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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と砂漠の旅 その18

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 ──彼女にとって、男とは害悪だ。

 天使のような妹に近づく邪な存在。
 そして、自分の魅せる踊りや舞に身勝手な情欲を抱き、手を出そうとする下等生物。

 ……一部、女性からも誘いを受けたことはあったが、妹の性別が分類学上女性であることも加味し、立場が違えばと思い、否定はすれど嫌悪することは無かった。

 そして今回、彼女は少年と出会う。
 否、正しくは少年として振る舞う偽りだらけの男と。

 彼女はその鋭い感性から、姿も口調も主義主張も上辺の物だと気づく。
 だが、話す内容に偽りは無かったし、何より──邪な視線がまったく無かった。

 初めは同性愛者かとも考えたが、家族について語る彼の姿でその考えも改める。
 結果、信用はこれっぽっちもできないものの、多少は信頼できるという認識になった。

 妹を攫ったのにも他でもない妹自身の主張があったし、再会した妹からはこれまで訊くことができないでいた本音を聞くこともできた──不服はあるが、概ね納得している。

 なので──半殺しぐらいで許してやろう、妹と話し終えた彼女はそう思っていた。
 ……が、その考えもまたすぐに改まり、やはり殺した方がいいのでは? と思う。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「──冗談じゃない! この娘を、最前線に連れていく!?」


 Zに人手を集めてもらった理由、それは彼女と(主に)少女を守ってもらうため。
 先ほどまで『サイバーワールド(β)』を使っていた少女は、かなり成長している。

 だが、レベルは上がり魔物との戦闘経験を積んでいようとも、姉の過保護が終わることなど無い──そしてその扱いは、妹からまた自信を削ぐことになってしまう。

 現に、俺の提案を聞き彼女は首筋に短剣を突きつけている。
 ……少女が俺の死を見ないよう、立ち位置まで配慮してなお、まだ気づかない。


「お姉さん、まだ気づいていない……じゃないか、気づいていても気づいていないフリをしたいんだね。うんうん、僕もお兄ちゃんだから分かるよ。でも、僕たちの場合は義妹の方が強いからね……分からされちゃったよ」

「…………何がよ」

「上が頑張っている姿を見て、下の子がそのままで良いと思うのなんて稀有なんだよ。そして、この娘にその例外は当て嵌まらない。強くなったらその分だけ、お姉ちゃんといっしょに頑張りたいって思うものだよ」

「たしかに、強くなったのは認める。やり方は分からないけど、ただレベルを上げただけじゃなくて振る舞いも整っている──でもダメ、アレは危険過ぎる! アレは死なない祈念者にでも任せておけばいいじゃない!」


 そう、俺の提案は[ディザント]討伐に参戦しようというもの。
 出現場所は陽炎都市からかなり遠いので、街を襲ってくる心配は無い。

 なので彼女としては、全部祈念者に押し付ける予定だったようだが……。
 どうせなら、その場を少女のデビューの場としようというのが、俺の提案だった。

 当然、意見が違えば主張はぶつかる。
 より強い『力』を持つ者の主張が通りやすく──この場において、もっとも『力』を有するのは彼女だった。


「祈念者に任せる、かぁ……あの人たちも、別に善意で動いているわけじゃないのに? 彼らが動くのは、名誉が欲しいから。そして何より、死んでもやり直せるっていう権能を全員が持っているからだよ」

「……それでも、最後には勝てるでしょ」

「少なくとも、自分たちの犠牲は度外視だけどね。さすがに街への誘導なんかはしないと思うけど、それでも何かしらのトラブルは引き起こすんじゃないかな? 具体的には、責任の追及とか物資の奪取とか……」

「それこそ…………うぐぐ」


 知ったことじゃない、ごもっともで。
 しかしながら、そんなこと言えない──今彼女の隣には、最愛の妹が居るのだ。

 心配して戦闘への参加は許可しない、そこまではまだ主張も通る。
 だが、祈念者など知ったことではない、そう告げるのはまた別の問題なのだ。


「……うん、祈念者を助けに行くことに異論は無いみたいだね」

「…………」

「まあ、僕もちゃんと防御を手伝わせてもらうから安心してよ。心配だと思うなら、そうだなぁ──これを壊せる?」

「これぐらい……くっ、この、スキルは使っていないけど、硬ッ!」


 俺が周囲に展開した結界を、彼女は少女にバレないレベルで殺意を籠めて攻撃。
 しかし、結界はいっさいビクともせず、罅も発生しない頑丈さを見せた。

 スキルを使っていないとはいえ、女傑レベルの実力者が放つ殺気込みの本気。
 普通なら壊れるだろう……しかしこれは、安心安全のスークオリティの結界だ。


「ふふーん、これが自慢の結界だよ。これがあれば、心配は無いんじゃないかな?」

「…………最前線、じゃないわよね?」

「さすがにそれはねー。この娘の願いは、そういう分野じゃないからね。うん、いっしょに居ればいいと思うよ」

「そうさせてもらうわ。ハァ……まったく、どうしてこうなるのかしら。それもこれも、全部あんたに出会ったせいよ。私もこの娘も変えられたわ」


 彼女も渋々と許可を出した。
 後ろをチラリと確認すれば、Zがこくりと頷いている……準備ができたようだ、それでは行ってみるとしよう。


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