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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その15

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 差し向けられた刺客。
 それは代理人同士とはいえ、正々堂々と勝負を行った英霊とは別の存在によるもの。

 闘技場をカナタの罠魔法で脱出した俺とリリー……否、リリム。
 お互いに成すべきことを成すため、拠点を出て行動を始めた。


「リリムは『夢幻』としての使命を果たすために、俺が行けない場所に行ったからな……さて、どうしたものか」


 なお、カナタに関してだが、あくまで召喚魔法で呼び出したのでそのうち帰還する。
 そろそろ時間切れとなり、向こう側で俺の現状を伝えることになるだろう。

 そうなったら、それはそれで俺も覚悟を決めなければならない。
 心配を掛けた眷属に対し、精一杯の誠意DOGEZAを見せる覚悟を。


「さて、空間魔法が使えれば楽だったろうけど……縛り中は使えないからな。現状、できるのはスキルを使うことと塗料を塗った武具の行使のみ。精霊を呼んだり、魔本を開くことはできないわけだ」


 いちおう[メニュー]系列の権能は部分的に行使可能だが、[アイテムボックス]はそのいっさいが使用不可能になっている。

 なので、そちらにも移しておいた便利グッズは使えない。
 最初の暗躍やリリーとの行動で、少しだけアイテムは集まっているけどな。


「錬金術で補えるようなグッズは作れたけども……さて、いったいどの英霊が今回の騒動に関わっているのやら」


 先の英霊だけでなく、現夢世界にはそれなりの数の英霊が住んでいる。
 なのでその中に、俺に刺客を放った者が居るというのが俺とリリムの見解だ。

 来訪者の可能性もあるが、それは薄いらしい……曰く、彼らがそのような行いをしようものなら、夢魔たちが気づく間もなく処理を済ませているとのこと。

 だが英霊たちにはある程度の裁量権が与えられており、その範疇であれば夢魔たちもその行動を咎めることができない。

 まあ、それでも来訪者を殺そうとする行いはアウトなので、裁定は下されるようだが。
 現在リリムが行っているのは、その証拠探しというわけだ。


「スキル起動──逃走、隠蔽、隠密、暗躍、危機感知、潜伏、隠匿、逃足、隠身、警戒」


 最低限、逃げるのに便利なスキルを厳選して発動を宣言。
 なんだかんだいつもとやることは変わらない、縛りプレイで場を乗り切るだけだ。

 新規スキルの獲得は見込めずとも、熟練度上げには使うことができる。
 英霊も混ざっているのだ、それなりの向上があってもおかしくは無いな。


「英霊はともかく、来訪者は絶対的強者というわけでもないからな……ある意味、スキルの練習相手にはちょうどいいわけだ」


 英霊に買収された来訪者の数は、それなりの数だった。
 少なくとも、闘技場で俺たちを逃さんと囲い込んできた者だけでも数十を超えている。

 また、戦闘に関与せずとも情報を漏らすだけでの協力者もいるかもしれない。
 そういった想定外を想定するため、過剰であろうと警戒しなければならなかった。


「だからもう少し、小細工を重ねておくとしようか──“対招更撃ターゲット”、“過大評価ハイレート”」


 発動した二つの呪与魔法。
 前者は攻撃が集中する魔法で、後者は強そうに感じ取れる魔法だ。

 それらを無造作に周囲の者たちへ施す。
 するとどうだろう、その魔法が掛かった者たちは周囲の者たちに寄って集られの大騒ぎが起き始める。

 その間に、気配を薄めた俺はこっそりとその場から移動した。
 誰も俺に気づくことなく、包囲網から逃げ出すことに成功する。

 自分の気配を極限まで薄めるのではなく、逆に周囲の気配を強めることで相対的に感じ取りづらくする……そんなやり方もあるわけだな。


「ついでに“伝風ウィスパー”で──『ここに居るのは間違いない、必ず見つけ出すぞ!』っと。これで良し」


 風魔法で声を届け、この場に留まりたくなるよう意識を操る。
 結果として、この場から居なくなろうとする俺に気づく者は居なかった。

 時折魔力や精気力、そして生命力を網状にして探知が行われるのだが、それらはすべて事前に感知しているため、上手く掻い潜り移動を続けていく。


「っと、こりゃあ……罠を張っているな。それだけ夢魔たちに会わせたくないのか」


 俺がリリムと出会った案内所、そこには厳重なほど探知網が張り巡らされている。
 今の俺の隠蔽工作能力では、引っ掛かってしまうこと間違いなし。

 まあ、闘技場からそのまま逃走していたら必要になっていたかもしれないが。
 カナタの転移罠が無ければ、あるいは強行突破していた可能性も高い。

 追加で魔眼スキルを起動して案内所付近を見ると、多くの魔法が施されている──と思案している間に、その術式がどんどん消滅していく。


「……時間差で消滅まで組み込んでいたか。それなら、証拠を残さないわけだな──まあ無駄だけど」


 魔法陣なども仕込まれていたようだが、そちらはなんと発動せずとも勝手に消えるよう二重で罠を仕込んでいたようだ。

 つまり、後々来てもその仕掛けに気づくことはできない……だが消える前に、俺はこの場でしっかりと視認している。

 保有するスキルの中に、暗記スキルがある俺なので必要な情報はしっかり覚えた。
 ついでに言うと、そんな高度な魔法陣の配置で関与している英霊が一人判明した。


「『隠魔術師』……こいつが関係者か」


 知覚できない魔法を作り上げる、そんな過去の優れた術師。
 その技術で多くの功績を残した魔法使い、今回ソイツが計画に関わっているようだ。


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