2,464 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その10
しおりを挟む一般祈念者対PK祈念者。
その戦いに、第三勢力として加わろうとしていた俺……そして眷属たち。
いちおう、ナックルに事前報告はしてあるので新人の被害者は減るはずだ。
実力者たちはむしろ、眷属に挑むかもしれないが、そこら辺は自己責任である。
「今日が例の計画の日だ。魔物の軍勢、そしてPKたちが始まりの街に雪崩れ込んでくる手筈になっている──そこに、今回俺たちが入ってしっちゃかめっちゃかにしてやる!」
ワクワクしている者、やれやれと額に手を当てている者、そもそも俺の話を聞いていない者などさまざまだ……それでも、全員が戦うためにこの場に集まっていた。
眷属が全員来ているわけではなく、あくまで暇な者たちだけ。
……急な呼びかけだったので、参加できないと悔しそうな者も居たな。
「えー、ただし事前の連絡通り今回は弱体化装備を付けて挑んでもらいます。その分、偽装工作をしなくていいし、その装備自体が壊れることは無いのでご安心を。脱いでも身に着けていれば効果はあるぞ」
全員が全員、いかにも怪しい黒尽くめの外套を身に纏っている今回。
効果の方は充分で、眷属たちを普通に強い自由民ぐらいのレベルにしている。
そして、そんな呪い染みた代償としてほぼ絶対の認識阻害を付与しておいた。
祈念者専用の対策として、彼女たちに関する記録は保存することができない仕様だ。
……その辺、リオンといろいろやっているのでお手の物である。
美少女や美女が多いメンバーだからこそ、顔バレ防止で張り切って仕込んでおいた。
戦闘中に邪魔だと言われることも多かったので、ワンタッチで変形する機構付き。
なお、内側の装備にも外套の効果は及ぶので、ほぼ全員が本気仕様の装備を着ていた。
「説明は以上。何か質問がある人……はい、ではアン君」
「まず、皆さんを代表して……このような些事にわざわざ呼び出したというのですから、相応の報酬があると思って構いませんね?」
「…………ねぇ、なぜにそんな上から? というか、わざわざ呼び出したって……ちゃんと予定とか聞いたはずだけど?」
「主に問われ、否と答えることができますでしょうか? ええ、できませんとも……これはいわゆる、パワハラというヤツですね」
そんな中、俺に辛辣な言葉を向けるアン。
だが誰も止めない……これが、よく行われる掛け合いだと分かっているからだ。
そもそも、彼女は眷属の中でも出自がかなり特殊な存在。
おそらく大神が関わっている彼女は、俺の思考をまんま把握できている。
俺が拒否しない限り、ほぼ全バレ。
──だからこそ、俺の求める会話を進んでしてくれていた。
「ですが、ご安心ください。正当な報酬さえいただければ、全力で使命を果たしてみせましょう……だいたい、祈念者の方々がそうして報酬を得ているのですから、わたしたちにも何か与えるべきでは?」
「いやまあ、それはそうなんだけども……」
「アレですか、釣った魚にはもう用は無いのですか? 違いましたね、こうして鑑賞のために外へ出して、また元に戻してとより悪辣な振る舞いを──」
「…………ちょ、ちょっと考えさせてください。いろいろ準備しますんで」
ただまあ、彼女には彼女自身の意思があるわけで……俺が思っている以上に、眷属たちにサービスしようとするんだよな。
◆ □ ◆ □ ◆
E1 始まりの草原(南)
「ふぅ、これでメルス様の言いたかったことはお伝えすることができましたね」
わたしたちの主、メルス様はどこまでいこうともその本質が変わらない。
それは良いことでもあり、悪いことでもあり……好ましくもあり、悩ましくもある。
一歩進んで二歩下がる、メルス様の世界にあるその言葉が相応しい。
ただ、メルス様の場合はその一歩の幅が尋常では無いほどに広いのだ。
「ああして、通訳しないと真意を伝えることも難しいですし……まったく、仕方がありませんね」
メルス様がああだからこそ、わたしという存在に意義を見出せる。
もちろん、そんなことせずともメルス様はわたしを必要としてくれるのでしょうけど。
「『眷属のイイところを見たい』、それだけでしたらそう仰ればいいでしょうに……ご期待に応えねばなりませんね」
皆様には伝達済み。
各戦場で、メルス様のご期待通りの活躍をしていることでしょう……と、メルス様の思考経由でその光景が映ります。
だからこそ、わたしもまたそれ以上に活躍しなければなりません。
……今回の制度、より目立った方が良いみたいですので。
わたしが今居る場所、草原フィールドの南側に集まってきた多種多様な魔物とPK。
まずは目印を、より派手に惹きつけられるようなモノを。
「『再現武装0001』──開け、宝物庫」
腕組みをしているわたしの背、その宙に現れた無数の穴。
メルス様もよくやっている、例の英霊の真似事……その真似事ですね。
そうなれば、これからやるべきことなど知れたこと。
現にPKたちは、すぐさま逃げ出すべく魔物を置き去りにして走り出していた。
「──良い開幕ですね。どうか、死に物狂いで謳ってください」
逃すつもりはない。
展開した武器は、視界に映るすべてを容赦なく刺し貫いていきました。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる