上 下
2,431 / 2,519
偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その20

しおりを挟む


 今回の騒動、その最大の戦犯である英霊。
 それは俺を追いかけた罪を労働で償うことになった『超鋼筋肉』でも、素顔を晒すことになった『隠魔術師』でもない。

 最大戦犯だったのは、『夢幻』に忠誠を捧げた男『劇光騎士』。
 すべては俺が凡庸だったから起きたこと、当人はそう語っている。


「──なぜ、なぜですか『夢幻』様!? 貴女のような御方に、彼は相応しくないでしょう! 英霊でも、英雄でもない、何も持たぬ彼に何を見出したというのですか!?」

≪なぜ、それを問いますか。『劇光騎士』、ではその返答をする前に、こちらも問いかけましょう。なぜ、私の行動を貴方に決められなければならないのですか?≫

「そ、それは……あ、貴女様に忠誠を誓う者として、相応しくない者を──」

≪相応しくない? なるほど、貴方の主張は理解できました──どうやら、私は貴方には相応しくないようですね≫


 その言葉に誰よりも傷つく『劇光騎士』。
 正直、見るに堪えないほどショックを受けていた……が、ふらふらと立ち上がり、剣を抜いて──俺の方を向く。


「……そうか、貴様が」

「なあ、『超鋼筋肉』。これ、誰か守ってくれると思うか?」

「いやー、俺には無理だな。隠魔の、そっちはどうだ?」

「……そのままられろ」


 残念、英霊たちは主でもない俺を守ってはくれないらしい!
 そして、最後の英霊は完全に俺を敵対視している……殺す気満々だ。

 やがてその刃が届くギリギリ。
 そろそろ抵抗しようと思ったが、その変化に気づき動くのを止める──それと同時、一人の男が現れた。


「──おいおい、俺様がせっかく男として活かしてやったってのに、ここで死んでどうするつもりだよ」

「……好色!」

「おう、劇光。相変わらず頭おかしいよな、お前。たしかに『夢幻』の姉ちゃんはイイ女だ。だが、お前ごときがどうこうできるわけでもねぇんだ。祝ってやれよ、イイ女がよりイイ女になるんだからな」

「邪魔を、するな!」


 免罪を受けたもう一人の英霊。
 何より、この騒動に関わっていないとはいえ、その舞台となった闘技場でリリム……リリーを取り合う賭け事をやらせた張本人。

 そんな男『好色英雄』は、なぜか俺を守るためにここに来ていた。
 どうやら、先ほどの『夢幻』の説明は騙すための誤情報だったようだ。


「で、何で俺を?」

「お前の女に頼まれたんだよ、イイ女の頼みは断らない主義なんだよ。たとえそれが、他の男の女でも──元男だろうとな」

「……分かったのか」

「過去はどうあれ、今はお前のイイ女なんだろう? なら、俺はイイ女だと判断する」


 うん、言っているのがこいつだから少しだけかっこよく思えるこの台詞。
 俺とか一般人が言うと、正直引かれること間違いなしだな。

 実際、『超鋼筋肉』は笑っているけども、『隠魔術師』の表情がそれを物語っている。
 ……言うにしても、その際の容姿を考えてから使うことにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 あえてそれ以上を語る必要も無いだろう。
 結局、『劇光騎士』の凶刃は俺に届くことなく、『好色英雄』によって強制的に静かにさせられた。

 その後、『夢幻』が向かわせた夢魔たちにより回収され、然るべき処置をすると伝えられその場はお開きとなった。

 俺たちは再び強制的に転移させられ、俺は独り案内所の中へ。
 しばらく何もせず待っていると、そこに現れた一人の女性。


「お、お待たせしました」

「いや、全然。それよりも一杯、付き合ってくれないか?」

「! ええ、喜んで」


 テーブルの上に用意されていた飲み物を、彼女──リリーに注いでもらう。
 なお、ノンアルコールなので大丈夫だ、酔うにしてもあくまで雰囲気だけだ。


「しかしまあ、この世界の主に酌をしてもらうなんて……あの騎士、そりゃあ怒って当然な気がしないでもない」

「……彼は生前、満たされない渇望を騎士としての使命に封じ込め、さまざまな貢献を国にした英雄です。ですが……その、私を……個人を忠誠先とした結果が──」

「固執になったわけだ。劇光ぎゃっこう……つまり光とは逆なわけだ。あの振る舞いが劇的で、読み方も完璧だな。職業なんだか評価なんだか知らないが、言い得て妙だったってことだな」


