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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と砂漠の旅 その04
しおりを挟む──Z商会。
正直、正体不明としか説明のしようが無い謎の商会。
会頭が世界中から集めてきた品を、適正な価格でどんな物でも売ってくれる。
俺がかつてディーと出会ったのも、そんなZ商店の一店舗。
また、異世界人の特典である聖具、ナシェクを回収しているなど謎が本当に多い。
「それにしても、お客様は本当によく足を運ばれる。お陰で私も、出張を何度も繰り返しております」
「……転移門ですぐだよね? しかも、店専用のだからタダだし」
「はい、それはもちろん。ここ、陽炎都市支部には厚意にさせてもらっているお客様もおりますので、仕込みは丁重に」
「へぇ、ここにもいるんだ。うん、まあお金があれば何でもできる都市だもんね」
俺専属となっている店員、Zさん。
そして他にも数十人、専属の店員が付く好待遇を受けている者たちがいる。
俺はまだ新人なので、待遇は彼らに比べればまだまだ劣っていた。
……それでもかなりの好待遇なので、文句は無いんだけどな。
「それで、お客様はどのようなご要望があってこちらへ? 当商店は、お客様のいかなるご要望にもお応えする所存です」
「そういえば、前に頼んだモノは?」
「…………。そうだ、お客様にオススメしたい商品がございますよ!」
「ああうん、じゃあ見せてもらおうかな」
こちらへ、と言われて俺とディーは商会の奥へと案内される。
空間を繋げてある魔道具を通じ、商品の所へ行けるのだが……入り口が阻まれていた。
「……あの、Zさん。これって……」
「なんと、お気づきになりましたか」
「いや、気づくも何もあからさまに──」
「こちら、会頭オススメの商品でして。ぜひお客様に、と仰られておりましたので……」
ドンッと鎮座するそれは、どこかで見覚えのある一冊の本。
カバーから紙まで、厳選された素材で作られたそれは一目で高級品と分かる。
──がそれ以上に、その本のタイトルが俺の眼を奪う。
かつて、俺はある本を購入した……その本と今回の本は類似していた。
「──『誰でも分かるスキル情報網羅本』。これ、まさか……」
「はい、新作です」
「…………売れる、ますか?」
「一点ものですので。ええ、これを買っていただければ採算は取れますよ…………偉く気に入っているようでして、すでに続刊の製本が決まっております」
いつも笑顔をZさんだが、この時だけはその顔も曇っていた気がする。
俺もそのせいか、ちゃんと言い切れなかった気がした。
まあ、前回買う時もだいぶ困っていたらしいからな……。
そして俺は、それに手を出した……恰好のカモというわけだ。
「とりあえず、一括払いで」
「……よろしいので?」
「はい、お金はありますので。むしろ、使いどころをいつもくれて助かっていますよ」
実際、俺の世界では通貨がポイントになっているのでほとんど使われない。
なので外部から持ち込まれた金だけが、無尽蔵に溜まってしまっていた。
外部との貿易で多少は使っているが、それでも減った分以上に増えていく。
民は外に行かない、あるいは行っても金を使わないのですべてが俺に還元される。
迷宮にDPとして取り込ませて還元、お金が必要な職業に投資……そういった方法で消費するにも限界があり、世界で余らせたお金の一部が俺の資金源となっていた。
指を鳴らすと観ていたであろう眷属が反応し、大量の硬貨が降り注ぐ。
……一枚の紙も落ちてきて、『貸し一つ』と書いてあったのは見なかったことにする。
「これだけあれば足りますか?」
「──はい、ちょうどですね」
「……結構な額を用意したはずなんだけど」
「はい……それだけ希少な情報と、仕掛けをこの本にはされているのですよ」
前回の『誰でもできる簡単スキル習得本』には、あくまでスキルの簡易な説明と習得に必要な方法が載っていた……逆に言えば、対象外のスキルは記載されていない。
だが、今回の本はZ商会が把握しているスキルのすべてが載っているとのこと。
一般スキルなら祈念者でも可能だろうが、この本は固有スキルも網羅しているようだ。
本を確認してみると、<大罪>や<美徳>に内包されたスキルの詳細な情報がバッチリ載っていた……だが、それらのスキル自体と<正義>の情報はまったく無かった。
つまり、{感情}や<正義>などはまったく把握されていない情報ということになる。
これはアドバンテージに成り得る事実だ、これを知れただけでも買った価値があった。
「大変、良い物を買えました。これ、大切に使わせてもらいますね」
「……本当に、ありがとうございます」
「ただ、すみません……僕がこうやって買うから、会頭さんも続刊を作っていくんですよね? それって──」
「いえ、これらは会頭の趣味ですので、おそらくお客様が居らずとも、延々と作られていたことでしょう……売れない、それでいて非常に費用の掛かる本が」
祈念者であれば、もしかしたら買う者も居たかもしれない。
あるいは、買うことこそが何らかのイベントの切っ掛けになることもあっただろう。
だが俺が、自らの欲のために買ってしまったのでその先は失われた。
ついでに言うと、会頭に会う気も無い……Zさん、何か企んでいるし。
「──さて、お客様。改めてご確認を、当店にはどのような品をお求めで?」
「……品、というか形の無い物でも用意できますか?」
「はい、ご用意できるモノであれば何でも」
俺の言葉にもいっさい間を空けず、あっさりと答えるZ。
その言葉に、俺は手に入れたいあるモノを口にした。
「──陽炎都市における名誉、栄光、そしてルールを決める権利……それが欲しいです」
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