかなかの手腕の持ち主。一人より二人、そうは思わぬか?」
「……つまり、私は囮だと」
ござるさん、最初の印象は忍者が好きないわゆるオタクの方かと思っていました……ですが、そうではございませんでした。
私たちの先生に晒した素の振る舞い、それはござるさんのお家に則った合理的な選択。
以降は、私たちの前でも時折それを見せるのですが……嫌な予感しかしませんの。
囮、それはござるさんがよく行う戦術。
敵味方問わず、使えるものなら何でも使い隙を作ってそこを突く──今までそれが通用しなかったのはごく僅かのみ。
私たちの先生だけでなく、『月の乙女』の皆様も……回復職であられるクラーレさんまで対処していたのは、正直驚きましたけど。
「お嬢殿には人形もあるでござろう。上手く壁役として、使わせてもらえぬでござるか。無論、何も強要はしないでござるよ。あくまでも、お嬢殿の動きに合わせて手を出させていただければ充分でござる」
「……それぐらいなら、構わなくてよ。ですが、人形だからといって──」
「承知しているでござるよ。人形を爆発させる、などしないでござる」
……それを一度しているからこそ、注意しているのですけれど。
幸い、耐久度的に問題にはなりませんでしたが……そういうことじゃありませんの。
「──『魔法少女』」
私たち祈念者共有のシステム、[アイテムボックス]から取り出した人形。
それはとても可愛らしいドレスに身を包んだ、少女の姿をしたもの。
先生から指導を受け、こちらの世界に合わせた容姿に整えられている。
瞳を閉じていたその人形に、私の指先から魔力の糸が伸びて──繋がった。
すると、閉じていた目がゆっくりパチクリと瞬き始める。
そして──
『呼んでくれてありがとう! お姉ちゃん、ご命令をどうぞ!』
「魔法少女、魔法で私たちを隠してもらえませんの?」
『はーい! それじゃあ……えいっ!』
呼び方は私が決めたものでは無い、魔法少女自身が自らの意思で決めたもの。
そんな彼女に指示を与えると、私の魔力を吸い上げて魔法を発動してくれる。
どんな魔法かは分からない。
先生が少し協力したお陰か、私のあまり多くはない魔力でも、隠れ潜むことができる魔法を発動することができた。
ござるさん、そしてこの場に居ないもう一人の生徒である花子さんにも魔法の発動条件などを聞かれましたが……本当に、どういう理屈なのか分かっておりませんの。
「さぁ、行きましょうかお二人とも」
『はーい!』
「承知したでござる」
システム的に、人形は[パーティー]に加えるかどうかを決めることができる。
入っていれば従魔と同じ扱いで支援できるが、違うなら支援の種類が限られてしまう。
そういった意味でも、人形たちはただの道具として扱うかどうかは人それぞれ。
……少なくとも私には、彼女たちをただの道具と捉えることはできませんの。
◆ □ ◆ □ ◆
私が先生のご指導ご鞭撻を受け、作り上げたのは十体の人形たち。
それぞれが異なる能力に長け、私の行動を補助することができますの。
ただ、それは『魔法少女』のように先生の影響を受けた仕様。
つまり、ブラックボックスと化したナニカが積み込まれた人形がほとんど。
今の私の目標は、非常に条件が難しいとされる【人物創者】に就くこと。
その条件を満たすのに、彼女たち十体の人形は最適と申しておりました。
どこまでが本当で、どこまで私をからかっているか分からないあの人……ですが、嘘を吐いているわけでは無い。
そう、嘘は言っていないからこそ、なんだかんだ他の二人もまた、先生という師を仰いでいるのでしょう……彼女たちは、私以上にいろいろ抱えているようですし。
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