上 下
2,458 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と新人イベント その04

しおりを挟む


 ??? クランハウス『エニアグラム』


 俺に課せられた使命、イベント中に悪さを企てるPKの排除を済ませた。
 そのために、[ロウシャジャル]の能力をディーに使ってもらうなど大盤振る舞いだ。

 彼らのアバターをオリジナル魔法で回収しており、利用することを目論んでいる。
 とりあえずは[アイテムボックス]に収納してあるので、必要になれば出す予定だ。

 死霊を憑りつかせて操るのも有りだが、そこまで使い道も思い浮かばない。
 まあ、最悪処理をすればいいだけだし、持て余しておくことに。


「さてと……ご苦労だったな」

【……あの程度でしたら……】

「さすがだな。ふむ、報酬は──」

【……今一度、機会を……】


 俺のクラン『エニアグラム』。
 そのクランハウスに隠された一室、呼び出していた三人のメンバー。

 仲介役のリヴェル、未だ正体不明の暗殺者『陽炎』、そして【暗殺王】チズ。
 今回、リヴェルを介して二人に依頼をしていたのだが、先に『陽炎』が成し遂げた。

 彼らへの報酬は特に決めておらず、毎度彼らに益のあるモノを提供している。
 いつもなら、アイテムの支給などで済ませていたのだが……今回は違うようだ。


「今の俺は縛り中だが、そのままでもいいなら構わないぞ」

【……まだ一度も勝てていない身、それらに意は申せません……】

「そうか。分かった、それじゃあさっそく始めると──気が早いぞ、せめて舞台には移動させてくれよ」


 発言の最中、振るわれた刃を魔力で構築した障壁で防ぐ。
 普段なら精気力で腕を硬化して防いだりするのだが、短剣は障壁に食い込んでいる。

 そのまま塗られた毒で死ぬというのが、本来の流れだ。
 だからこそ、自分から少し離れた場所で展開できる障壁を構築していた。

 求めていたのは戦闘の機会だが、『陽炎』がわざわざ正々堂々する必要も無い。
 それでも、これ以上は無駄だと判断したのか、短剣を仕舞い移動を行う。


「……なあ、アンタも見に行くのか?」

《なにか、ひつようになるかもしれません》

「あっ、観戦が報酬ってことで。それなら別にいいだろう?」
《……しかたありません、それにします》


 他の二人もまた、俺と『陽炎』の試合──死合を観戦するようだ。
 いちおう『陽炎』の方を確認するが、問題ないようで首肯している。

 なのでそのままクランハウスを拡張して確保した、模擬戦用の部屋に。
 そこまで広くはないが、闘技場と同じ仕組みは組み込んであるので全力で闘える。


「じゃあ、改めて。いつでもいいぞ」

【……では……】


 何かしたのか、突然光が発生。
 そしてその次には闇が辺りを覆い、霧やら冷気やらさまざまなモノが生成される。

 魔力で視覚を強化し、『陽炎』を見失わないようにしていた。
 だが無数の魔力現象を重ねることで、強引に姿を隠したようだ。

 まあ、それだけが探す手段だったわけじゃないので、問題ない。
 腕に装着される漆黒の大砲、そこに魔力を供給して前方に構える。


「──“法填”」


 発射された砲弾は、筒の色と相反して白い輝きを放つ。
 法の潔白さを示すように、地面に着弾して辺りにその影響を広げていく。

 だが、姿の見えない『陽炎』にその弾丸が当たることは無い。
 ……だからこそ、打ち込んだ砲弾を媒介に能力を発動させる。


「──“法区印”」

「──ッ」

「業値に応じたデバフが起きるぞ。お前ぐらいの犯罪者だと、長時間の潜伏は無理だろ。これが『御砲纏影[ロウシャジャル]』、俺が創り上げた人造ユニーク種の遺製具レリックだ」


 夢現祭りで討伐された個体も、まったく同じ遺製具をMVP獲得者に与えただろう。
 人造ユニーク種の数少ない欠点、それは遺製具が獲得者にアジャストしていないこと。

 その点から目を瞑れば、普通に能力は破格のものだ。
 特典に合わせてもらうのではなく、自分が合わせに行けば問題ない。


「そしてこれが──“罪亡き法弾ロウシャジャル”だ」

「──」

「分かりやすく言うと、業値がマイナスならほぼ即死だな。即死を回避する、また即死を無効化する能力なんかも全部無駄。とまあ、見ていた二人もご理解いただけたか?」

「《…………》」


 この場に居る三人とも、自分の行動原理を貫くためにある程度の殺しをしている。
 そのため、業値もマイナスになっているので……誰でも結果は同じになっていた。

 まあ、マイナス度合いで即死までの猶予はある程度あるし、回避する手段もある。
 あくまでも、彼らでは抗いようのないレベルで危険な技だったというだけだ。


【……お見事、です……】

「あー、悪いな。これを使うのは、以降最終手段にしておく。いちおう、絶対対処不可というわけじゃないから、使わない状態で俺に勝ったら再度使う……って形にすればいいだろう」

「うわー、まだ使う気なのかよ」
《……かなり、くせんしそうですね》

「二人も同じ条件にしてやるよ。勝ったら、俺に叶えられる限り何でも聞いてやるって条件はそのままにな。どういう方面でも、勝てる奴を探しているんだ、スポンサーをやっている分、期待しているんだぞ」


 新人ではないが、目を掛けているという点では彼らもまた同じこと。
 さて、チズに頼んだことの近況について確認しておかないと。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...