上 下
2,468 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と新人イベント その14

しおりを挟む


 シンフォ高山(東)

 うーん、あんまり美味しくないなぁ。
 ぼく──グラがごしゅじんさまが居てほしいと言われた場所で、『ご飯』をずっと食べ続けている。

 だけど、その味が……うん、普通。
 ごしゅじんさまの作ってくれたモノが一番で、眷属かぞくのみんなが作ってくれるモノが二番目くらい。

 美味しく味わうことはできないけど、とりあえずおやつぐらいにはちょうどいいかも。
 あっ、また来た……数はそれなりだけど、やっぱり美味しそうな匂いがしない。

「ハァ──“物喰弾丸”」

 ぼくたち武具っ娘は、ごしゅじんさまの想像した武具から生まれた存在。
 分離した状態でも、その力を使うことができる。

 ぼくの能力を発動すると、一発の弾丸が生成された。
 弾丸をそのまま、撃ち出すこともできるけど……今回はソレを握り潰す。

 すると、爪にその力が流れ込む。
 ぼく自身が『聖魔銃[万餐]』と同一の存在だからこそ、弾丸を弾丸として扱わずともその能力を行使できる。

「あははは──イッタダーキマーーース!」

 ごしゅじんさまの創ってくれた武具を使うと、食べることを味わえない。
 だから、代わりに肉弾戦でひたすら魔物に接敵して──体を抉り取る。

 弾丸の効果で、触れたものは“万喰空間”に入っていく。
 そこは【暴食】ともリンクしていて、味もしっかりと感じ取ることができる。

 ……質より量って言葉があったから試してみたけど、正直あんまりかも。
 でも、食べ放題でどんどん食べていくのは結構イイかもしれない。

「うーん、アレは……大物だ!」

 PKらしき怪しい人が、空間をどこかに繋げて魔物を連れて来ていた。
 とっても大きい、いろんなスキルや魔法、薬物で強化された『臭い』がしている。

 純粋に強い個体じゃない分、あんまり美味しくは無いかもだけど……今は質より量なんだし、普段は味わえない雑味を逆に感じ取るのもいいかも。

「下拵えが肝心だって、ごしゅじんさまも前に言ってたっけ──“万象調理”」

 ごしゅじんさまがぼくにくれた指輪。
 どんなモノでも食べれるようにしてくれる魔法の指輪の力を、今ここで使う。

 これを使っている間、ぼくがどんなことをしても料理系のスキルが発動してくれる。
 大きく息を吸い、喉の辺りに魔力を溜め込み──解き放つ。

「──“竜乃息吹ドラゴンブレスファイア”!」

 意識するのはやっぱり火力。
 火属性の魔力で魔物を炙っていく……生もオツだけど、やっぱり料理は火を通すのが重要だもんね。

 抵抗するように火を振り払われるのは、今のぼくが弱体化しているから。
 でも良かった──全力だったら、焼き焦げて美味しくなくなっちゃうもん。

「ちゃーんと、美味しく食べてあげるよ♪」

 どんな料理にするかはあとで考えよう。
 だって、魔物は大きいんだもん……いっぱいあれば、いろんな方法が試せるよね。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 シンフォ高山(西)

 ……なんだか、いろんなところで凄い派手なことが起きている。
 僕──セイが見る限り、みんな本気で取り組んでいるみたいだ。

 もちろん、僕もご主人様に楽しんでもらうために頑張るつもりではあった。
 だけど、それは祈念者の皆さんにご迷惑を掛けない範囲のつもりで……もう無理そう。

「でも、初心者の方々だと危険な魔物が居るのも事実だし……ここだけ何もしないで放置しておくのも、やっぱり危ないよね」

 結局、僕がやることもまた、他のみんながやっていることと変わらない。
 第一にご主人様、そして第二に初心者の祈念者のためにも魔物は倒す。

「──“時止弾丸”」

 感覚をリンクさせたグラがやっているように、弾丸を生成しても弾として使わない。
 グラは体に直接流したけど、僕は代わりに弾丸を矢に変えた。

「──“乱雨矢レインアロー”」

 ご主人様が創ってくれた武具、『天翔穿弓[アマウガチ]』にその矢を乗せ──射る。
 武技の効果も相まって、矢は空で何千何万もの数になって落ちてきた。

 威力自体はみんなほどじゃない。
 でも、“時止弾丸”の効果は絶大で、魔物やPKたちの動きはすべて停止していた。

「さぁ、皆さん! 僕のスキルで敵の動きは止めてあります! 一分は確実に持ちますので、その間にお願いします!」

 みんなと同じようにやるだけじゃ、ご主人様も見飽きる……ことは無いだろうけど、もしかしたらワンパターンって思ってしまうかもしれない。

 だからこそ、僕はみんなとは違うやり方で自分の担当する場所をどうにかする。
 具体的には、僕が一騎当千の活躍をするのではなく、この場に居るみんなで戦う。

「支援します! ──“時進弾丸”」

 今度は時間を早める弾丸を矢にして、先ほど同様“乱雨矢”で全体にばら撒く。
 狙いはしっかりと定めているので、命中しているのは祈念者だけだ。

「──!」「──、────!」

「あはは……が、頑張ってください!」

 何か言っているようなのだが、彼らと僕との間には時間の差があるのでその言葉が伝わることは無い……嬉しそうだし、感謝の言葉だといいな。

「そうだった、ちゃんと効果が切れたらすぐに使わないと──“時止弾丸”……あっ、色分けで停止と加速が分かるようにしよう」

 間違えて矢を受けてしまう祈念者の方がいないように、赤色に染めた矢を装填。
 先ほどと同じように射った後、今度は青色にした矢を放つのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...