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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と新人イベント その06
しおりを挟む始まりの街
PK連中の目的を、【暗殺王】ことチズから確認した。
高い報酬を支払っている彼女や『陽炎』、あとおまけのリヴェルに後のことは任せる。
なんだかんだ強い三人組なので、PK程度ならばなんとかなるだろう。
……一人だけ厨二病も混ざっているが、それなりに力はあるからな。
「──あっ、メルスお兄さん!」
「……君は、エイブルか」
「覚えていてくれたんですね!? ボクもあれから、メルスお兄さんとノゾム君の名前をずっと憶えていたんです!」
「そ、そっか。俺もそんなところだ…………いろいろとインパクトが強かったからな」
陣営イベントの際、遭遇した子供。
邪神の邪縛で行動を制限され、そのうえで超級職に就いていたという才能の塊。
ゲーム的要素以外、ピュアっピュアな無垢そのものなエイブル君だ。
ちなみに種族『呪人』、職業【呪与王】とそちらはかなりアレである。
この子の邪縛を解き、自由にしたからこその懐かれっぷり。
……だと思いたい、この子についてはあのとき会っただけだからな。
「あ、あの、メルスお兄さん! 今、お暇ですか!?」
「えっ、あ、うん……大丈夫だぞ」
「な、なら──ボクと[クエスト]を受けてくれませんか!?」
イベント中、ポイントを貰えるのは別に新人だけではない。
後で知ったことだが、新人にだけポイントが多めに付くだけのようだ。
そのポイントをどう使うかによって、彼らはスタートダッシュを切ることができるかどうかが決まる……攻略サイトだと、その使い方が紹介されていたりもするらしい。
「うーん、それは構わないが……あんまり強い魔物を倒す自信は無いぞ」
「えっと、こういう[クエスト]なんですけど……ダメ、でしょうか?」
エイブルがSSを撮った[クエスト]の画面を見て、俺は少し考えた後……首肯する。
そのときの嬉しそうな表情ときたら……とても純粋な笑顔だった。
◆ □ ◆ □ ◆
クエストの難易度が高ければ高いほど、用意される報酬とポイントは高くなる。
だからこそ、普段なら慎重な新人たちも大胆に難易度の高いモノを選んでいた。
エイブルが選んだ[クエスト]を受け、俺たちは依頼の場所へ向かう。
そして、改めて依頼主から説明を聞き──どぶ攫いを行っていた。
「ほ、本当に良かったんでしょうか? メルスお兄さんにこんなことを……」
「ん? まあ、やったことは無かったけど。新鮮な体験ってことで、別に気にはならないぞ。それに、この世界は魔法もあるからな。汚れたらすぐに綺麗にできるぞ」
「あっ、知ってます! 生活魔法って魔法ですよね……でもボク、まだ生活魔法は習得していなくて……」
魔力さえあれば、誰でも使える仕様になっている生活魔法。
そんな仕様だからか、最低限のSP消費で祈念者は生活魔法スキルを習得できる。
だが、イベント時に見たエイブルの保有する魔法は、闇魔法だの呪与魔法だの、邪魔法だの好印象を持たれそうにないモノばかり。
他にもその補助となるスキルやら、上位や複合系のスキルが取り揃えられており、本来祈念者が取っておきたいスキルのほとんどを取る余裕が無かった。
「うーん…………なら、これを使うか?」
「こ、これって……スキル結晶ですか?」
「ああ、一個使えば習得可能になって、何個か使えば必要なSPが軽くなるんだが……たくさん使うことで、SPをいっさい使わないでスキルを習得できるんだ」
「へぇ、知らなかったです。メルスお兄さんはとっても詳しいんですね!」
なお、これは割と知られている。
スキルの自力習得……というか、SPを消費しないでスキルを得られる方法は、祈念者にとって貴重な情報だからな。
ただし、同じスキル結晶を複数個、それも価値のあるスキルを、というのが難しい。
スキルは保有している数が多いほど、スキルの成長にペナルティが設けられる。
それでも生活魔法のスキル結晶は、割と多く流通している物なので問題ない。
誰でも習得できるスキルだからこそ、自由民も自力で取っているからな。
「で、でも、いいんですか? とっても貴重な物なんじゃ……」
「いいんだよ。どうせ、もともと余らせていたモノだから。必要としている人が、それを手に入れられる方が俺は嬉しいよ」
「……うぅ。お、お礼はちゃんとします!」
「いや、大丈夫だからな……それより、早く習得しちゃいなよ。すぐに汚れるんだから」
申し訳なさそうにするエイブルを説得し、どうにか生活魔法を習得させる。
持っていて困るようなモノでも無いし、これからはしっかり使ってもらおう。
そんなやり取りを終えた後は、再びどぶ攫いを行うことに。
澱みを集め、ゴミを片付け、仕上げに魔法で流れを整えていく。
仕上げに生活魔法“清浄”を掛ければ、側溝は綺麗になる。
エイブルにも練習として何度も“清浄”を掛けてもらい、[クエスト]を進めていく。
「この通りの側溝を全部綺麗にすれば、たしかクリアなんだよな?」
「はい! あっ、でも時々追加で頼まれることがあるんですけど……大丈夫ですか?」
「ん? ああ、それぐらいなら。そこまで多くないだろう?」
「……はい、一つずつは」
つまり、複数だと違うわけだ。
とにかく、今はやっている場所に専念した方がいいだろう──魔法を使い、サクサクと掃除を終わらせていった。
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