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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と砂漠の旅 その11
しおりを挟む──『不退の天靴』。
それは【忍耐】の聖武具であり、武具っ娘の一人ニーの本体でもある。
いかなる状況であろうと、『踏ん張る』ことができる……それが創造のコンセプトだ。
「──“不動金剛”」
「ッ、硬い!?」
「ついでに“永続守護”っと。はい、これで僕を倒さないとあの娘の所に行けなくなったよ。だから、本気を出さないとね」
「……上等!」
俺の首を直で狙った斬撃。
雨の雫が切り裂かれるほど凄まじい剣閃ではあったが、俺の首はそう安くは無い。
ニーの灰色の輝きが全身を覆うと、刃が命中した瞬間──甲高い金属音を響かせた。
動かないことを代償に、超常的な防御力を得る……それこそが“金剛不動”である。
ちなみに“永続守護”は名の通り、指定した相手をどこに居ても守ることができた。
条件を満たせば、その場へ一瞬で転移も可能なので俺から離れても無駄である。
「──“演舞”」
「?」
だが、本気を出すと決めたらしい彼女が最初に始めたのは舞だった。
その手にした短剣を振り回し、雨の中を自在に踊っていく。
「──『演目・剣舞』」
「……へぇ」
演目とやらを言った途端、振り回していた剣の鋭さが格段に向上した。
踊りながら振るわれる剣は、途切れることなく無限の軌跡を描いていく。
対する俺は、下半身を決して動かさないまま応対を始める。
拳に纏っていた灰色のオーラを注ぎ、堅固となった己が手で剣を捌いていく。
「──“戦舞”」
「っ、まだ……」
「──『戦踊・激動』」
だが、彼女の本気はまだ終わらない。
続いて発動させたもの、『セントウ』とやらにより足を中心に強化が施された。
絶対に足を動かさない俺と、逆に足の動きが目まぐるしい彼女。
完全な防戦一方状態のまま──更なる能力が発動される。
「──“強歌”」
「何それ!?」
「──『曲目・競争曲:戦人の蹶気』」
そして、俺の知らない歌に関する力。
歌い上げる奮い立つような曲が、彼女──いや、『舞姫』に更なる力をもたらす。
舞と踊り、そして歌。
これらを自在に切り替え、相手を量で圧し潰す……それこそが彼女の戦闘スタイル。
内容を変えればどんな状況にも対応できる万能タイプ、特化していないからこそ特化した厄介なタイプだ。
「本当に凄いや、負けちゃうかも」
「なら、血の一滴でも垂らしなさいよ」
「~~♪ ~~~~♪」
「……それとこれとは話が別だからね。悪いけど、時間稼ぎに付き合ってもらうよ」
二枚舌スキルでも持っているのか、歌いながら平然と俺の言葉に反応する彼女。
そう、たしかに凄いには凄い……が、ニーと共に居る今、負けるわけにはいかない。
時間ならたっぷりとあった。
動かさない下半身で『土堅』を発動、建物の屋上だろうと根を張って踏ん張っている。
「……本気で行くわよ。半殺しのつもりでいたけど、全力なら殺す気で行く」
「好きにしたらいいよ。僕は僕のため、そしてあの娘のためにこの場に居続ける」
「名前を出さないのは褒めてあげる。その口からあの娘の名前が出たら、もうどうにかなりそうだわ」
「うん、だろうね。でも、だからこそここぞに時に取っておいたんだ。──の名前はね」
あの場所を出る前に聞いた少女の名前。
それを告げた瞬間──建物は崩壊した。
何が起きたのかは明白、今なお宙に描かれている魔法陣がそれを物語っている。
どうやら彼女、戦いながら踊りで足踏みをしながら魔法陣まで描いていたようだ。
「その名を口にしたなら、もう容赦なんてしない。あの娘を返したくなるよう、ひたすら嬲り続けてやる」
「やーだよー」
「──『舞奉陣:暴虐嵐舞』」
彼女が足踏みをいったん止めると、空中の魔法陣が強く輝き魔法が本格的に始まる。
俺たちの居た建物だけでなく、周囲の施設が一気に崩壊──木っ端微塵になっていく。
いちおう、“金剛不動”は足を地面に着けておらずとも動かなければ発動可能だ。
だが完全に無防備になった俺に対し、彼女は宙を文字通り舞いながら迫って来る。
「『舞空』」
「そういう意味じゃない気が──」
「『演目・拳舞』」
「っ、危な!」
顔面狙いのストレートをとっさに躱す。
縦横無尽、四方八方から宙を蹴って行われる攻撃にダメージは通らずともタジタジだ。
また、衝撃は通っているため、動く方向をそのまま操作されてしまっている。
嵐の中に包まれたまま、そのまま俺たちは街を離れ──大砂海へと飛ばされていく。
「ねぇ、どうして祈念者が私に従っているのか……知っているかしら?」
「それはもちろん。お姉さんの持っているお宝が、目当てで……まさか!」
「仕方ないわよね。せめてもの配慮よ、このまま無抵抗なら街には被害が及ばないように遠くまで運んであげる。口ぶりからして、あの娘もまだあそこに居たんでしょ?」
「くっ、卑怯な……それが<正義>の味方がやるようなことか!」
どうにか重要器官への攻撃だけは防ぎながら、そのまま大砂海の外れへ。
俺の言葉に一瞬キョトンとした様子だったが、すぐにニンマリと嫌な笑みを浮かべる。
「私にとっての正義はあの娘だけ。私から、あの娘を奪えば残されるのは──ただの妄執だけよ」
「……」
「さっ、ここならいいでしょう。第二ラウンドの、始まりよ」
いつの間にか手に持っていた宝珠、それが光を放った。
──するとそれに呼応するように、地中が激しく揺れ動き出す。
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