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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と砂漠の旅 その17

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 古代遺跡、そして[ディザント]から脱出するため、転移装置を弄っていた俺。
 協力者兼俺の殺人希望者である『舞姫』に対し、俺はある要請を行っていた。


「空間属性の魔力は僕が用意する。だから、お姉さんには少しでも魔力の回復が早まるような歌とか踊りをお願いしたいんだ」

「……できるの?」

「できるかじゃなくて、やれるかだとは思うけど。うん、これは僕にとっても必要なことだから」


 本来、スキルの補助無しで魔力の属性を選別するのはかなり難しい。
 すでに魔力選別スキルを得ている俺でも、空間属性のみを引き出すのは苦労する。

 それでも、装置を安全な形で起動させるにはこれしかない。
 祈念者なら誰でも良かったが、自由民の場合は適性が必要だからな……。

 今回は俺がそれを担当し、彼女には自然回復速度を高める補助をしてもらう。
 そういった歌や踊りがあることは、俺自身使ったことがあるので間違いない。


「それに、ここから強引に脱出する手段をお姉さんは持っていない」

「…………」

「もちろん、その短剣と才能で腹を突き破るなりすれば、出れるかもしれないけど……転移で一瞬で出られた方がいい、でしょう?」

「……そうね、私も信用はしないけど少しだけ信頼してあげる。これっぽちもしたくないけど、今回は特別──“奉儀”」


 聞いたことの無い単語を呟くと、彼女はその場で舞い踊り始める。
 短剣を振り、足踏みで何かを描き、特殊な言語で歌を奏でていく。

 戦闘時に見せたのは三つの組み合わせだ。
 しかし、今回のソレはそれらを同時に行うことで真価を発揮するのだろう。


「──『儀題・天女の憩い場』」


 儀式が完成すると、俺の消費していた魔力がぐんっと回復しだす。
 すぐに装置へ溜まった分を注ぐが、一向に魔力が尽きないまま注げていく。


「~~~~♪ ~~♪」
「──そう長くは持たないわよ」

「はーい、分かりましたー」


 二枚舌、あるいはそれ以上の能力で歌と会話を並立させる彼女からの忠告。
 どうやら彼女もかなり集中しているみたいで、汗をどんどん流れ出ていた。

 つまり、俺からの反撃を警戒することも止め、脱出に力を貸してくれているのだ。
 それを受け取り、せっかくだからと更に速度を上げるべく魔力を大量に消費する。


「──“限界突破”!」
《思考加速、身力操作、脱力、並列思考、拘束思考、細胞活性、血管強化、感覚強化、瞑想、冥想、精密操作、思考強化、活魔、空間把握、属性選別、並列行動、集中、無心》


 意識するのは脳のリミッター解除。
 現在、行っている魔力供給を可能な限り速めるためにより綿密な操作が必要だからだ。

 身力操作で体と装置を繋ぎ、そこから空間属性の魔力を流し込む。
 集めた魔力を選別し、必要な箇所に適当な量だけ入れていく。

 量が足りなければ時間が掛かるし、超えてしまえば装置自体が壊れる可能性がある。
 それでも時間を意識し、可及的速やかに済ませるべく魔力を入れていく。

 装置は供給される空間属性の魔力の影響を受け、どんどん発する光を強める。
 そんな状態がしばらく続き、限界突破スキルの効果時間が過ぎた。


「ッ!? ~、~~♪」
「……もう、限界よ。私も……あんたも」

「──でも、完成したよ」


 俺は吐血を、彼女は疲労で顔面蒼白。
 それでもお互い、やるべきことをしっかりと行えた──その証に、転移装置が完全に起動していた。


「……僕を蹴落として、自分だけ行くこともできるよ?」

「それもいいわね……でも、あの娘にバレたら怖いから──ほら、行くわよ」


 差し出された手……なぜか震え、より真っ青な彼女の手をゆっくりと掴む。
 お互い、ふらふらな状態で転移装置の上に乗り──魔物の腹の中から脱出した。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 陽炎都市 Z商会


「……殺されないでミッションクリアだー」

『♪』

「あはは、ディーもご苦労さん。すぐに状況が変わってくれたことを察してくれた辺りもさすがだね」

『!』


 都市へ帰還後、すぐに俺をZ商会へ案内させた彼女は妹が眠る姿を確認した。
 ……同時に、その近くに居るスライムらしき魔物を殺そうとしたので焦ったモノだ。

 幸い、ディーは器用に白旗を作って振ることで敵意が無いことを示す。
 そこに俺とZの説得が何とか間に合い、討伐は何とか免れた。


「さて、問題は……」

「彼のユニーク個体が暴れている、ですね。お客様、捕縛は可能ですか?」

「……さすがにこの状態じゃ無理だよ。そっちこそ、捕縛部隊とか用意できないの?」

「残念ながら、当商会にそういった部門はございません。気紛れで、会頭が成されるかもしれませんが……今回は無理ですね」


 謎多きZ商会の長であれば、捕縛もできるかもしれないけどな。
 ……いちおう因子は腹に収まったときに回収したので、俺個人でやるべきことは無い。


「でも、ある意味ちょうどいいかな? あの二人が仲直りするにはZさん、一つお願いがあるんだけど」

「はい、何なりとお申し付けください」

「──人手、用意してくれるかな?」


 まだ完全にわだかまりは解けていない。
 それを綺麗さっぱり済ませるためにも、この流れに乗るべき──偽善者ムーブ全開で、姉妹の問題に手を出そう!


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