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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と新人イベント その07

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 街で偶然見かけたエイブルと共に、どぶ攫いの[クエスト]を行うことに。
 途中、今までの待遇に同情して、生活魔法のスキルを渡したりしたが……順調だった。

 そうでは無くなったのは、どぶ攫いを一通り終わらせた後のことだ。
 自由民の女性がエイブルに近づき、何やら声を掛けていた。


「メルスお兄さん……その、別の場所もやってほしいと頼まれたんだけど……」

「……ああ、いいぞ。むしろ、俺に聞かないでどんどんやってくれて構わない。俺もこういうのは好きだからな」

「ありがとうございます! それじゃあ、そう答えてきますね!」


 そんな自らのポリシー、つまり偽善に則った返答をしたのがすべての始まりだ。
 オチは見えているだろう……そう、終わらないどぶ攫いが幕を開けた。

 どうやらどぶ攫いは、チェインクエストの要素も持っていたらしい。
 チェイン、つまり連鎖して[クエスト]が何度も発生するということだ。

 しかもこれ、クリアすればするほど手に入る報酬やポイントが増えている。
 普通に初心者がやった場合も、肉体的に苦労はするが相応の結果が得られただろう。


「……本当は、この[クエスト]ってここまでやらなくていいんです。ただ、全然みんながやらないとこうなります」

「なるほど、祈念者がこういうところで貢献していれば、そこまで頑張らなくてもいいのか。でも、途中で止められるんだろう?」

「はい。でも、ここの人たちもとっても困っているみたいだから……ずっと溜まっていると魔物も出てきちゃうみたいだし」

「…………逆にそれを望んで、放置する祈念者も居そうだな」


 エイブルがどぶ攫いを始めたのは、俺と出会い自由を手にした後らしい。
 初めは種族が『呪人』だったこともあり、かなり警戒されていたようだ。

 それでも真摯に取り組む姿を見て、街の者たちも態度を改めた。
 結果、どぶ攫いの最中に挨拶されるぐらいに慕われるようになったらしい。

 ……なお、今の俺は畏怖嫌厭の邪縛を開放しているのでかなり警戒されている。
 エイブルのように、誤解を解く要素も無いので完全に無視をされていた。

 まあ俺のことはともかく、エイブルは日々コツコツとどぶ攫いをやっているらしい。
 多くの祈念者はすぐにこの街を出ることを目指すので、大して知られていないようだ。

 そんなどぶ攫いの[クエスト]を、エイブルは住民たちから直接受けていた。
 初めは冒険ギルド経由だったそうだが、途中から率先して行っていた結果なようだ。

 仲介料などギルドが損をすると思ったが、その辺は上手くやっているらしい。
 住民たちが何かやっているそうだが、エイブルはよく分かっていなかった。


(…………まあ、エイブルへの指名依頼でも出しているんだろうな。頼まずともやっているけど、報酬の割り増しにはちょうどいいだろうしな)


 無垢な子供が必死に頑張り、自分たちのためにどぶ攫いをしてくれる。
 そんな光景を見ているからこそ、住民たちも相応の対応をしているのだ。

 今までは冒険ギルドにも登録できなかったようだが、そんなエイブルのランクはすでに初期のF-からE-になっているらしい。

 もちろん、【呪与王】や固有スキルの力で魔物狩りでもすれば楽勝だろう。
 しかし、純粋に奉仕活動のみで上げているようなので、かなり凄い……本当の善行だ。


 閑話休題ピュアなこ


 生活魔法のレベルも順調に上がり、エイブルは生活魔法の種類を増やしていく。
 レベルに準じて魔法を覚えられるのだが、その内容に興奮しているようだった。


「いろんな魔法が……ボク、使える魔法は全部暗いものばっかりで」

「まあ、【呪与王】に関する魔法ばっかり習得させられているみたいだもんな。けど、生活魔法は適性とはほぼ関係なく魔法が使えるからな。好きな属性を使ってみるといい」

「えっと…………ら、“発光ライト”! うわぁ、本当に光りました!」


 エイブルが発動したのは、指先に光を灯すごく簡単な魔法。
 生活魔法の中でも、割と初期に手に入る魔法だが……その目はとても輝いていた。

 なんというか、自分が汚れていると見せつけられている気がしないでもない。
 ただ便利さを求めるだけでは、エイブルのような純粋な喜びは得られないのだろう。


「あっ、でも……」

「どうしたんだ?」

「HPが減っています。たぶん、ボクの種族だと光属性が上手く使えないんです」

「……なるほど」


 そりゃあ『呪人』だし、かつて(模造)天使が聖属性への脆弱さについて話していた。
 同様に、光属性であろうと問題が生じてしまうのだろう。


「つまりアレだな、これはチャンスだぞ」

「……チャンスですか?」

「そうだ。そうして光の魔法を使い続けていれば、自然と光耐性スキルが育つ。祈念者だから光魔法スキルも習得できるようになるだろうし、もしかしたら新しい種族の進化先が出るかもしれないぞ」

「ほ、本当ですか!?」


 実際、弱点を持つ種族の中には、そうして耐性で弱点を克服することを条件とした派生先があるモノも多い。

 アンデッド系など、露骨に聖属性への耐性が低い種族が該当している。
 相反する力を操る……というのは、やはり定番なのだろうか。

 だが、それより何よりも。
 せっかくの縁だ、望むというのであればその先へと導こう……紛い物ではあるが、資格はあるのだ──煌く道へと連れていこう。


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