 中世では栄誉ある地位だった騎士に就いていたにも関わらず、満たされない渇望。
 そしてそれは、仕えるべき主を知り満たされた──だからこそ、より光は逆転した。

 根本的な部分から、彼をどうにかするのは大変だろう。
 偽善でやるのもいいが、それはリリーがどうするのか傍観する方が面白そうだ。

 その過程で俺が必要だというのであれば、喜んで協力しよう。
 ……もちろん、死にたくないので制限は解除してからだけども。

 そんなことを思いつつ、グラスに注いでもらったドリンクを飲み干す。
 思念操作で[メニュー]を操作、[時計]機能で外の世界の時刻を確認する。


「──そろそろ、時間だな」

「……もう、ですか」

「悪いな、カナタに先に伝えてもらったから大丈夫だとは思うが……うん、おかしいな、体が震えてきた」

「ほ、本当に大丈夫ですか? すみません、このような条件を出してしまい」


 俺がこれまでずっとここに居た理由、それは同伴者に関する契約に基づいてのもの。
 リリム……じゃない、リリーと居る場合、一定時間の滞在が強制される。

 まあ、手段を選ばなければ強行突破も可能だろうが、代償はしばらくの入場不可だ。
 その程度で『超越種スペリオルシリーズ』と接触できるのだ、そう思っていたんだけどな……。

 間違いなく起床後、何かあるのだろう……そう考えると、体が勝手に震えてしまう。
 しばらくすれば収まるだろう、そう俺は考えていたが──リリーは違ったらしい。


「え、えっと……ぎゅ、ぎゅー!」

「……あ、あの、リリーさん?」

「こ、こうすれば、震え、止まりますか?」

「と、止まるんだが…………なんだろう、別の理由で震えが止まらない気がするや」


 うん、こういうのを余罪という言うんだ。
 だが、リリーが純粋な善意百パーセントでやってくれていることは分かるので、強くは出れない──後を、覚悟しようか。

 俺が今意識できるのは──本当に、その感触が柔らかいことだけ。


「次、会えるのはいつになるんだ?」

「今回の件、メルスさんに危険が及ぶことも考えて、しばらくは保留期間となります。申し訳ありません」

「いや、構わない。ただ、一つだけ頼みごとがあるんだが……」

「はい、可能な限りお応えしましょう」


 俺はその内容を伝えた。
 少し驚いた様子だったが、すぐに『夢幻』としての意識となって考えてくれる。


「……難しいでしょう。しかし、時間さえあれば問題ありません。まさに、そのお話をしたばかりですね」

「じゃあ、大丈夫なのか?」

「はい。いずれその時が来れば、メルスさんの夢に干渉してこちらへ招きます」

「……可能なら、事前に連絡するとかそういう方法があったらいいんだけど」


 いつ可能なのか分かれば、こちらも準備しやすいわけだし。
 するとリリーが取り出したのは、小さな鈴だった。


「こちらを。『夢鳴の鈴』と言いまして、これが鳴れば受け入れが可能な状態になったと捉えていただいて構いません。また、こちらの世界で逸れた際の目印になります」

「へぇ、そりゃあいい物を貰ったな。大切に使わせてもらうよ」

「……また、来てくださいね」

「約束もしたんだ、ちゃんと来るよ──だから、今はこれでお預けだ」


 席を立ち、リリーの前に跪いた俺は彼女の手の甲にキスをする。
 鈴を目印にされたお返し……というわけではないが、まあノリだ。


「~~~~!?」

「ちょっとは、意識してくれたか? 次会ったとき、感想を教えてくれよ」

「め、メルスさん!」


 頬を膨らませたその姿に満足し、俺は夢の世界から現実へと引き戻される。
 ──言うまでも無いが、待っていたのは無数の眼差しだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...