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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その13

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 助っ人のカナタを代理人として立て、同じく英霊の代理人との決闘が行われる。
 勝った方がリリーを口説く……と向こうは勝手に決めていた。


「で、俺はあの女と闘えばいいのか……あの姉ちゃんもかなり色っぽいな」

「そりゃあ夢魔だしな。普通に強いから、警戒していけよ」

「はいはい、分かってますよ」


 手をひらひらとさせ、舞台の中央へカナタは向かう。
 腰には鞭を提げ、その身に纏うのは自らの運営する迷宮で手に入るアイテムの加工品。

 唯一、機械仕掛けの指輪だけが例外。
 ……まあ、その話についてはまたいずれどこかで。


「カナタさん……」

「リリーさん、相手の夢魔はどれくらいの強さなんだ?」

「現夢世界でも、上位の実力者です。英霊のお相手ですので、相応の方を付けていたのですが……彼は、それでも満足できなかったのですね」

「そうじゃないぞ。たぶん、本当にあの男は自分の女は愛するんだと思う。そのうえで、自分の愛を自分が価値あると認めた女に伝えたいと思っている……時代が時代なら、いい男だとは思うぞ」


 正確には──世界が世界なら、だが。
 きちんとした責任感はありそうだし、今回だって俺とリリーが不釣り合いだと分かっているからこそ口説こうとしたわけだし。

 そもそも価値ある女だと認識する女性全員が対象なのであれば、この現夢世界すべての夢魔が対象になるはず……夢魔たちは個体差はあれどほとんどが強いからな。

 彼なりに判断基準があり、それを満たし・・・満たせなかった・・・・・・・者が対象となる。
 リリーはそれを満たし、俺は満たせなかったこそ……今回の騒動があるわけだな。


「それに、カナタは強いから大丈夫。この世界の仕様でフルスペックは無理みたいだが、それでもいろいろとできるからな……さて、どう勝つのか楽しみだな」

「……信頼、しているのですね」

「確信だよ、それもかなりのな。うち、強さはそこまで求めていないんだが、事情が事情で強い奴ばっかり集まるから。元がそうでもない奴も、引き上げられるから地力の部分から強くなっていくんだよ」


 カナタのプレイヤー時代の戦闘スタイル、それは武器の補助に頼ったモノだった。
 だが眷属になってからは、コアさんと共に研鑽を積んできている。

 それを見ていたからこそ、カナタが呼べると分かった瞬間に頼ることを決めた。
 ──そしてその実力が、今内輪の外で示されようとしている。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「不思議な子……体は女の子だけど、心は男の娘なのかしら?」

「……おい、今絶対普通の言い方じゃなかったぞ」

「あら、そう聞こえた? でも、間違っているのかしら?」

「……チッ」


 舞台の上で話し合うカナタと夢魔。
 カナタを一目見たときから、夢魔はその在り様の歪な形に気づいたからだ。


「ねぇ、アナタは──」

「そのやり取りはさっき、あっちのヤツともしてきたんだ。別にいい、俺はこの体を自分で選んだ。自業自得……じゃねぇな、案外悪くねぇんだ、この生活も。だから、その礼ぐらいはアイツにしてやりたいんだよ」

「……そう。なら、もうこれ以上言いたいことも無いわ。お互い、愛すべき人のために戦うとしましょうか」

「あ、愛じゃねぇ! 恩だ恩、それ以上でもそれ以下でもねぇよ!」


 歪であろうと、カナタはそれを肯定している以上夢魔として言うべきことはもう何も無かった。

 開始の合図はこの世界の主にして、今回の騒動の景品とされている『夢幻』のリリムから行われる。


「お二人とも、準備はよろしいですか?」

「ああ」
「はい」

「それでは──試合開始です!」


 勝負は一瞬だった。
 夢魔は英霊の同伴者として格を高め、カナタは他の眷属たちとの修練によって膨大な能力値に見合う実力を身に着けているからだ。

 宣言と共に動いた両者。
 夢魔は何も手にしていなかった掌から魔力で武器を──巨大な戦斧を造り、カナタへ振るおうとしていた。

 だが、その足元に出現した魔法陣。
 その効果は空間転移、しかもその先はカナタのすぐ傍。

 元より向かおうとする意思があったため、抵抗する意思が薄く転移は発動する。
 魔力の流れからすぐに状況を判断し、持つ柄を短くした戦斧を振る──おうとした。


「はい、これで終わり」

「…………」

「悪いな、こういうやり方でもして完勝しないと……あとが怖いんだよ。アンタ、かなり強そうだったし」


 鞭の先端が鋭い刃と化し、首の周りに絡みついている。
 スライムを核に用いた武器『背徳の触鞭』は、あらゆる武器を模倣可能だ。

 そして、そのスライムはただの粘液を纏う魔物ではない。
 種族名『気体粘体・混沌』、神の加護を宿した気化可能なスライム。

 鞭の一部を気化させ待機、転移してきた夢魔に対してそれを巻き付ける。
 二段、三段に罠を設けることで、確実に相手を嵌め倒した。


「それで、まだやるか?」

「……私の負けよ。ここから抵抗しようとしても、まだ罠があるんでしょう?」

「正解、それが俺の魔法だからな」


 カナタの固有魔法──罠魔法。
 過去に生成した罠を魔力で構築可能なこの罠と、迷宮の罠は非常に相性が良い。

 ──彼女は【迷宮塔主】、百層からなる大迷宮の主なのだから。


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