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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その16
しおりを挟む──『隠魔術』。
本来、魔技を発動する際に生じる魔力の反応を抑えて感知しづらくする技術。
当時は技術でしかなかったその芸当に、その者が名前をもたらした。
それこそが英霊『隠魔術師』。
魔術を隠れて使うのではなく、魔を隠す術の使い手だから『隠魔術師』である。
「さすがは過去の名人、意識して魔眼を使わない限り見つけられないとはな……」
魔力の感知などは、常に維持できるよう眷属とも鍛えていた。
ゆえに常駐そのものは可能だが、精度の方はまだまだなようで。
一度見つけてしまえば、その微弱な気配も辛うじて掴めるようになる。
……ええ、こういう教材があるときにしっかりレベリングしておきませんとな。
「まだまだ、過去に倣うべき技術はたくさんあるってことだ……神代魔法然り、価値のあるモノはどれだけ時代を経ても、相応に意味があるんだよな」
隠魔術はその性質上、他者との連携が非常に難しい。
攻撃なら良いが、支援などに魔法を使おうにも無意識でその効果を弾いてしまうのだ。
一説によると、詠唱とは魔法が来るということを意識することで、その効果を受け取りやすくする……いわば、抵抗の減衰を図るためのものだとかなんとか。
まあ、そんな説が上がるくらいには、意識して受け取らない魔法の影響とは届きづらいわけだな(by眷属)。
「覚えた魔法陣は、あとで眷属に解析してもらうとして……あくまで隠魔術は、魔法陣の仕込みじゃなくて籠めた魔力の方が重要だからな。術式を覚えただけじゃ、どうしようもないわけだ」
そんな隠魔術の使用法の一つが、魔法陣による罠としての用途。
なお罠感知スキルは反応しない、なぜならあくまで見えないだけの魔法陣だからだ。
そんな術式を視てみたが、その効果自体は妨害や存在露見に繋がるものばかり。
普通に通って引っ掛かっていたら、案内所への侵入も困難になっていただろう。
「入るか入らないか……まあ、入る必要は無いか。けど、嫌がらせぐらいはしておいて損は無いかな──“魔力雲散”」
周囲の魔力を散らすことができる、そんな魔法を発動する。
すでに消滅した魔法陣、そこにそんな魔法が干渉するとどうなるか──
「散らすの定義を少し弄って、効果を過剰供給による強制停止って感じにしてみれば……よし、できた」
魔法陣が魔力の火花を散らすと、やがて強制的に隠されていた魔法陣が出現した。
まだ完全に証拠を隠滅できていなかった魔法陣だけだが、その作業を停止させたのだ。
「あとはそれを、こっちで利用するだけだ。たとえば──“魔力線”」
魔力の回路を繋ぐための線を、擬似的に引くことができる魔法。
それを魔法陣と繋ぎ、描かれている術式の回路と接続する。
魔力の波長を可能な限り『隠魔術師』のモノへ合わせ、魔法陣に魔力を流していく。
魔法陣はその魔力の干渉を受け、刻まれていた術式とは異なる姿へ変貌する。
「完成だ──『魔力探知』」
魔力を探る、その魔法版。
しかも今回の魔法は、探したい当人の魔力で編まれた特別なバージョン。
いわば逆探知であろう。
少なくとも英霊であるため、『隠魔術師』はこの世界でのみしか存在できない……ゆえに効果範囲に居れば特定可能だ。
「まっ、どうせ見つけられないだろうけど。それでも、今居る場所を特定できた──やっぱり、街の外だったか」
自分はあくまで傍観している、そういう体で居るつもりなのだろう。
だからこそ、今回の騒動の間はずっと外に潜んでいたわけだ。
今頃探知の魔力を感知して、それが自分のものだったことで察しただろう。
相手もまた、それを行えるぐらいには魔力の技術があることを。
「このことはリリムに報告できない、連絡手段が無いからな。だからすぐには解決できないし、それそのものが王手ってことにはならない。でも、こんな回りくどいことをやっているヤツからすれば……立派な挑発だよな」
お前の手は、こうもあっさり覆せるのだと言われているようなものだ。
そのうえで、夢魔たちが動かないことで連絡が行っていないことが分かる。
できない、ではなくやらない。
似ているようで違うこの意味が、痛烈に理解してしまえるだろう。
「って考えが悪知恵スキルも無しで真っ先に思い浮かぶ当たり、俺ってそこまで性格悪いのかな? ……うん、スキルもそれが一番だと提示しているし」
悪知恵スキルを起動し、この状況での最適解を尋ねた……が、正しい選択をしたと伝えてくるのみで、それ以上に悪辣な術があるとは言ってくれなかった。
まあ、煽ったところで俺を直接殴りに来るようなことは無いだろう。
せいぜい、辺りに散らせばいい……俺に来るなら、リリムに訴えてやる!
「さて、隠蔽スキルで潜んでいる状況を利用しないとな。とりあえず、行使をしたら場所の変更をっと」
狙撃手みたいなことを言いつつ、自分自身もまた探知されないように場所を移す。
仕掛けをしたヤツに嫌がらせをしても、依頼された者たちに変化など無い。
むしろ、俺の行いを何らかの方法で気づいて来る可能性もあるからな。
また、そうでなくとも巡回でもされれば、何かしらの証拠を残すかもしれないし。
「まあ、そういうときのための証拠隠滅スキルだけども。さて、やりますか」
同じく、使うことで必要な方法が思いつくスキルを使用。
この場から完全に証拠を消した後、俺は再び動き出すのだった。
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