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偽善者と眷属誕生 三月目

03-18 眷族決闘 その04

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「……最初は魔法か」

 少女たちは五つの縛りの中から、魔法を選択した。

 たしかに魔法を封じれば、メルスの多様な魔法による行動パターンすべてを奪うことができる。

「だが、分かっているのか? この残り四つがある状態で、わざわざやる意味が」

「ええ、理解しているわ。だからこそ、今これを選ぶ必要があったのよ」
「お兄ちゃん、負けないからね」

「ふっ、覚悟を決めたか。いいだろう、ならばこちらも全力で応えようじゃないか」

 メルスが取りだしたのは小さな水晶玉。
 万色に輝き幻想的な空気を醸し出すそれに魔力注ぎ込み、形を歪めていく。

「これの名は『摸宝玉』。あらゆる武具に変形し、あらゆる術を司る神器」

「いきなりチートじゃない」

「なんとでも言え。魔法を奪われたか弱い俺にできるのは、【武芸百般】の適性でどうにか時間内に魔法を使わせることだけだ」

「……十秒だったら、逃げられそうね」

 そう余裕の笑みを浮かべるティンスに、メルスは嘲笑するように口角を釣り上げて──少女たちの目の前で告げた。

「なあ、俺は弱いのか?」

「「ッ……!?」」

「ああ、弱いだろうさ。主人公なんて柄でもないし、初期で舐めプをして中盤辺りで潰される雑魚ぐらいでしかない。けど、初心者ニュービー相手にそこまで言われるほどじゃないと思うんだよな……」

「「…………」」

 メルスを倒す一遇の機会。
 しかし、二人は動かない……動けない。

 一瞬で自分たちの下に現れたその動き、それは移動だけでなく武器を振るう速度にも反映されるのであれば? 少しでも気に障る動きをした時点で生命力HP底を尽くゼロになるだろう。

「とまあ、そんな冗談は止めておこう」

 威圧感は薄れ、後ろを向いて元居た場所まで帰っていくメルス。

 その隙を突……こうとして、いっさい隙がないことに気づき、何もできないまま、ただそれを見逃がす二人。

「おっと、いつの間にか封印の時間が始まってたみたいだな。時間は……あれ?」

 その瞬間、ファンファーレが鳴り響く。
 宙に投影されていた魔法を封印するために必要な時間──それが[0]となっていた。

「……始まってたの? いや、こういうのって最初に開始を告げる合図とか……まさか」

 何かに気づいたメルス。
 瞬時に辺りの魔力の反応を探り、舞台と観客席を断絶する結界、それに投影装置の辺りに魔力反応があることを暴いた。

「──使っちゃダメなのは、私とオブリだけなのよ? なら、それ以外の存在なら魔法を使ってもいいってことよね?」

「妖精か……」

「うん!」

「光と闇魔法で幻覚、風魔法で音の遮りをしたのか……調子に乗っていた俺も悪かったのか? まあ、さっき言った通り、俺は中盤の雑魚だから、これぐらいはやってもらわないと困るんだが」

 ルールが表示されたそのとき、オブリからティンスに提案をしていた。

 妖精に頼み、魔法を使ってもらうことでバレないように封印の時間を終わらせるという作戦を。

 メルスもすぐに現状を把握するが、すでに過ぎたこと。
 魔力を魔法に変換しようとすると、すぐにそれが霧散してしまう現象が発現する。

「これで、私たちは魔法を使ってもよくなった──“回復ヒール”」
「お兄ちゃんは使えなくなったね!」

「まあ、そうだな……だが、まだ一度も俺にダメージを与えていないのに、それを言うことができるのか?」

 この決闘の終わりは、どちらかが死に戻るでしか訪れない。

 しかし、現在三人の生命力を示すゲージは同じく満タンの状態……回復を行った少女たちはともかく、メルスは無傷だった。

「まあ、長話をしていても同じ手を食うだけだからな。そろそろこっちからいかせてもらおうか──“身体強化”」

 思考詠唱ではなく、わざと口頭で告げる。
 魔法が使えない現状でそれを言うことで、何を意味するのかを暗喩させた。

「魔法が無くとも、俺は強い。せっかくだ、死なない程度に楽しんでくれ」

『──ッ!?』

 強い衝撃が少女たちを襲う。
 認識もできない内に起きたソレは、いつの間にか二人の下まで接近していたメルスが起こした事象であった。

「速度の問題じゃないぞ。身体強化で補ってはいるが、あくまで体を理想の動きに合わせられるようにしただけだ。さて、俺はいったい何をやった?」

「……死角へ、潜り込んだ?」

「惜しい。正解は──こうだ」

「“氷壁アイスウォー……うぐっ」

「死角に関係なく、ただ気づかれない場所から一撃を叩き込んだだけだ」

 面倒なことは考えず、目の前の障害物を排除することだけを考えた一撃。

 いつの間にかメルスの腕に嵌められた籠手が輝くと、壁を薄い紙のように引き裂き少女たちの体に拳を撃ち込んだ。

「けどまあ、衝撃だけだ。自分のHPを確認してみたか? ──まったく減ってないぞ」

 闘技場の機能として、観客たちもまた三人の生命力を把握することができる。
 彼らのケージは一ミリ足りとも動いておらず、満タンの位置を保ち続けていた。

「まあ、この籠手の影響だ。どれだけ攻撃してもダメージを与えない。逆に癒す効果を与えるから、俺がこれを装備している間はいっさい攻撃力が無い」

「……それがすべて本当だという確証はないわ。オンとオフぐらいあるはずよね」

「さてな、ご想像にお任せするよ」

 実際、その籠手──『反理の籠手』の能力は自在に起動するかどうかを選べた。
 そしてその効果を、自分自身にもたらすこともまた……。

 しかしその選択を、メルスは選ばない。
 あくまでこの闘いは新装備の検証であり、無限にイジメ抜くためのものではないから。

「──っと、もう時間か。次の縛りを決めてくれ、どんなスキルを縛ろうと最後に勝つのは俺だけどな」

 そう不敵な笑みを浮かべ、少女たちの選ぶであろうスキルを考える。
 何が起こるか、それを他者へ委ねることができる……そのことにわくわくしながら。

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