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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者とシ刑 後篇

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 夢現空間 食堂


 シ刑執行を下された俺、その結果として眷属の満足が行くまで労働を課せられた。
 ……まあ、ある意味いつもと同じだが、そこはノリというヤツだな。


「ごしゅじんさま、お代わり!」

「儂も男体盛りを所望しよう!」

「はいはい、分かりましたよ……あと、純粋に食う気の無い奴の分は無い」

「何を言っているか、儂は心から主様を食べたいと思って──ぐふっ!」


 バカドMのアホな言葉は無視し、純粋に食事を楽しむ眷属たちに料理を作る。
 戦闘狂たちとの模擬戦を終えた俺は、そのまま食堂での料理作りを命じられた。

 だんだん料理の腕を上げた眷属が増え、俺が厨房に立つ機会も減っていたからな。
 なお、眷属ごとに得意なジャンルなどがあるのだが……俺はいちおう、全部可能だ。

 それでも今は、派手な飾り付けなどはそこまでせずに味に特化した料理を作る。
 うちは大食いも多いので、飾っている暇があれば量を埋める方が重要なのだ。 


「万能創造──“夢現工房”」


 だが、それでも追い付かない状況に応じ、起動した夢現の能力。
 両手を合わせて柏手を打つと、周囲の調理器具が影響下に入り──宙を浮き出した。

 構築した『工房』において、あらゆる生産活動を効率的に行えるようになる。
 そこに物理法則など存在せず、俺の望むままに料理が作られていく。


「よし、どんどん食っていけ!」


 出来上がった皿も、自動的に少女たちの下へ届けられる。
 そして、数秒も経たない内にそのすべてが空になっていた。

 ある意味、向こうの方が物理法則を超越した光景な気がする。
 それでも、俺はただひたすらに料理を作ることに専念した。

 まあ、そんな異常な光景は大食い連中の卓だけで、他の場所で食事をしている眷属たちの場所は普通の速度で減っている。

 彼女たちにはある程度、見た目も意識したものを提供していた。
 大食い連中と違い、一呑みにせずゆっくりと食べているわけだしな。


「しかしまあ、これが普通の家だったら間違いなくアウトだったな……貯蓄が尽きる」


 我が家の場合、錬金術で加工した魔力飯という特別な品を食べてもらっている。
 最終的にそのすべてが体内に吸収されるため……うん、排泄不要なんだよな。

 料理を増産する工房の端で、勝手に錬金術用の釜が何度も光を発している。
 そこから現れるのは魔力飯を作るために必要な、構成が魔力のみで出来た素材たち。

 それらは釜から飛び出すと、宙を舞っていた包丁と接触。
 鮮やかに裁断されると、各々が料理に必要な行動を取っていく。

 このように、うちでは必要な物はその場で用意できるので問題ない。
 ……夢現空間にトイレやら植物園、牧場などもあるが、アレはある意味飾りなんだよ。

 まあ、全眷属が持つ完全消化スキルで、それらを摂取しても問題は無いのだが。
 トイレも別に、まったく使われないわけではない……うん、その辺は語らないでおく。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 浴室


 毎度というか恒例というか……そんなお決まりの時間がやって来た。
 俺は風呂の中に沈められ、男たちの理想である桃源郷を拝んでいる。

 必死の抵抗の末、それでも妖女モードへの変身だけは許された。
 ついでに入浴する人数や(外見)年齢、その他諸々で可能な限り身の安全を確保済み。


「あはは……もう、どうでもいいかな?」

「大丈夫、兄さん……じゃなくて姉さん?」

「うん、ニィナも気にしなくていいよ。それよりも、お湯加減はどうかな?」

「……姉さんが全部やっているもんね、この謎の光まで」


 いつもとまったく同じというのはダメらしく、お風呂に関するすべてを俺が準備した。
 浴槽……はともかく、お湯やシャンプー、そして物理法則を超越した湯気や煙を。

 結果、辺りに立ち込める湯気が肌を晒す少女たちを俺の視線から守っている。
 近くに居るニィナは、どこからか差し込む謎の光で局部が覆われていた。

 おそらくその目的は、思考処理能力に多大な負荷を掛けること。
 今はまだ動いていない眷属たち……くっ、本番はまだこれからなのか。


「……姉さん?」

「ううん、何でもない何でもない…………あのさぁ、もし良かったら今日、ニィナの所に止まらせてもらっても──」

「パパ、ズルい! わたしもわたしも!」

「み、ミント!?」


 ダメ元で逃走手段を確保しようとしたら、それを聞いていたミントが文字通り飛んできてしまった。


「えっ、おにーちゃんといっしょ? わたしも行きたい!」

「あの、父君……わたしも、同伴してよろしいでしょうか?」

「……参戦」

「カグ、ジリーヌ……それにリンカまで」

「不服?」

「あっ、そういうことじゃなくてだよ……」


 そして、その騒ぎを聞きつけ、集まってくる幼女たち。
 …………そう、俺と眷属、双方の思惑が絡まり合い、こんな状況になっていた。

 ちなみにジリーヌは、本日お泊りをする予定である。
 母親(役)のシェリンも、今頃眷属たちと酒を酌み交わしているだろう。


「えっと、これはだね……」

「──いいんじゃない? 姉さん、ぼくの部屋でお泊り会でもしようよ」

「…………いいの?」

「うん、みんなで寝ることは時々あるから。それに……事情があるんでしょ?」

「……助かる」


 そうして俺は、幼女たちのお泊り会に混ぜてもらい、大人組の魔の手から逃れた。
 ……翌日調査したところ、そのままだったらかなり危険だったことが発覚する。

 幼女たちにお説教を貰い、俺たちは共に反省した。
 ──が向こうも思っているだろう、反省はしても後悔せずに活かすことも無いと。


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