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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目

04-09 撲滅イベント 前哨戦その01

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「ご、ご主人? これは……いったい」

「おっ、来たかフェニ。これ、が何のことか分からないけど……まあ、よく来てくれた」

「ご主人が行っていること、そしてここの光景……そのどちらもが疑問だ」

「んー、一つ目は武術のレベリング。二つ目はフェニを出迎えるために整えてみた、綺麗だと思わないか?」

 天空フィールドは現在、紅蓮のように真っ赤な花が咲き誇る場所になっていた。
 フェニ歓迎用の魔改造が施され、赤い光景が一面に広がっているわけだ。

 俺はそんな花畑の中心で糸を操っていた。
 そこに魔力や気力を注ぎ込み、先に繋げた人形を操作している。

 人形には鎧を装備させており、そこへ魔力MP精気力APを籠めることでその性能を僅かながらに高めている……うん、できる限り両立しようとした結果であった。

「正規の客だと、フェニが最初だな──ようこそ、『天空の城』へ」

「いつもここにご主人は居るのか? 立派な居城ではあるが……寂しくは?」

「いや、これっぽっちも使わないお飾りの城だな。この場所そのものが、も前に言った向こうの世界の知識から流用したデザインなんだが……城もその一つなんだ。だから、使わなくても建てたってわけだな」

「つまりは、おまけであると。そのようなことができるのは、ご主人だけだな。城を建てたいと願い、それを望むだけで実行に移せる存在がどれだけいることやら」

 現実ならともかく、この世界ならわりと居る気がするな。

 魔法でもいいし、スキルでもいい……たとえば【迷宮主ダンジョンマスター】などであれば、DPダンジョンポイントを消費すれば城を購入することもできるし。

「──で、これらを束ねたのがこの花束だ。指輪以外にそれらしいものも用意できなかったからな……受け取ってくれるか?」

「ぜひにも」

「[アイテムボックス]の中に入れれば、保存できるからな。時間劣化は免れないが……心配なら、“時空庫ストレージ”を共有してそっちに入れておくのもいいと思うぞ」

「では、後者を。せっかくのご主人からのプレゼント、枯らすわけにはいかない」

 まだイベント前だし、魔力が減ってもポーションで補えば問題なかろう。
 さて、俺たちは無事にイベントへ向かうことができるのだろうか?

 ──待ち合わせも済んだし、とりあえず始まりの町へ向かおう。

  □   ◆   □   ◆   □

 ピンポンパンポーン

 さぁ、みんな集まったかなー?
 ……よしよし、結構な数が居るね。

 さて、これからイベント用の時間加速エリアにみんなを転送するわけだけど……公式の情報を見ていない人のために、飛ばす前に注意事項を言っておこうかな?


 一つ目、これから向かうエリアはリア充組と非リア組で別々になっているよ。
 もしパーティーの中で違う派閥に属する人が居たら、そこは強制解消になっちゃうからスパイとかは無理だね。

 で、チーム分けが終わってから三時間もすれば──戦闘開始!
 エリア内で二十四時間が経過するか、どちらかが全滅するまでイベントは続くよ。


 二つ目、イベントで競うのは討伐ポイントという、みんなのレベルを基に与えられるポイントだよ。

 ただし、人数差とかレベル差があるから、そこは決して平等じゃ無いことを先に言っておくよ……計測方法は自分で見つけてね。


 三つ目、これは特定の人にだけ言うんだけど……分からない人は気にしないでね。

 コホン……今回のエリアは前回と違って、いくつか対策は仕掛けてあるけど、どういう手段かこちらでも判断できていない。

 だから、同じことはしないでほしいって言われているんだ。
 それならそれで逆探知ができるって、おまけに言っていたけど。


 ──と、ここまでが説明でした!

 ちなみに、このメッセージの意味が理解できるの一人、それは例のイベントスタートのきっかけになった祈念者だよ。

 運営の方で決まったんだけど、その人を討伐できた人には特別な報酬が用意されるみたい……今のメッセージも関係しているね。

 それじゃあ、さっそく転移させるよ。
 みんなで頑張って、リア充やその人を晒し者にしよう!!

  □   ◆   □   ◆   □

 イベントエリア

「…………」

「…………ご主人」

「……何も、言わないでくれ」

 始まりの町でアナウンスを聞き、足元に広げられた魔法陣からこの地に降り立った。
 隣にフェニが居ることに安堵するが……それと同じように、胸の中がもやもやとする。

 三つ目のアナウンスは、間違いなく俺のことを言っていた。
 おそらくエリアの簒奪が、彼ら的に不利益がある行動だったのだろう。

 なので今回は脅し、それを予め阻止したわけだ……人が居るフィールドじゃないみたいだし、最初からやる気は無かったけど。

 それに、メッセージを受け取れるヤツが複数いるような言い方だったが……祈念者の中に該当するの、俺だけじゃないか。

 この場に居る者、という意味ではフェニも該当しているが……エリア強奪に関しては、俺単独によるものだし。

「とりあえず、リア充組の他のメンバーと合流しようか。単独行動を取るにしても、他の奴らの行動を知っておきたいし」

「となると……向こうか。ご主人に配慮したのか、少し離れた場所に転送したようだな」

「称号を持っている奴の転送場所は、調整していたのかもな……よし、行こうか」

 現在、俺たちは山の上に居る。
 辺りをスキルで調べてみたところ、もう一つのグループ……本来の同朋たちは、その下のかなり離れた場所に転送されたらしい。

 ここは特に木々も生えていない、台地のような場所だ。
 何もしなければ、非リア組に囲まれて逃げられなくなるようで背水の陣みたいだな。

 そんな場所の、ちょうど中心で一人の男性祈念者が代表者として何かを言っている。
 周りには彼のメンバーと思わしき者たちが集まり、列になって横に並んでいた。

「んー、見覚えがあるようなないよな」

「ご主人の知り合いが混ざっているのか?」

「いや……そのはずは、ないんだがな……不思議と既視感があってな」

 声を出している、社会人ぐらいの青年。
 それに……並んでいる黒髪の少年・・や金髪ツインテール少女、他にも数人見たことあるようなないようなって感じなんだよ。

「まあ、たぶん町で顔を見たことがあるとかそういう感じだろう。もしかしたら、近づけば分かるかもしれないし、とりあえず合流しておこう」

「うむ、ご主人の言う通りに」

 というわけで、声が聞こえてくる辺りまでこっそりと合流する。
 超級隠蔽とは、それが可能になるぐらいハイレベルなスキルなのだ。

「──というわけでだ。一先ず、ここの指揮は『ユニーク』とそのリーダーであるこの俺『ナックル』に任せてもらいたい。分からない奴のために行っておくが、いちおう固有職【拳聖】に就くぐらいの実力はあるぞ」

「……フェニ、【拳聖】だってよ」

「職業だけであれば、それなりに実力があるのだな。しかし、あの程度であればミント殿の力を借りずとも我ひとりで倒せそうだ」

 俺の超級鑑定を借りたのか、そんなことを言いだすフェニ。
 開示率も半端なくなっているので、どうやら彼のレベルを暴いてしまったようだ。

「反対意見は無いか? …………無いようだし、とりあえず俺の指示に従ってもらう。始めに言っておくが、例のプレイヤーを探す気はない。俺たちのクランメンバーでもないみたいだし、疑心暗鬼は嫌だろう?」

「──よく見たら、『ユニーク』のメンバー全員集合じゃねぇか」「闘技大会参加者、それにあとで出てきた固有スキル持ちなんかが所属してる最強クラン!?」「……ってことは、優勝者の『模倣者』もいるかもしれねぇな」「だろうよ、アイツ嫌われ者だし、間違いなく処刑するために呼ばれてるだろ」

 疑心暗鬼、全開だよ。
 というか『模倣者』──俺、そこまで嫌われるようなことをした覚えはないんだが。

 さらに処刑とかいう単語も入っているし、どうやら今回の諸悪ということはバレていないようだが、それでも別の理由で殺されてバレる気がするな。

「──いいか、これからここに居る奴らをいくつかのチームに分けさせてもらう。武闘、生産、魔法、斥候の四つだ。それぞれに俺たちの誰かが居て、リーダーを務めて指揮を行う予定になっている」
「自分がこの四つの中で、とりあえずどこかに適していると思う場所に移動をしてくれ。変更も後で考えるから、自分の職業やスキルに合いそうな場所を選んでくれればいいぞ」

 とまあ、次の指示が入った。
 彼のクランメンバーはどうやらそのチームごとに並んでいたようで、それぞれの場所で呼びかけを行い始める。

「ご主人、我らはどこへ?」

「好きなところでいいぞ。俺はどれでもできるわけだし、どうせなら……うん、フェニといっしょの場所の方がいい」

「! ……で、では、魔法の集団へ」

「そ、そっか。じゃあ、そうしよっか」

 実際にいっしょに居られる時間がどれぐらいなのか、それは彼らのグループ分けに左右されるけれど。

 ただ、できる限りはいっしょにいたいな。
 嬉し恥ずかしなリアクションを取ってくれたフェニを見ると、改めてそう感じるよ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「私が魔法チームのリーダーをさせていただきます、ノロジーと申します。ちなみに固有魔法は【化学魔法】、これは皆さんの信頼を得るためにお伝えしておきます」

 すべての祈念者がどこかへ移動したところで、それぞれのチームでリーダーが説明を行い始める。

 目の前で話す白衣を纏った少女も、ここに集まった祈念者を視界に収めながら話す。
 ……しかし、固有魔法を開示するのか。
 もしかしたら、別の意図があるのかもな。

「今から皆さんには得意な魔法の種類ごとに別れてもらいます。属性魔法、回復魔法、支援魔法、その他の魔法──今回はこの四種類です。そしてグループ内で、またさらに班を分けさせてもらいます。何か質問は?」

「はいはいはーい! じゃあじゃあ、今から全員で自己紹介とかした方がいいと思いまーす! あっ、俺はハウルで、(炎魔法士)をやってまーす!」

「……そうですね。皆さんの得意魔法を判断するには、ちょうどいいかもしれません。では……ご自身の得意な魔法、それに職業や特殊なスキルがあれば言ってください」

 チャラ男っぽい祈念者の発言で、なぜか自己紹介をすることになる。
 こういうとき、自分の意見を主張できるのがリア充なんだろうか?

 しかし……ここまでくると、フェニと別れてしまうことになる。
 予め決めていた、偽装ステータスとの齟齬が出てしまうからな。

 ちなみに偽名などもバッチリ決めてある。
 俺はノゾム、職業は(放浪者)で得意な魔法は強化魔法。

 フェニはクース、職業は(炎魔法士)で得意な魔法そのまんま……実際には紅蓮魔法を使うのだが、そこは職業補正と種族の効果でブーストされていると偽る予定だ。

 鑑定を受けようと、上級鑑定に看破系のスキルを重ねない限りバレない仕掛けである。
 魔道具の効果だが、【生産神】謹製とはそれだけの性能を誇るのだ。

 俺たちは、そんな偽名と職業やスキルを自己紹介として伝えておく。
 周りの者も特に誰もツッコまず、そのまま別の者が名乗りを上げていた。

 中でも、『ユニーク』のメンバーが名乗ったときは盛り上がりをみせる。
 さすがはリア充組、そういうのが全自動でできるスキルでも持っているのかも。

 ちなみに、ここにいる『ユニーク』のメンバーはそれぞれ──

『先ほども申しましたが、ノロジーです。得意魔法は【化学魔法】で、化学反応を用いた現象で戦えます』

『私はセイラと申します。恥ずかしながら、【聖女】の職に就き、皆さまの回復と支援を主に行わせてもらいます』

『アルカよ。固有スキルは【思考詠唱】で、魔法は何でも使えるわ。あと……そうね、もし『模倣者』を見つけたら私に連絡して。すぐに駆けつけて──ギャフンと言わせるわ』

『僕はユウ。職業が固有職の【断罪者】で、固有魔法の【陽光魔法】を持っているよ。アルカと同じで、見つけたら連絡してほしいかな? えっと……斬撃を飛ばせるよ』

 ──後半、もう魔法チームの代表者としての話からだいぶ逸れていた。

 近くで見て思いだしたが、どうやら二人は闘技大会の対戦者だったようだ。
 まあ固有スキルを持つメンバーばかりなんだし、そういう因果もあるってことか。

 ……これ以上、揉め事とか無いよな?

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