上 下
2,467 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と新人イベント その13

しおりを挟む


 迷いの森(南)

 遠くで神々しい光が立ち上った。
 その場所の担当者は……たしかクーン、天使由来の能力を使ったのかな?

 私──ユラルは森に生える木々を通じ、草原に広がる植物へと感覚を繋げる。
 メルスンと出会う前、聖霊だった頃からできることなので、今の私ならより容易い。

 森の中、動く存在はもちろんのこと、隠れ潜む人々も把握済み。
 ちなみに原住民である森人たちは、すでにメルスンが祈念者を通じて避難させてある。

「……あー、門を開いたのかー」

 植物を通じて知覚したのは、クーンが発動したと思われる魔法。
 空に浮かぶ巨大な門、それこそが先ほど生じた光の原因である。

 天国魔法“天国開門ヘブンズゲート”。
 発動者の強い認識、そして開かれた先との『親和性』によって同じ魔法でありながら、異なる効果を発揮するという不思議な魔法。

 クーンの場合、器となっている天使の肉体に基づいた効果を発揮する。
 ……結果として、担当区画の魔物がすべて光に呑み込まれて消えていた。

「みんな、メルスンにアピールするためにド派手なものばっかり使っているんだね。そうなると、やっぱり私もそうしておいた方がいいのかな?」

 ご褒美……では無いけども、基本的にメルスンは頑張った人に報いてくれる。
 大抵の願いは聞き入れてくれるし、無茶なことでも準備をしてくれた。

 これはまだメルスンには言っていないけども、MVPが最優先でメルスンからご褒美が貰うことができると眷属のみんなでもう取り決めてある。

 だからみんな張り切っているし──私も内心、どうすればメルスンの注目を集めることができるかを考えていた。

 PKという、悪い祈念者たちが操る魔物たちの動向は同時進行で探っている。
 いついかなるタイミングでも、私は彼らの下に攻撃を仕掛けることが可能だ。

「……うー、あんまり使いたく無かったんだけど。アピールって意味じゃ、これが一番だもんね──『豊穣ヲ捧グ世界樹』」

 嫌悪感が顔に出ていることを自覚しながらも、私は指輪から取り出した苗を使う。
 地面に沈めたそれは、私の能力で彼らの下へ移動していく。

 そして、しばらくすると霧が漂う森の中に突然天を貫く巨大な樹が出現する。
 どっしりフィールドに根を張り、雄大さを示すそれに誰かが呟く──『世界樹』と。

「…………だから、使いたくなかったのに」

 メルスンと同じ祈念者だからこそ、巨大な木と『イコール』で繋げると分かっていた。
 ……忌々しい、そしてほんのちょっぴりだけ感謝しているあの樹の名は聞きたくない。

「……さっさと使って、終わらせないと──『永久ヲ転ウ微睡蓮』」

 世界樹はあくまで、これから咲かせる植物の糧に過ぎない。
 指輪から取り出した真っ赤な種は、先ほどと同じ手順で世界樹の下へ届けられる。

 すると、数秒も経たない内に変化が。
 世界樹が突然枯れ果て、代わりに小さな花が──蓮がそこに咲く。

 花は地面に咲かず、宙に根を張る。
 本来は水に咲く蓮だけど、世界樹が保有していたリソースをすべて喰らい尽くすことで一時的に踏みとどまっていた。

 花が開くと、そこから溢れ出す花粉。
 メルスンの世界の蓮と違い、この蓮は本来水の中に花粉を零すことで受粉を行おうとする……そして、その花粉が悪辣なのだ。

 花粉には強力な睡眠作用があり、眠らせた相手はそのまま水に沈む。
 あとは自由自在、花自体の養分にもできるし、忘れさせ花粉を運ばせることもできる。

「あんまり派手じゃ無かったかも……まあ、でもここで激しいことってできないもんね」

 もともと森人たちが暮らしている隠れ里があるのに、派手なことをしてしまえば被害は免れないもん……それをやったとき、たぶんメルスンが頭を抱えるに違いない。

 だから、眷属たちがやる中でも割と私のやり方は控えめだと思う。
 ……ふっふっふ、だからこそメルスンは注目してくれるんじゃないかな?

  ◆   □   ◆   □   ◆

 迷いの森(北)

「や……やることない、のかな?」

 ユラルちゃんが使ったお花の影響で、森一帯に花粉が広がっている。
 わたしが担当するはずだった場所も、その中に含まれていて……。

「う、うん……無為な戦いが無いのは、いいことだもんね」

 あの人に見せられるものはもう無くなってしまった、でもそれでいい。
 最低限、もともと森に居た祈念者が逃げるだけの時間はしっかりと稼いだから。

 ユラルちゃんのお花で眠った魔物とは別、わたしが眠らせた魔物もそれなりに居た。
 あの人は見てくれている、だからわたしはここに居る。

「あっ、でも……このお花の花粉って、かなり効果が続くんじゃなかったのかな?」

 わたしたち眷属は、それなりに耐性があるからどうとでもなる。
 でも、祈念者の人たちは……全員が全員、耐えられるわけじゃないよね?

「うーん、こっちで寝ちゃった人だけでも、わたしが起こしてあげた方がいい、のかな」

 逃げたい人たちは逃がしたけど、意地を張り残ろうとした人はそのままだった。
 なので、まだPKではない祈念者が居るのは間違いない。

 ずっと放置していても、結局わたしたち以外ほぼすべての生命体が寝ているのだから、別にそのままでもいいと思うけど……あの人はそういうの、気にするもんね。

「──“禁殺格闘”、“事象剥離”」

 相手を殺さないスキル、そして触れた相手から概念を剥がすスキルを使う。
 花粉が収まったら、一人ひとり殴っていけば……いいよね?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...