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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その10
しおりを挟む一般祈念者対PK祈念者。
その戦いに、第三勢力として加わろうとしていた俺……そして眷属たち。
いちおう、ナックルに事前報告はしてあるので新人の被害者は減るはずだ。
実力者たちはむしろ、眷属に挑むかもしれないが、そこら辺は自己責任である。
「今日が例の計画の日だ。魔物の軍勢、そしてPKたちが始まりの街に雪崩れ込んでくる手筈になっている──そこに、今回俺たちが入ってしっちゃかめっちゃかにしてやる!」
ワクワクしている者、やれやれと額に手を当てている者、そもそも俺の話を聞いていない者などさまざまだ……それでも、全員が戦うためにこの場に集まっていた。
眷属が全員来ているわけではなく、あくまで暇な者たちだけ。
……急な呼びかけだったので、参加できないと悔しそうな者も居たな。
「えー、ただし事前の連絡通り今回は弱体化装備を付けて挑んでもらいます。その分、偽装工作をしなくていいし、その装備自体が壊れることは無いのでご安心を。脱いでも身に着けていれば効果はあるぞ」
全員が全員、いかにも怪しい黒尽くめの外套を身に纏っている今回。
効果の方は充分で、眷属たちを普通に強い自由民ぐらいのレベルにしている。
そして、そんな呪い染みた代償としてほぼ絶対の認識阻害を付与しておいた。
祈念者専用の対策として、彼女たちに関する記録は保存することができない仕様だ。
……その辺、リオンといろいろやっているのでお手の物である。
美少女や美女が多いメンバーだからこそ、顔バレ防止で張り切って仕込んでおいた。
戦闘中に邪魔だと言われることも多かったので、ワンタッチで変形する機構付き。
なお、内側の装備にも外套の効果は及ぶので、ほぼ全員が本気仕様の装備を着ていた。
「説明は以上。何か質問がある人……はい、ではアン君」
「まず、皆さんを代表して……このような些事にわざわざ呼び出したというのですから、相応の報酬があると思って構いませんね?」
「…………ねぇ、なぜにそんな上から? というか、わざわざ呼び出したって……ちゃんと予定とか聞いたはずだけど?」
「主に問われ、否と答えることができますでしょうか? ええ、できませんとも……これはいわゆる、パワハラというヤツですね」
そんな中、俺に辛辣な言葉を向けるアン。
だが誰も止めない……これが、よく行われる掛け合いだと分かっているからだ。
そもそも、彼女は眷属の中でも出自がかなり特殊な存在。
おそらく大神が関わっている彼女は、俺の思考をまんま把握できている。
俺が拒否しない限り、ほぼ全バレ。
──だからこそ、俺の求める会話を進んでしてくれていた。
「ですが、ご安心ください。正当な報酬さえいただければ、全力で使命を果たしてみせましょう……だいたい、祈念者の方々がそうして報酬を得ているのですから、わたしたちにも何か与えるべきでは?」
「いやまあ、それはそうなんだけども……」
「アレですか、釣った魚にはもう用は無いのですか? 違いましたね、こうして鑑賞のために外へ出して、また元に戻してとより悪辣な振る舞いを──」
「…………ちょ、ちょっと考えさせてください。いろいろ準備しますんで」
ただまあ、彼女には彼女自身の意思があるわけで……俺が思っている以上に、眷属たちにサービスしようとするんだよな。
◆ □ ◆ □ ◆
E1 始まりの草原(南)
「ふぅ、これでメルス様の言いたかったことはお伝えすることができましたね」
わたしたちの主、メルス様はどこまでいこうともその本質が変わらない。
それは良いことでもあり、悪いことでもあり……好ましくもあり、悩ましくもある。
一歩進んで二歩下がる、メルス様の世界にあるその言葉が相応しい。
ただ、メルス様の場合はその一歩の幅が尋常では無いほどに広いのだ。
「ああして、通訳しないと真意を伝えることも難しいですし……まったく、仕方がありませんね」
メルス様がああだからこそ、わたしという存在に意義を見出せる。
もちろん、そんなことせずともメルス様はわたしを必要としてくれるのでしょうけど。
「『眷属のイイところを見たい』、それだけでしたらそう仰ればいいでしょうに……ご期待に応えねばなりませんね」
皆様には伝達済み。
各戦場で、メルス様のご期待通りの活躍をしていることでしょう……と、メルス様の思考経由でその光景が映ります。
だからこそ、わたしもまたそれ以上に活躍しなければなりません。
……今回の制度、より目立った方が良いみたいですので。
わたしが今居る場所、草原フィールドの南側に集まってきた多種多様な魔物とPK。
まずは目印を、より派手に惹きつけられるようなモノを。
「『再現武装0001』──開け、宝物庫」
腕組みをしているわたしの背、その宙に現れた無数の穴。
メルス様もよくやっている、例の英霊の真似事……その真似事ですね。
そうなれば、これからやるべきことなど知れたこと。
現にPKたちは、すぐさま逃げ出すべく魔物を置き去りにして走り出していた。
「──良い開幕ですね。どうか、死に物狂いで謳ってください」
逃すつもりはない。
展開した武器は、視界に映るすべてを容赦なく刺し貫いていきました。
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