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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その14
しおりを挟むシンフォ高山(東)
うーん、あんまり美味しくないなぁ。
ぼく──グラがごしゅじんさまが居てほしいと言われた場所で、『ご飯』をずっと食べ続けている。
だけど、その味が……うん、普通。
ごしゅじんさまの作ってくれたモノが一番で、眷属のみんなが作ってくれるモノが二番目くらい。
美味しく味わうことはできないけど、とりあえずおやつぐらいにはちょうどいいかも。
あっ、また来た……数はそれなりだけど、やっぱり美味しそうな匂いがしない。
「ハァ──“物喰弾丸”」
ぼくたち武具っ娘は、ごしゅじんさまの想像した武具から生まれた存在。
分離した状態でも、その力を使うことができる。
ぼくの能力を発動すると、一発の弾丸が生成された。
弾丸をそのまま、撃ち出すこともできるけど……今回はソレを握り潰す。
すると、爪にその力が流れ込む。
ぼく自身が『聖魔銃[万餐]』と同一の存在だからこそ、弾丸を弾丸として扱わずともその能力を行使できる。
「あははは──イッタダーキマーーース!」
ごしゅじんさまの創ってくれた武具を使うと、食べることを味わえない。
だから、代わりに肉弾戦でひたすら魔物に接敵して──体を抉り取る。
弾丸の効果で、触れたものは“万喰空間”に入っていく。
そこは【暴食】ともリンクしていて、味もしっかりと感じ取ることができる。
……質より量って言葉があったから試してみたけど、正直あんまりかも。
でも、食べ放題でどんどん食べていくのは結構イイかもしれない。
「うーん、アレは……大物だ!」
PKらしき怪しい人が、空間をどこかに繋げて魔物を連れて来ていた。
とっても大きい、いろんなスキルや魔法、薬物で強化された『臭い』がしている。
純粋に強い個体じゃない分、あんまり美味しくは無いかもだけど……今は質より量なんだし、普段は味わえない雑味を逆に感じ取るのもいいかも。
「下拵えが肝心だって、ごしゅじんさまも前に言ってたっけ──“万象調理”」
ごしゅじんさまがぼくにくれた指輪。
どんなモノでも食べれるようにしてくれる魔法の指輪の力を、今ここで使う。
これを使っている間、ぼくがどんなことをしても料理系のスキルが発動してくれる。
大きく息を吸い、喉の辺りに魔力を溜め込み──解き放つ。
「──“竜乃息吹・火”!」
意識するのはやっぱり火力。
火属性の魔力で魔物を炙っていく……生もオツだけど、やっぱり料理は火を通すのが重要だもんね。
抵抗するように火を振り払われるのは、今のぼくが弱体化しているから。
でも良かった──全力だったら、焼き焦げて美味しくなくなっちゃうもん。
「ちゃーんと、美味しく食べてあげるよ♪」
どんな料理にするかはあとで考えよう。
だって、魔物は大きいんだもん……いっぱいあれば、いろんな方法が試せるよね。
◆ □ ◆ □ ◆
シンフォ高山(西)
……なんだか、いろんなところで凄い派手なことが起きている。
僕──セイが見る限り、みんな本気で取り組んでいるみたいだ。
もちろん、僕もご主人様に楽しんでもらうために頑張るつもりではあった。
だけど、それは祈念者の皆さんにご迷惑を掛けない範囲のつもりで……もう無理そう。
「でも、初心者の方々だと危険な魔物が居るのも事実だし……ここだけ何もしないで放置しておくのも、やっぱり危ないよね」
結局、僕がやることもまた、他のみんながやっていることと変わらない。
第一にご主人様、そして第二に初心者の祈念者のためにも魔物は倒す。
「──“時止弾丸”」
感覚をリンクさせたグラがやっているように、弾丸を生成しても弾として使わない。
グラは体に直接流したけど、僕は代わりに弾丸を矢に変えた。
「──“乱雨矢”」
ご主人様が創ってくれた武具、『天翔穿弓[アマウガチ]』にその矢を乗せ──射る。
武技の効果も相まって、矢は空で何千何万もの数になって落ちてきた。
威力自体はみんなほどじゃない。
でも、“時止弾丸”の効果は絶大で、魔物やPKたちの動きはすべて停止していた。
「さぁ、皆さん! 僕のスキルで敵の動きは止めてあります! 一分は確実に持ちますので、その間にお願いします!」
みんなと同じようにやるだけじゃ、ご主人様も見飽きる……ことは無いだろうけど、もしかしたらワンパターンって思ってしまうかもしれない。
だからこそ、僕はみんなとは違うやり方で自分の担当する場所をどうにかする。
具体的には、僕が一騎当千の活躍をするのではなく、この場に居るみんなで戦う。
「支援します! ──“時進弾丸”」
今度は時間を早める弾丸を矢にして、先ほど同様“乱雨矢”で全体にばら撒く。
狙いはしっかりと定めているので、命中しているのは祈念者だけだ。
「──!」「──、────!」
「あはは……が、頑張ってください!」
何か言っているようなのだが、彼らと僕との間には時間の差があるのでその言葉が伝わることは無い……嬉しそうだし、感謝の言葉だといいな。
「そうだった、ちゃんと効果が切れたらすぐに使わないと──“時止弾丸”……あっ、色分けで停止と加速が分かるようにしよう」
間違えて矢を受けてしまう祈念者の方がいないように、赤色に染めた矢を装填。
先ほどと同じように射った後、今度は青色にした矢を放つのだった。
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