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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と砂漠の旅 その16

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 古代遺跡の奥に描かれていた壁画。
 そこにはかつて猛威を振るった固有種、その名前と能力の一部が載っていた。

 ついでに、過去に存在した職業の名前なども記載されていたのだが……うん、今は存在が忘れられているロストジョブの情報もあったので、その気になれば儲けられそうだな。

 会話をしながら遺跡の中を徘徊し、お宝と脱出手段を探す俺たち。
 結界に包まれていた遺跡は、当時の状態を保っていたが……ほとんど風化していた。


「たぶん、これが空間転移用の装置になるとは思うけど……これは」

「何よ使えないじゃない! これじゃあ、あの娘の所に行けない……どうするのよ!?」

「そもそも、これで飛んだ先がちゃんと今もあるのか微妙だしね。だってここ、古代の遺跡なわけだし」

「……なら、どうするの!?」


 本当にテンパッているようで、俺を激しく揺さぶって来る彼女。
 方法は無いでもない……が、彼女の協力無しでは不可能だろう。


「この装置の仕組みを解析して、一先ずこの腹の中から脱出する。そこまでだったら、僕でもできる……かもしれない」

「ッ、本当!?」

「ぐぇ……う、うん。ただ、少し時間が掛かると思うし集中もしたい。だから、もう少しここでお話に付き合ってくれるかな?」

「話? 集中したいときって、普通は独りで居たいものじゃないの?」


 機械系のスキルは習得していないし、この場で経験値を対価に習得する気も無い。
 どうせなら、この状況を利用して、何か得られないかなぁとか企んでいる。

 ついでに、意識して会話をするのはなかなかに意味のある行いだったようで。
 話術、会話、説得、韜晦、詭弁といったスキルを得ていた……誤魔化しまくったから。

 なのでもう少しばかり、彼女には会話に付き合ってほしかった。
 それに、集中したいと言っても彼女をここから出すのは……いろいろと惜しいからな。


「お姉さんは、あの娘と居る時間が一人で居る時間より集中できないの?」

「──そんなわけないじゃない。けど、私はあの娘じゃないし、会話に出てきた子たちでも無いじゃない」

「今、ここに話ができるのはお姉さんしか居ないし、アレだけ話が弾んだ相手の嫌がることなんてしないよ。もちろん、ここを出たらどうなるか分からないけど」

「…………なんだか気が狂うわね。まあ、どうせ敵も居ないんだし、今まで通りでいいなら構わないわ」


 そんなこんなで、俺は転移装置と思わしき魔道具の解析を試みることに。
 まずは一つずつ部品を外しながら、その構造をすべて記憶していく。

 刻まれた術式の脳裏に叩き込み、すべてのパーツに劣化が無いかをチェックする。
 結果、転送先はやはり過去の座標で、今は使い物にならないことが発覚。

 事前に空間魔法のテストで覚えていた座標に書き換え、再度使えるようにする必要ができた──とここまでやっている間も、ネタを切らすことなく俺は彼女と話していた。


「……魔物と共存している街、ねぇ」

「こんな姿だけど、僕はいちおう偉い人でもあるからね。エッヘン」

「…………全然そうは見えないけど」

「うん、よく言われる。でも、実際には高身長……になりたいほどほどの背丈ぐらいはあるんだからね!」


 はいはい、と呆れたように手を振る彼女。
 俺は不服を申し立てながらも、指先だけは休まず作業を続けている。

 術式を書き換えた部品を再び組み込み、装置そのものを修繕中。
 本来、地脈を使い負担の掛からない転移が可能だったが……それは無理みたいだ。


「手が止まったけど、どうしたの? まさか直せないって言うんじゃ──」

「ううん、装置そのものは直せたよ。ただ、起動に必要な魔力がちょっとね……」

「…………私、枯渇したままなんだけど」

「うん、だから──“失消フェイル”」


 彼女の魔力は俺がここに来た当初に、殺されないために奪っていた。
 正確には、微精霊に頼んで外部へ発散させた後……こっそり俺の下へ回していたのだ。

 しかし、それについては一切語らず、ただその魔法のみを解除する。
 再び魔力を溜め込めるようになり、彼女は十全な力を振るえるようになった。


「……いいの? すぐにでも殺せるわよ」

「そういうのにはもう慣れているから。この姿とは違う姿なんだけど、いっつも僕を狙うお姉さんが居てね。まあうん、信用はできないけど……信頼はしてもいいかな? まずは信じることから始めるよ」

「ふーん、まあいいけど。今殺しても、装置の正しい使い方が分からないしね。それで、その装置に魔力を籠めればいいの?」

「あっ、うん。座標は今の陽炎都市がある場所に設定してあるから、そこからはとりあえず自由行動ってことで──あ、ちょっと!」


 装置が直った→妹に会える、という方程式が彼女の中で構築されたのだろう。
 最優先すべき妹の下へ向かうべく、すぐさま装置を起動しようとする。

 ──だが、装置はうんともすんとも言わなかった。

「──ちょっと」

「変換機能が無いから、ただ魔力を注ぐだけじゃダメなんだよ。空間属性の魔力だけを選別して、それを注ぐ必要があるんだ」

「…………そんなこと、できないわよ」

「うん、僕にもできない。だから、もう少しだけ手伝ってほしいんだ。二人で力を合わせて頑張る、いわば共同作業だね…………冗談だから、短剣は仕舞ってほしいな」


 からかっただけなのに……どうやら俺に、そういう方面の才能は無いようだ。
 ともかく、今はしっかりとした説明をして協力してもらわないと。


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