上 下
2,442 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と砂漠の旅 その08

しおりを挟む


「『──』ッ!」

 檻が立ち並ぶ地下の空間、そこへ繋がる扉が凄まじい衝撃と共に抉じ開けられた。
 飛び出してきたのは短剣を振るう女性、勢いのままに乗り込んだままに叫び続ける。

 それは女性の妹の名前、目を離した隙に攫われてしまった──彼女唯一の弱点。
 取り戻すため、見知らぬ旅人たちの力をも借りて彼女はここに辿り着いた。

「──! ──! ……どうしてここに居ないの!?」

「そ、そんなはずは……たしかにここだと、情報が──」

「そんなことはどうでもいい。ねぇ、ここにとても可愛い女の子は居なかったかしら? 私と同じ黄色い髪と目の女の子よ!」

 情報を集め、伝えていた祈念者は不味いと冷や汗をかく。
 情報は間違いないはずだった、だというのにこの場には居ないという。

 この[クエスト]の成功条件は、彼女──『舞姫』の妹を見つけ出して会わせること。
 もしそれが叶わず失敗してしまえば……最悪の事態が起きかねない。

 そんなことを考えていた祈念者だったが、彼女が問いかけていた檻の中の子供が、核心的な情報を話すのを耳にしていた。

「そ、その女の子なら──」

「! 見たのね、ここに居たのね!?」

「う、うん……その子なら、変なヤツといっしょに出てったよ。えっと、たしか──」

「どこに、どこに行ったのよ! 早く言いなさい」

「お、落ち着いてください! その子も話しづらいじゃ──ッ!?」

 少年の肩を揺さぶる女性を止めようとした祈念者……だが、触れる寸前、祈念者の首に突きつけられた短剣。

 ここに来る道中、ずっと見てきたからこそ分かる。
 ほんの少し動かされただけで、どれだけレベルを上げていても殺されることを。

「ここを見つけ出したことは感謝している、だからこそ寸止めしたわ。でも、それ以上はダメよ……許容できないわ」

 躊躇い、後退る祈念者。
 それでも言葉自体は伝わったようで、少年から手を放す。

「けほっ、けほっ……アイツらは、向こうの扉から出ていったよ。あと、伝言も……」

「伝言、何で言わなかったの!?」

「ね、姉ちゃんがそうやるからだよ! も、もし姉ちゃんがそんな風にするなら言わなくていいって、妹にも言われてんだぞ!」

「ぐっ……分かったわよ」

 妹からの伝言、その言葉に再び揺さぶることを諦める。
 すぐに情報を吐かせたい、だが周囲の者も知らなさそうなのでどうしようもなかった。

「ま、まずは妹といっしょに居たヤツからの伝言──だ、だって先に言っておかないと、絶対に聞かないって言われてるんだぞ!」

「…………チッ」

 事実、そうするつもりだったので、何も言えず舌打ちをする。
 大切なのは妹からの伝言であり、それ以外聞くつもりなど無かったのだから。

「分かったわ、早く内容を言いなさい」

「──『迷惑を掛けたくないみたいだから、代わりに貰っていく。そのうち会おう、場所は妹の伝言で分かる』、だって──ヒッ!」

「…………」

 もう何も言わず、短剣を構えた。
 このままでは不味いと、少年はすぐに彼女の妹からの伝言を思い出す。

「『お姉ちゃ──」

「……はぁ?」

「で、伝言なんだから仕方ないだろ! えっと……『お姉ちゃん、ごめんなさい。わたしは、お姉ちゃんの弱点だから。お兄ちゃんといっしょに行きます。なんだかお姉ちゃんみたいで安心できるから大丈夫』、だってさ」

「…………それで、場所は?」

「さ、さぁ? これで全部──うぐっ」

 こめかみをピクピク痙攣させ、それでも残された僅かな理性が少年への対応を殺害から気絶程度に収めた。

 まだ何か情報を持っているかもしれない、そう思い祈念者に押し付ける。

「全部吐かせて。その情報が確かなら、例の報酬は用意するわ」

「わ、分かった」

「……チッ、具体的な容姿をまだ聞けていなかったわね。それぐらいなら、ここの他の連中でも分かるか」

 ──だが、それを知る者はこの場に独りも居なかった。
 更なる怒りを溜め込み、彼女はこの場から出ていく──その道先は破壊され続ける。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 先ほどまで居た場所で破壊音が続く。
 やはりあの後、実力者が誘拐された者たちの救出に来たようだな。

 おそらくは『舞姫』、俺と共に居る少女の姉だろう。
 詳細な情報は分からないが、妹のためなら何でもするシスコンということは分かる。


「まあ、今は君の特訓の方が大事だね。場所の準備、ありがとうZさん」

「いえいえ、この程度でしたら容易いこと。それよりも、彼女が『舞姫』の妹ですか……ええ、大変興味深い」


 俺と少女はZ商会に匿ってもらい、そこで少女の特訓を行っていた。
 まずは視覚で把握させた精霊たち、彼らとのスキンシップを取ってもらっている。

 見た目は普人だが、精霊との親和性が高いようだ。
 他にも回復や支援など、どちらかと言えば後衛としての才に恵まれていた。

 だからそれを伸ばす。
 具体的にその後を決めてはいないが、一つだけ決めていること──彼女の願いを叶えるという指標を基に動いていた。


「ねぇ、できると思う?」

「できますとも。我々も、全力で支援させていただきますよ」

「うん、お金で解決できることなら、全部やるから任せるよ」


 そんな俺たちの会話も耳に入らないほど、少女は意識を集中させている。
 周囲に精霊を漂わせ、彼女は魔道具に手を当てて眠っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...