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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その10

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 同伴者リリーの正体は『夢幻リリム』だった。
 だからといって、試練には挑まない……結局俺は彼女との契約で弱体化しているから。

 まあ、それにしてもいつかは挑むつもりではいる。
 だが今ではない、時間はあるのだからこの状態に慣れてからでもいいだろう。


「──うーん、しかしこの街には色んな施設があるよな。ある意味、この世界だけで完結できるぐらいには」

「そ……そうですね、皆さんの需要に応えていたらいつの間にか……幸い、それを叶えることができる力がございましたので」

「迷宮とかもあるのか?」

「うぅ……【迷宮主】を必要とする迷宮ではなく、擬似的な物ですが。中に出現する個体も、招かれたモノではありません。宝などもございますので……行ってみますか?」


 せっかくの提案だが、今回は丁重にお断りすることに。
 いやまあ、行ったら行ったらで切り上げるタイミングが難しそうなので。

 戻ってきた街の中では、相も変わらず来訪者と夢魔がイチャイチャしている。
 もしかしたらその提案も、そんな光景を見ないためのものかもしれないな。

 街の中の施設は、この世界の理上できないこと以外のほぼすべてに対応している。
 要するに、スキルの販売や転職設備などは無いが、娯楽には溢れているのだ。

 一年中楽しめるプールだったり、ド派手な演出で輝くカジノなど。
 他にもコロシアムや劇場など、楽しめる施設だらけだ。


「ところで……」

「な、何でしょうか?」

「リリーさんって、その調子で主としてやっていけているんですか?」

「うぐっ……じ、自覚はしているんですけども。や、やっぱり、どうしてもその……苦手でして」


 うん、夢魔たちの主である『夢幻』。
 だというのに、少し淫靡な光景を目にするだけで顔を真っ赤にしているからな……それはそれで、需要がありそうだけども。

 俺もそれ自体は嫌いではない。
 だがなんでだろう……彼女の行動一つひとつが、こっちでは高ぶることの無い俺自身の
{感情}を刺激するんだよな。

 おそらくは、大神であるリフィリングが関係しているとは思うのだけれど。
 アイ同様、『超越種』は大神によって創造されている場合が多いからな。

 だからこそ、何らかの要因で{感情}が正常に機能していないと思われる。
 ……逆に言うと、ここで『侵蝕』でも起こしたら大変というわけだな。


「メルスさん……何かございませんか?」

「な、何かって……何が?」

「あ、あのようなやり取りを見ても、平常心でいられる方法……リフィリング様からお聞きしていますよ、メルスさんはその……は、ハーレムの主であると」

「…………あの神、人への神託は意味不明なものだったのに、そんなことはちゃっかり伝えてやがったのか」


 アレから本当に、信仰というか捧げ物をしていたのに……今度覚えていろよ。
 とはいえ、せっかくの頼まれ事なので少し考えてみよう。


「うーん、もともとの俺……現実世界の俺は全然だったぞ。ただ、こっちの世界に来るようになってからは、「感情}……たぶんそのリフィリングの力の一部を貸し与えられたから、どんなことにも動じず対応できている」


 信仰云々で軽く調べたところ、その事実が発覚した。
 本来、リフィリングが冠するのは感情──そして俺のスキルもまた{感情}。

 相対した(?)際、声に抑揚や想いが感じ取れなかったのは、おそらくそのため。
 俺という凡人に、司る権能を下賜しているからこそなのかもしれない。

 ……まあ、返せと言われても、正直困るけれども。
 俺も自惚れてはいない、これ無しで眷属を守り切るのはまだ目標でしかない。


「何か、リフィリング……様から聞いていないのか?」

「え、えっと……メルスさんがハーレムの主であること、またメルスさんに自身のスキルが集まるようにした……とは伺っておりました。それ以上のことは、何も」

「集まるように? ……まあ、神様のやることをいちいち考えても仕方が無いか。つまりアレだな、特別な仕掛けはあるかもしれないし無いかもしれない。俺からの助言は、参考程度にするべきってことだ」


 現実では残念過ぎる凡人たる俺に、コミュ力云々を期待しないでもらおう。
 こちらの世界では理想の偽善者を体現する振る舞いをしているが、それも演技だしな。


「俺から言えるのは……そうだな、これからリリーさんがどうしたいか、それを考えるべきなんだろうな。いつも言っているんだが、それが本人の望まないことだと意味が無いからな。それが間接的に繋がるはずだ」

「……少し、考えてもいいですか?」

「ああ、好きなだけ考えればいい。俺はその答えに適したアドバイスをするだけだ。正解かどうかは分からないけどな」


 世界の主リリムという責任の重みが、出会ったその時にリリーと名乗った理由かもしれない。
 彼女は俺の同伴者、伴う責任のほんの少しでも支えられるなら協力しようじゃないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──たしかに、支えるとは考えた。
 だが口にしていないので、無効にならないかなぁと思う今日この頃。


「おい、準備はできているだろうな?」

「…………」

「余裕そうだな……いいぜ、その面を歪ませてやるよ」


 今の俺は弱体化済み。
 武具だけは一丁前に壊れないレア物を着ているからこそ、こんな展開になってしまったのかもしれない。

 遠くで見つめるリリーは、大変申し訳なさそうな顔をしている。
 そう、これは彼女を支えるという誓いを果たすための、最初の試練だった。


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