87 / 2,519
偽善者と眷属誕生 三月目
03-09 眷族特訓 その02
しおりを挟む命令、そう言われて緊張感が背筋を走る。
現実だとその後、当たり障りの内容に思えることを伝えられ、それを達成している間に何かしらのイジメの準備を整えていた。
さすがに会ったばかりのコイツ──ノイズ男がそんなことを言うとは思えないけど……条件反射とは怖いモノで、多少引き籠もって時間が経っていても体は正直だ。
「そう固くならないでほしいな。私は別に、パシリにするわけでもイジメッ子になりたいわけでもないんだ……少しだけ辛いことに、理由を付けたいだけなんだ」
「……理由?」
「どんなことだって、私に命令されたから仕方なく……ってね。君たちは覚悟を決めて私の配下に加わってくれた、なら背負う責は私に来る。そしてこれから与える命令も、すべて私が悪いからこそ、君たちがやるんだ」
「ねぇ、いちおう訊いておきたいわ。それってもしかして、私たちに何か罪悪感を感じさせるようなことをさせようってことよね?」
命令、背負う責、悪い……いろいろと言葉は変えているが、全部が薄っぺらい。
何度もそれ以上にキツイ言葉を訊いていたからこそ分かる──
辛いこと、それはノイズ男の中での話でしかないことを。
そう考えた私は、新しくできた可愛い妹分のオブリちゃんに視線を向ける。
「オブリちゃん。あなたはこの男のことをどう思ってる?」
「うーん……お兄ちゃん、かな?」
「お、お兄っ!?」
「だって、ノイズのお兄ちゃんはわたしを助けてくれたもん。だから、お兄ちゃんはとってもいい人だよ」
うっ、純粋な笑顔が尊い……。
私に向けられたものではないけど、その余波がこっちにも。
ノイズ男もなんだかそのノイズがブレブレだし、きっと動揺していると思う。
「お、お兄……ゴホンオホンッ! と、とにかく! じゃあさっそくチュートリアルに相応しい場所へ移動するよ!」
誤魔化しているのがよく分かる反応で、ノイズ男は強く地面を踏み付ける。
本当だったら、それはただの照れ隠しだって分かるけど……ここはゲームの世界で、魔法というシステムが存在する場所だ。
「「──えっ?」」
「さぁ、二人を招待しよう!」
なんだか羞恥心全開なのを隠しているが、隠せずに叫んで誤魔化している。
……なんてことを思う暇はなく、私たちの足元には魔法陣のようなモノが描かれ少しずつ輝いていく。
「ようこそ、私の世界へ! 誰もできないもう一つのチュートリアルを、天魔の迷宮で行おうじゃないか!」
「ちょ、ダンジョンってな──!」
何! と言いたかった。
しかしもう時すでに遅し──私たちの視界は真っ白になっている。
◆ □ ◆ □ ◆
「──に…………って、ここどこ!?」
「うわーーー、スッゴーーーい!」
そこは草原だった。
どこまでも続くその場所は、ついさっきまで居た『始まりの草原』とは違い、周りに誰一人として祈念者が居ない。
「[マップ]……は、圏外? ちょっと、これってどういうことなの?」
「ここは運営が知らない場所なんだよ。だからこそ、私が君たちに何をしようとそれを知られることは決してない」
「……なら、さっきのも本当はこっちでやればよかったんじゃないの?」
「…………あっ」
ノイズ男は抜けているみたいだ。
だけど、力自体は間違いなく本物だろう。
「ま、まあ、隔離はしていたから問題ないからね。君たちが気にすることは、そこじゃないから気にしなくていいよ」
「お兄ちゃん、何をするの?」
「うぐっ……わ、私の魔力で魔物を召喚して君たちが倒す。それを何度か繰り返せば、それだけでレベルが一気に上がる。何をするにも、まずはそれに見合うだけの動きができないとダメだからさ」
「……いきなりレイドボスとか、そんなハードな無理ゲーじゃないわよね?」
無理ゲー、システム的に討伐が不可能な敵などのことだ。
ネットの情報によると、この世界では絶対ということがないので倒せない魔物は存在しないみたいだけど……単純に勝てない相手に敗北するのは当然のことでしかない。
「安心してくれていいよ。君たちに与えた力には、獲得した経験値を増やす効果が与えられているからね。たとえるなら……全部の相手がフ°ラチナキングみたいなものだよ」
「それ、『経験値アップ極大』とかそういうのじゃないわよね?」
「もちろん。そんな四倍程度で済む能力だったなら、私は君たちを救うことを諦めていたさ。その力があったからこそ、私はレベルという力を手に入れて君たちを救う選択を選べたとも言える──それだけ強力なのさ」
それだけ言わせるスキルっていったい……起きた時に[ステータス]で確認してみたのだが、なぜかそれっぽい部分だけ文字化けがひどくて確認できなかった。
そういったことも含めて、私はノイズ男を問い詰めていたのだ。
オブリちゃんが起きたので肝心の質問は途中で終わってしまったため、まだその全貌は暴けずにいる。
「お兄ちゃん、[ステータス]を見ても分からないよ?」
「──君たちに与えたのは救う力と耐える力だ。どういう力を欲しがったのかは自分自身がよく分かるはず、この世界は可能性が力を与えてくれる……名前に囚われず、望む力だけを意識して使っていくんだよ」
抜けていても、やっぱり真面目な部分は引き締めているようだ。
心にスッと入ってくるような言葉は、自然と理解を促す。
すべてができるという謳い文句であれば、相反する行動がぶつかったとき、勝敗を決めるのはいったい何なのか。
なんとなく、その答えを教えられた気がする……本当になんとなく、そう感じた。
◆ □ ◆ □ ◆
ティンスが把握しているステータス
---------------------------------------------------------
ステータス
名前:ティンス(女)
種族:(魔族/吸血鬼種Lv2)
職業:(戦士Lv4)・(料理士Lv1)
状態異常:(日光弱体)
L[能力値六割低下]
HP:200
MP:200
AP:200
ATK:20/-8/
VIT:20/-8/
AGI:20/-8/
DEX:20/-8/
LUC:40
BP:5→0
スキルリスト
武術
(剣術Lv2:職業)(盾術Lv1)(格闘術Lv1)
魔法
(闇魔法Lv2:職業)(血魔法Lv1:種族)
(回復魔法Lv1)(呪魔法Lv1)(生活魔法Lv1)
身体
(飛行Lv1:種族)(身体強化Lv1)(瞑想Lv1)
(駆足Lv1)(跳揚Lv1)(体内魔力操作Lv1)
(日光弱体Lv-:種族)
技能
(料理Lv2:職業)(鑑定Lv1)(隠蔽Lv1)
(機械術Lv1)(調教Lv1)
特殊
(戦士の心得Lv4:職業)(料理の心得Lv1:職業)
(吸血Lv1:種族)
NEW
【■■:■■Lv-】
祝福
(■■■■)
SP:40
---------------------------------------------------------
祝福の欄を読者の皆さまは分かっていると思いますので、【■■:■■】の右側はそれに関する伏字だと理解していただければすぐに中身は分かられるかと。
3
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる