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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その13
しおりを挟む迷いの森(南)
遠くで神々しい光が立ち上った。
その場所の担当者は……たしかクーン、天使由来の能力を使ったのかな?
私──ユラルは森に生える木々を通じ、草原に広がる植物へと感覚を繋げる。
メルスンと出会う前、聖霊だった頃からできることなので、今の私ならより容易い。
森の中、動く存在はもちろんのこと、隠れ潜む人々も把握済み。
ちなみに原住民である森人たちは、すでにメルスンが祈念者を通じて避難させてある。
「……あー、門を開いたのかー」
植物を通じて知覚したのは、クーンが発動したと思われる魔法。
空に浮かぶ巨大な門、それこそが先ほど生じた光の原因である。
天国魔法“天国開門”。
発動者の強い認識、そして開かれた先との『親和性』によって同じ魔法でありながら、異なる効果を発揮するという不思議な魔法。
クーンの場合、器となっている天使の肉体に基づいた効果を発揮する。
……結果として、担当区画の魔物がすべて光に呑み込まれて消えていた。
「みんな、メルスンにアピールするためにド派手なものばっかり使っているんだね。そうなると、やっぱり私もそうしておいた方がいいのかな?」
ご褒美……では無いけども、基本的にメルスンは頑張った人に報いてくれる。
大抵の願いは聞き入れてくれるし、無茶なことでも準備をしてくれた。
これはまだメルスンには言っていないけども、MVPが最優先でメルスンからご褒美が貰うことができると眷属のみんなでもう取り決めてある。
だからみんな張り切っているし──私も内心、どうすればメルスンの注目を集めることができるかを考えていた。
PKという、悪い祈念者たちが操る魔物たちの動向は同時進行で探っている。
いついかなるタイミングでも、私は彼らの下に攻撃を仕掛けることが可能だ。
「……うー、あんまり使いたく無かったんだけど。アピールって意味じゃ、これが一番だもんね──『豊穣ヲ捧グ世界樹』」
嫌悪感が顔に出ていることを自覚しながらも、私は指輪から取り出した苗を使う。
地面に沈めたそれは、私の能力で彼らの下へ移動していく。
そして、しばらくすると霧が漂う森の中に突然天を貫く巨大な樹が出現する。
どっしりフィールドに根を張り、雄大さを示すそれに誰かが呟く──『世界樹』と。
「…………だから、使いたくなかったのに」
メルスンと同じ祈念者だからこそ、巨大な木と『=』で繋げると分かっていた。
……忌々しい、そしてほんのちょっぴりだけ感謝しているあの樹の名は聞きたくない。
「……さっさと使って、終わらせないと──『永久ヲ転ウ微睡蓮』」
世界樹はあくまで、これから咲かせる植物の糧に過ぎない。
指輪から取り出した真っ赤な種は、先ほどと同じ手順で世界樹の下へ届けられる。
すると、数秒も経たない内に変化が。
世界樹が突然枯れ果て、代わりに小さな花が──蓮がそこに咲く。
花は地面に咲かず、宙に根を張る。
本来は水に咲く蓮だけど、世界樹が保有していたリソースをすべて喰らい尽くすことで一時的に踏み止まっていた。
花が開くと、そこから溢れ出す花粉。
メルスンの世界の蓮と違い、この蓮は本来水の中に花粉を零すことで受粉を行おうとする……そして、その花粉が悪辣なのだ。
花粉には強力な睡眠作用があり、眠らせた相手はそのまま水に沈む。
あとは自由自在、花自体の養分にもできるし、忘れさせ花粉を運ばせることもできる。
「あんまり派手じゃ無かったかも……まあ、でもここで激しいことってできないもんね」
もともと森人たちが暮らしている隠れ里があるのに、派手なことをしてしまえば被害は免れないもん……それをやったとき、たぶんメルスンが頭を抱えるに違いない。
だから、眷属たちがやる中でも割と私のやり方は控えめだと思う。
……ふっふっふ、だからこそメルスンは注目してくれるんじゃないかな?
◆ □ ◆ □ ◆
迷いの森(北)
「や……やることない、のかな?」
ユラルちゃんが使ったお花の影響で、森一帯に花粉が広がっている。
わたしが担当するはずだった場所も、その中に含まれていて……。
「う、うん……無為な戦いが無いのは、いいことだもんね」
あの人に見せられるものはもう無くなってしまった、でもそれでいい。
最低限、もともと森に居た祈念者が逃げるだけの時間はしっかりと稼いだから。
ユラルちゃんのお花で眠った魔物とは別、わたしが眠らせた魔物もそれなりに居た。
あの人は見てくれている、だからわたしはここに居る。
「あっ、でも……このお花の花粉って、かなり効果が続くんじゃなかったのかな?」
わたしたち眷属は、それなりに耐性があるからどうとでもなる。
でも、祈念者の人たちは……全員が全員、耐えられるわけじゃないよね?
「うーん、こっちで寝ちゃった人だけでも、わたしが起こしてあげた方がいい、のかな」
逃げたい人たちは逃がしたけど、意地を張り残ろうとした人はそのままだった。
なので、まだPKではない祈念者が居るのは間違いない。
ずっと放置していても、結局わたしたち以外ほぼすべての生命体が寝ているのだから、別にそのままでもいいと思うけど……あの人はそういうの、気にするもんね。
「──“禁殺格闘”、“事象剥離”」
相手を殺さないスキル、そして触れた相手から概念を剥がすスキルを使う。
花粉が収まったら、一人ひとり殴っていけば……いいよね?
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