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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その08
しおりを挟むこの世界の主、『超越種:夢幻』に会うためには資格が必要だ。
そしてそれは、英霊となるような死を得るか──夢魔との契約が求められる。
だがどちらも、ある意味難易度が高い。
なぜなら前者に死が必要なのはもちろんのこと、後者であっても求められる域の契約にはほとんど死が必要となるからだ。
夢魔との契約は、ただ専属としてご指名して同伴してもらう……わけではない。
彼女らにもまた、相応のメリットがあるからこその契約なのだ。
「夢魔との専属契約を交わした者は、この世界における活動の一部が制限される。身力の最大量の制限、獲得熟練度量の制限、他にもいろいろと制限をして……それでようやく、リリーさんと契約したわけだしな」
「ほ、本当にすみません……」
「リリーさん独りでこれなんだから、謁見に必要なだけの契約量って……そもそも契約をする時点で、戦闘行為で勝つのってほぼ無理になるんだよな」
回復量にも制限が生じているので、膨大な量の身力があっても心もとない。
ついでに強化量にも制限があるため、戦闘も夢魔頼りになっていくんだよな。、
これもまた、夢魔たちに依存させてこの世界で暴れさせないための策なのだろう。
実際問題、何もせず夢魔たちと遊ぶだけなら何ら困ることなど無いのだからな。
「ふぅ……リリーさん、少し外に付き合ってもらえないか?」
「付き合……あっ、はい。その、今の状態で大丈夫なのですか? 私が言うことではありませんが、かなり弱っているはずですよ?」
「それには慣れているから大丈夫」
「……慣れている?」
縛りプレイで本来の能力値とは違う能力値で活動したり、特殊な状態異常を常時背負ったりといろいろやっている。
平然としていることからも分かるが、特段今の状態でも活動可能だ。
だからこそ、少しばかり外で確認したいことがあった。
◆ □ ◆ □ ◆
魔物が勢いよく体当たりをしてくる。
攻撃を先読みして、事前に動いていた俺。
タイミング的にはほぼピッタリ、横を通過した時点で持っていた剣を振り下ろした。
「す、凄いです! さすがメルスさん!」
「……そりゃあ街からすぐの魔物だし、そこまで強くないからだよ。武器はきちんとした物だし、弱くても勝つ方法はあるさ」
「いえ、メルスさんはその……無職だと拝見しております。だというのに、これほどの動きが行えることが驚きなのです」
「人族は職業に就く前提の存在だしな。けどまあ、ずいぶんと長い間職業に就いていないと、割と慣れるものだぞ。それに、職業は補助だしな。相手に勝つ、それだけなら無職でも何でもできるだろう」
職業が必須になるのは、相手がそういったギミックを有している場合のみ。
単純な攻撃の繰り返しで倒せるならば、無職でもどうにかなる。
なので攻撃を躱し、隙を見せたら攻撃を行うという一連の動きを繰り返せば良い。
できるできないの話ではない、今の状態ではやるしかないのだ。
「しかし、リリーさん……」
「ご、ごめんなさい……!」
「いやまあ、別にいいんですけど」
何があったか……何も無かったのである。
周囲で夢魔たちが来訪者を支援する中、俺はただ声援を受けていただけ。
しいて言うなら、視覚的にいろいろと心揺さぶられているぐらいだな。
他の夢魔たちに戦闘的な支援を受けている来訪者が、とても羨ましそうにしている。
……そして他の夢魔たちは、なぜかリリーにお辞儀をしていた。
邪縛への耐性しかり、何かしら特殊な立場にあるのかもしれない。
「いちおう聞いておくけど、リリーさんは戦闘でどんな支援ができる?」
「えっと……み、魅了、でしょうか?」
「たしかにそれは……その通りだけども」
「?」
うん、男性陣はこぞって魅了されている。
女性の来訪者は憎々しげにこちらを見ているが、文字通りスペック差を見てしまっているからだろうな。
「ほ、他には?」
「ええっと…………そ、そうです、動きを止めることができます!」
「ふむふむ……それ、やってもらうことはできますか?」
「は、はい、やってみます」
そんなこんなで、魔物を探して再戦。
動きを止めるということで、まずは様子を見ながら戦闘を始める。
「むむむぅ……」
「…………」
「むむむむむむぅ……」
「……えっと、リリーさん?」
しばらく戦っていたのだが、魔物が動きを止めることはない。
結局、五分ほど待っても変化は無かったため、そのまま討伐することに。
「あの、リリーさん。確認ですが……どれほど時間が掛かりますか?」
「ま、魔物が相手ですと……じ、十分くらいでしょうか?」
「実戦向きでは無いか。けど、魔物が相手だとってことは、それ以外には必要な時間が変わるってことか?」
「人族が相手であれば──はい、このように一瞬で可能ですね」
俺の視線の先に居た来訪者が、突然硬直して身動きを止めた。
苦しんでいる様子は無く、ボーっとして意識を失ったかのような変化だ。
魔力の反応を探っていたが、リリーから魔眼特有の波動は無かった。
つまり、スキルや能力などではない、より根本的な力なのだろう。
「……リリーさん、もっと奥に行けます?」
「えっ? ……は、はい、大丈夫です」
俺の表情から、何かを察したのだろう。
彼女もまた、真剣な顔で応じてくれた。
──さぁ、答え合わせを始めようか。
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