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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その09

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 同伴者として付いてきているリリー。
 だが、魔物討伐の支援は全然行えず、それでいて人族相手であれば絶対的な優位性を持つ力を持ち合わせていた。

 そこで確信をある程度得た俺は、彼女をこの世界の奥へと連れ出す。
 ……まあ、今の俺にそれを行うだけの実力は無いんだけども。


「……やっぱりかぁ」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、何でもない……それにしても、ここが世界の果て、なのか?」


 現夢世界の端はとても分かりやすかった。
 なぜなら、それ以上先の光景がいっさい存在していなかったからである。

 あえて視覚的に捉えた物を表現するのであれば、それは虹色の靄だろうか。
 それが境界線となり、この夢の世界と現実の世界を隔てている。


「はい、ここより先に出ることで、来訪者の方々はこの世界から離れ、目を覚ますことになります。ただし、それは非正規な手段。ゆえに再入場はしばらくの間できなくなりますのでお気を付けください」

「なるほど、そりゃあ危ないな」

「ところで、どうしてこのような場所へ?」

「うーん、俺の居た世界だと、こういう話を断崖絶壁みたいな端で行う様式美があるからさ。まあ、そういうものだと思ってくれ」


 彼女には理解し難いものだろうが、ここに来るまでの過程でもさらに確信に近づいた。
 俺は境界線付近に彼女を立たせ、話を進めていくことに。


「リリーさん、俺はいくつか疑問に思っていたことがある。それは貴女についてだ」

「…………」

「っていちいち挙げていくのも面倒だから、単刀直入に聞くけども──『夢幻』、この世界の主ってリリーさんか?」

「……本当に、いきなり訊いてきますね」


 だが、単純なのは嫌いじゃないようで。
 初めて出会った際の拙い演技も、それを止めた素の振る舞いでもない……今の彼女からは、強い圧を感じた。


「そりゃあ早いに越したことはないし。いちおう言うと、特段リリーさんが何か露見するような振る舞いをした……のは間違いないけども、そこまでじゃないと思うぞ」

「……あまり、庇われても困ります」

「まあまあ。で、一番の理由はそもそもの話なんだが……俺はここに来る前、とある神様から神託を聞いていた。神託が示したこの場所で、邪縛に耐えられるいろいろと怪しい夢魔──これ、普通結びつけないか?」


 いろいろと怪しい、という時点で胸を押さえて苦しそうな演技をするリリー。
 だから彼女を問い質すのではなく、いきなり答えを求めたんだよな。


「ち、ちなみに……その御方とは?」

「感大神リフィーリング」

「…………そう、でしたか。では、隠し事はできませんね」

「なら、やっぱり──」

「ええ、予定とは違いますが、ここまで知られているのであれば仕方がありませんね──そうです、私が『夢幻』。本当の名をリリムと申します」


 以後お見知りおきを、と笑うリリー……改めリリム。
 たしかその名は、人の祖であるアダムと悪魔の間に生まれた娘の名前だったか。

 地球の神話がこちらの世界にどう影響しているのか……などと、今更野暮なことは考えたりしない──すべての事象に意味はある、そう俺は思っている。


「それで、私に名を明かさせ。メルスさんは何をお望みですか? これまで『超越種』の方々と出会ったというのであれば──試練を望みますか?」


 試練、『宙艦』と『還魂』に課せられた極級職に就いた祈念者でも達成困難な課題。
 彼らの存在理由に合わせた内容を出してくるのだが、『夢幻』もまたそれを行う。


「それでもいいんだが、まだいいかな? いちおう正体を明かす場所を考えて、ここに来ただけだしな。今の状態だと、俺としてのスペックが全然発揮できないし……ちなみに、契約についてはどうなるんだ?」

「こうなった以上、残念ですがメルスさんとの契約は──」

「ああいや、別にそのままでもいいんだ。俺としても、リリーさん? リリムさん? との繋がりは合った方が嬉しいからな。そっちから解消されないなら、そのままにしておきたいんだが……ダメか?」

「えっ? そ、それは構いませんが……ほ、本当によろしいのですか? そのままでいますと、やはり弱体化が……」


 なお、これも俺が『夢幻』の正体に気づけた理由の一つ。
 いくら何でも、俺のすべてを抑制できるほどの強さは普通の夢魔には無いはずだから。

 世界の補助があってのことかもと思っていたが、結局は圧倒的な格の差だった。
 俺の体は眷属謹製の物だが、使い手が俺であるためまだ差があるんだよな。


「弱体化? いや、これは俺にとっても意味のあるものだ。たとえ試練を課されようと、俺はこのままそれを実行しよう」

「メルスさん……」

「だからどうか、繋がりを絶たないでくれ。なんせ、まだ出会ったばかりなんだ。少なくとも今、俺が話をしているのは『夢幻』のリリムじゃない。俺の専属同伴者、リリーさんだからな」


 本当に、まだ一日も経っていない。
 だからこそ、いきなり試練に挑むようなことは避けたい……『宙艦』のときは強制されたが、今回は選択の自由があるみたいだし。


「じゃあ、戻ろうか。ちなみに、ここに来るまで襲われなかったのも『夢幻』だって確信した理由の一つだぞ」

「……夢魔たちが私たちの邪魔にならないようにと、勝手に動いていまして」

「まあ、うん。愛されているんだな」

「はい、とても……」


 まあ、実際には彼女たちの期待にはそぐえない話をしていたわけだが。
 ……本当すみません、眷属に相談なしだと怒られるからなぁ。


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