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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その11
しおりを挟むE1 始まりの草原(北)
「……ったく、何で俺が」
俺──ヴァーイがここに居る理由。
それは他でもない、主であるシャルルにそうしろと命じられたからだ。
「まあ、こっちに来たもんは全部貰っていいみたいだからいいけどよぉ……ハァ、間接的にアイツの役に立っちまうのか」
たしかに恩はある…………が、アレを恩というのはどうにも癪に障る。
餓え続けていた日々ともおさらば、何不自由ない生活ができてはいた。
ただ一つ、俺が喰おうとしていた女を護ることになっているのは訳が分からない。
それを命じたのも、そもそも俺を餓えから解き放ったのも同じ男。
……主が惚れているソイツは、何でもできるくせに何もできないおかしなヤツだ。
力はある、だがそれを十全に使いこなせていない。
俺もまた、そういうことがよくあるからこそよく分かる。
身の丈に合わない力、かつて俺はそれに溺れていたからな。
「──チッ、止めだ止めだ。ちょうど飯も来たみてぇだし、いただくとするか」
両手には鉤爪型の武器『調理爪[グロークロー]』。
そして、男物にアレンジされた頭巾やケープ、腰には魔本[悪食の書]を提げる。
これも全部、アイツの作ったアイテム。
俺……というか俺の能力に合わせられた武具に身を包み、北から集まってきた魔物たちと祈念者の犯罪者たちを相手取る。
「さぁ、来いよ──『先導犬の吠声』!」
喰らった獲物の能力を手に入れる、それが俺の固有スキル【貪食】の力。
覚えていないほどだいぶ前、『先導犬』とやらを喰らって手に入れた能力を使う。
高々に遠吠えを上げると、魔物たちがいっせいに俺の方を向く。
声に乗せた魔力に反応し、強制的に進む方向を俺の下へ変更させたのだ。
「──『不燃液体』、『聖邪炎の羽翼』」
そして俺は炎の翼を背に生やし、大空を舞い上がる。
喰らった能力は俺の耐性に関係なく機能するので、炎を凌ぐための液も分泌しておく。
空から一方的に攻撃できればよかったが、相手にも空を飛ぶ魔物や遠距離攻撃ができる奴が混ざっている。
そういうヤツらが率先して攻撃している間も、方向はともかくそのまま魔物たちは真っすぐ移動していた。
「チッ、面倒な──“荒地”!」
これはアイツから貰った【統属魔法】から引き出した、土属性の魔法。
…………常軌を逸しているアイツは、平然と俺に自分の腕を喰えと言いやがった。
喰らった相手のスキルが育っていれば育っているほど、俺がモノにできる力は膨れ上がる……肥え太っていればいるほど、俺の糧にできるわけだな。
そんな能力だからこそ、アイツの充分以上に育ったスキルを喰らうことで俺はたくさんの力を手に入れた。
アイツの眷属がアイツのために創ったスキル、アレらには手を出せなかったが。
それでも、だいたいの統合スキルを喰らうことで俺は(強制的に)強くなっている。
「──“空閃絶爪”!」
鉤爪型の武器[グロークロー]を経由し、爪術の武技が発動した。
爪術自体はもともと持っていたが、今の俺には【武芸百般】スキルがある。
アイツが得た武術スキルの大半も統合された結果、その性能は強化されていた。
宙を引っ掻くように、空を裂くことで斬撃となって魔物たちを襲う。
「まだまだ──[悪食の書:劉の尾肉]」
魔本に仕舞われているのは、【貪食】があろうと模倣できないような能力の持ち主……その一部だ。
アイツの眷属の一人、劉のシュリュの尻尾肉を生のまま取り出して──喰らう。
体内に取り込んでも維持できないため、すぐさま劉の尾を生やして肉体と接続させる。
そこから湧き上がる劉の力を制御し、暴れ回っていく。
──アイツの知らない魔物を喰らって、絶対にやり返してやるからな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの草原(中央)
魔物を引き連れ、草原に居る祈念者たちを殺して街へ侵攻する……そんな計画だった。
だが、誰一人としてその目的を果たすことができていない。
「何なんだよ、アイツらは!」
「名前が表示されない……ガチの連中か、あるいは自由民か!?」
「どっちでもいい! あんな奴らに俺たちの計画を邪魔されてたまるか!」
彼らには彼らなりの意思があり、矜持がある……それがどんな形であろうとも。
しかし、それ以上の力──純粋な暴力の前に彼らの野望は潰えてしまう。
「チッ、少なくともこのエリアで満たすのは無理そうだな……他はどうなってる!?」
「そ、それが……連絡が付かねぇ!」
「…………まさか、ここの奴らと同じぐらいのヤバい連中が、全エリアに居るのか!?」
「──ッ、南で爆発だ!」
「おい、そこだけじゃない! 北も……西もなんか見えるぞ!」
「…………なんで街を跨いだ先まで、被害が見えてるんだよ!」
PKの一人が指を向けた先、そこでもまたエリアを跨いで視認できるほどの強烈な爆発が起きていた。
それだけでなく、その他の方位──今回の計画で襲撃を行うはずだった全場所で、何らかの派手な戦いが行われている。
魔物を使って行う計画上、決して隠密性は無かった。
だがそれでも、大々的に目立つような真似はしないはずだったのだ。
──彼らの想像通り、彼らの計画は一つ残らず妨害されていた。
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