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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その12

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 現夢世界の英霊と闘うことに。
 ただし、弱体化している今は俺自身が戦うことは難しいため、代理を立てての決闘を行うことになった。

 問題は、呼び出す眷属が居るかどうか。
 寝ていることが必須で、かつ子供を呼び出すわけにはいかない……この状況で寝ている眷属が居るのか分からなかった。


「さて、どうかな……っと」


 ほとんどのスキルは使用不可能だが、それでも健在な希少なスキルの一つ[眷軍強化]。
 一部の能力は発動できないが、その一つである眷属の状態チェックは可能だった。

 ほとんどの眷属が起床中……ついでに、かなり焦燥している模様。
 連絡が取れないので、大変申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 呼び出すことはできても、こちらから連絡することはできないとのこと。
 なので呼んだ眷属に、あとでここの話をしてもらうしかない。


「……あっ、居た」

「メルスさん、大丈夫でしたか?」

「ああ、何とかな……それより、一人都合のいい眷属が居たんだ。リリーさん、呼び出せるように取り計らってくれるか?」

「は、はい。それでは、準備をしますね」


 リリーの補助を受け、眷属をこの場に呼ぶための準備を行う。
 普段の召喚魔法と違い、あくまで呼び出すのは寝ている眷属の精神体のみ。

 本来なら困難なこの世界への入場も、世界の主が特例で許可を出してくれるので問題なく可能だ。


「行くぞ──“召喚サモン眷属ファミリア”!」


 今の俺に召喚魔法は使えない。
 だが、眷属との繋がりの証である印を媒介とすれば、眷属を呼び出すこの魔法に限り使うことができる。

 魔法を発動させると、俺たちの眼前に出現する魔法陣。
 そこにリリーが手を加え、魔法陣が桃色に光り輝く。


「──ここ、は?」

「おいっす、さっそくだが助けてくれ」

「…………えっと、どういう状況だ?」


 現れたのは褐色肌の少女。
 その耳は普人族と違い、横に少し鋭い。
 そしてその容姿は、まるで作り物のように可愛らしい……アバターだしな。


「ここは夢の世界、そして夢魔の楽園。お前は俺が呼んだ……んだが」

「だが?」

「たぶん今、俺の精神体がこっちに来ているから大騒ぎのはずなのに。よくぐっすり寝ているよな……コアさん、お前のこと子供扱いしているだろう」

「そ、そんなことねぇ……はず……たぶん」


 彼女──カナタはとあるVRゲームのアバターのまま転移した、元男のTS少女。
 そのゲームは迷宮ダンジョン運営モノで、サポートをしていた人格を擬人化させたのがコアさん。

 いろいろあり、カナタとコアさんはキマシの塔を築くようタワーな関係になっている。
 からかわれることが多いのだが、その根幹には彼女なりの優しさがあるんだよな。


「まあとにかく、そんなだから子供以外に寝ている眷属がお前しか居なかった。俺とこの女性……『夢幻』のリリムことリリーさんのために戦ってくれ」

「マジで意味が分かんな……って、エロ!」

「! うぅ……」

「止めたれ。あんまりそういうの、得意じゃないみたいなんだよ。リリーさん、こいつはカナタ。体は女だが、元は男だった。だから多少の発言は許してやってくれ」


 中身が元男なので、リリーを見た際の反応もお盛んな少年みたいな感じなカナタ。
 ただ、ある意味コアさんに『わからせ』られているので、言うだけで大人しいけども。


「わ、悪い……リリーさんも、すまん。俺もこの体になって、男がそういう目で見るのが嫌って分かったからな」

「いえ、それ自体は慣れてますので……えっと、カナタさんこそ、そのような体で。不便ではありませんか?」

「……もう慣れたよ、いろいろと。まあでもなんだ、今じゃこの体で良かったと思うこともあるよ。そもそもこっちに来なかったら、アイツとも好きなように話せなかったしな」


 元のゲーム内で、コアさんはただの迷宮核ダンジョンコアでしか無かったらしい。
 だが転移後、それまでに無かった自由性を有した人格を手に入れていた。

 アバターを女型にしていたのは当人の責任ではあるが、どのような姿であっても彼女らの間には深い絆があっただろう。


「そうですか……あるいはどうにかできたかもしれませんが、ご自身の判断を選ぶ方が良いでしょう」

「えっ、ちょっと待って。マジで、元に戻れるの──」

「よし、じゃあそろそろ行くか。ほら、カナタも諦めろって……コアさんも俺も、今のお前の方がいいと思うぞ」

「…………マジで止めろよ、そういうの」


 どのような心境で言った台詞なのか、言った当人にしか分からない。
 ……はずだが、少し赤く、そして揺れる耳が教えてくれていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 闘技場へやって来た俺たちを迎え入れるのは、闘技場を埋め尽くす観客からの歓声。
 来訪者と夢魔たちが席に着き、いちゃつきつつこちらを見ている。

 そして、舞台の上で待つのは多くの夢魔たちと一人の男。
 リリーを口説こうとした英霊、今回の騒動の発端である。


「へぇ、それがお前の女か……まあ、いいんじゃねぇか、お似合いだぞ」

「おいおい、お似合いだってよカナタ」

「状況がよく分かってねぇ俺でも分かるぞ、アレ絶対に誉め言葉じゃねぇからな……」

「まあ、何でもいい! とにかく、そこの女と俺の女が戦って、勝った方がそっちのエロい女を口説けるってわけだ! ここに居る全員がその証人だ!」


 リリーさんがまた恥じらう中、歓声が再び上がる闘技場。
 女を取り合う戦いということで、興奮しているのだろうか。

 ──そんなこんなで、カナタを代理として戦いが始まるのだった。


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