2,433 / 2,518
偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者とシ刑 前篇
しおりを挟む夢現空間 礼拝堂
──嗚呼、前にも同じ光景を見たなぁ。
現実逃避気味にそう考える。
周囲から向けられる厳しい視線。
眼前で座る者たちからの圧は強く、本来の高低差を超えて見降ろされているようだ。
周囲にはプレートが置かれ、それぞれ陪審席だの裁判官だの、検察官などと記されている──そこに、弁護士という文字は無い。
「──えー、それではこれより、大罪人メルスの裁判を始めたいと思います。司会というか裁判長は、アリィが担当するよ。みんな、よろしくね」
「裁判長、俺は無実だ! というか、被告人であって罪人じゃない! 勝手に確定するんじゃない!」
「はいはい、被告人はお静かにー。じゃないと、すぐにでも刑が執行されちゃうよ」
「──あら、そっちがお好み?」
後ろで剣をスッと抜こうとする、世界最高峰の剣士ティル師匠。
……断罪程度に、そんな崇高な獣聖剣は不要じゃありませんかね?
「貴方なら斬るに値する、そう言って昨日から騒いでいるのよ」
「……弁護人、弁護人を所望する」
「はいはい、その辺も説明するからイチャつかないの。こほんっ、弁護士は居ません。ついでに要りません。どうせメルスのことだから、ご褒美で釣ろうとしているのがバレバレだから準備しませんでした」
「……本当にそう考えていたみたいね」
ティルは特殊な瞳の力で、人の思考を読み取ることができる。
俺としては会話が楽だと思うが……くっ、こういうときは不便になるな。
「……それでも、不便程度にしか思わない人はなかなか居ないわよ」
「だーかーらー、イチャつかないの! いっそティルも、イチャラブ罪で裁いてあげようかな!?」
「はいはい、分かったわよ。構ってもらえないからって、そんなに拗ねないの」
「なっ……そ、そんなんじゃないんだから。ほ、ほら、さっさと裁判を始めるよ!」
アリィの反応に思わずほっこり。
なお、彼女の二重人格であるアリスは、サポートをいっさいしないで陪審席に座っていた……うん、とても愉しそうな顔だ。
どこからか念話で指示を受けつつ、アリィは裁判長としての責務を果たす。
そんな彼女から、検察官へ罪状を言い渡すように伝えられた。
「じゃあ、検察官。罪人の罪状を」
「おう、検察官のチャルだ。とりあえず、シ刑にするってことで」
「……ちょっと待っ──」
「被告人、静粛に。じゃあ、弁護人……も居ないから仕方ない、やっぱり被告人が直接意見していいよ」
チャルの発言、死刑か私刑かと謎に思ったのだが……[ログ]を見たら、そのどちらでも無いときた。
いやまあ、どちらにせよ最悪死ぬような目に遭うわけだけども。
逆に先を見通せない内容だからこそ、怖くなってくる。
「そのシ刑って、具体的にどういう罪状になるんだ?」
「アンタが考えているのは、殺す方の死刑と私的な制裁って意味の私刑。それに加えて、いろんな意味があるから一纏めにしてシ刑ってわけだな」
「だから、その内容を──」
「はーい、そこまで。隠してあるからこそ、それも面白いんでしょ? それじゃあ、そろそろ判決行っとく?」
庇ってくれる者が居ないため、そのまま流れるように判決へ。
──結果は当然、シ刑というよく分からない罪状になるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
修練場
「…………」
「よし、次はアタシがやるよ!」
「次は儂がやらせてもらうぞ。せっかくご主人が望む通りに戦わせてくれるのだ、あんなことからこんなことまで……ぐふふふっ」
償いのため、最初にやらされたのはエンドレスで眷属との模擬戦を行うというもの。
挙って参加する戦闘狂集団、普段なら子頻度で逃れるのだが……今回は強制だ。
「チャルが相手か……なら、『天魔創糸』でお相手するよ」
「マジもマジじゃねぇか……」
「そういう注文だからな、ついでにこっちもだな。略式で省いて──“機闘魂魄”」
「はっ、上等だ」
相手に合わせて魂魄を纏い、相手の戦闘スタイルに自作の武器を交えて戦っていた。
チャルであれば超近接戦闘による、格闘技で戦うことになる。
使うアイテムは『天魔創糸』。
かつて神気も練り込んで編み込んだその糸は、俺の生み出すあらゆるエネルギーを減衰無しで通すことができる。
そんな糸を全身に巻き付け、擬似的な鎧として用いた。
俺の意思に応じ、伸縮自在かつ柔硬さに富むパワードスーツとして機能する。
「チャル、全力で来いよ」
「言われなくとも──『仮構:スプリットセコンド・クロノグラフ』!」
「……仮のヤツまで使うのか?」
魔導機人──特殊な機人族である彼女に、俺がいくつか仕込んだ特別な機構。
技術的な観点から未だ未完成の物が多いのだが……今回、その一つが起動された。
スプリットセコンド・クロノグラフ。
要はストップウォッチの機能を内包した時計のことなのだが、それを模した機構によって彼女は──
「二重加速!」
「なら──“時間加速”!」
突然体の動きを速めるチャルに対し、俺は魔法で自らの時を進めて対抗。
……が、それでも彼女の方が速い──それもそのはず、彼女は二重で加速している。
主観速度、そして世界の時の流れを同時に速めることができる例の機構。
時を進めつつ、止められる……そこから発想を得たものだ。
時魔法で加速できるのはあくまで自らの時間のみ、世界ごと時の流れを干渉するのであればより上位の魔法が必要になる。
「そして──“時空高進”!」
「これで対等か……じゃあ、ヤろうか!」
「俺の方が消耗激しいんだけどな……まあいいや、それをチャルが望むなら!」
そんなこんなで、名ばかりの模擬戦をひたすら繰り返す。
それでもまだ、シ刑は続いていく……いつになったら解放されるのやら。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる