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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その07
しおりを挟むこの現な夢の世界には、過去の英雄──つまりは英霊たちが存在している。
極級職を求める者ならば、死者の都と同じくらい来たい場所だろう。
死んでもなお、英雄は色を好む。
専属と思われる夢魔たちを囲うその姿に、そんなことを思った。
「えっと、大丈夫か?」
「は、はい……すみません」
「まあ、アレはかなり特殊なヤツだと思うけどな。でも、今までアレを見たこと無かったのか?」
現在、リリーは精神的に滅入って座り込んでいた。
通りすがりの英霊がハーレム三昧している姿、それを見たことが弱った理由である。
だが、英霊はずっとこの街に居るのだから一度は遭遇しているはずなのだが。
しかしリリーの反応は、まさに初めて見たときのもの……どういうことだろう。
「そ、その……実は私、とある事情から外にあまり出ていなくて。あの方がここに居ることは知っていたのですが…………うぅ、あのような振る舞いをしていたとは」
「まあ、邪縛に耐えられる実力者だからな。でもリリーさん、それなら俺の同伴者になってくれて良かったのか?」
「……ええ、これも運命でしょう」
「運命?」
俺の問いに答えることなく、リリーは気を持ち直して動き出す。
いかにもなフラグっぽいが、心当たりが一つだけあるので聞かないでおこう。
「──着きました! ここが、私のオススメの場所ですよ」
「えっと……ライブ会場?」
そこは街の中央、広場に設置された御立ち台だった。
夢魔がそこで歌って踊り、来訪者がそれを見て聞いて楽しんでいる。
スポットライトが当たり、軽快な音楽が流れるなど……アイドルっぽい。
いやまあたしかに、夢魔は美女から美少女まで揃っているけども。
「すみません……実は私、あまり見知っている場所があまり無くて。ですが、ここのことはしっかりと覚えていまして」
「いや、大丈夫……けど、どうしてこんなことをやっているんだ?」
「彼女たちも、同伴者として指名することができますので。付加価値を増やすため、という大義名分を基に行っているようです」
「…………」
突っ込んだ方が良いのだろうか。
だがまあ、とっさに見た彼女の表情はとても真面目だったので……言い出せない。
とにかく、この場にはアイドルに手を出そうとする連中が混ざっているわけだ。
もちろん、この世界ではそれが合法で、彼女たちもそれを望んでいるようだが。
「同伴の指名って、たしか追加の支払いが求められるんだよな? 俺は邪縛云々があるからってそこまで求められなかったけど……彼女たちを指名するって、どんな対価を求められることになるんだ?」
「単純に金銭やアイテムでも構いませんし、その……そういった行為を求める夢魔も居ますね。不要ではありますが、行えばその分自分の力になりますので」
「夢魔って、そういう性質もあるんだな」
「はい……あの場に居る夢魔たちは、そうして力を蓄えていますね。力を得れば、その分だけ私たちはこの世界の外側へ出られる時間が手に入ります。より外に居るため、彼女たちは頑張っているんですよ」
夢の世界の住民である夢魔たちは、現実での肉体を持たない。
だが蓄えた力を消耗することで、ある程度現実での活動を可能にするとのこと。
「じゃあ、この世界で一番力を持っているであろう『夢幻』は、現実世界にいくらでも居られるってことなのか?」
「…………」
「リリーさん?」
「! そ、そうですね、そうだったと思います。ただ、一番力を持っているかと言いますと……少し語弊がありますね」
何でも、『夢幻』はこの世界の管理者であり、最強というわけでは無いらしい。
そもそも、最強なのであれば英霊たちを引き込む必要も無いわけだしな。
「──つまり、『夢幻』はこの世界を操作して有利な状況を作れても、本人にそこまで力が無いから最強ではない。だからこそ、英霊や強い夢魔に守ってもらっていると?」
「……とのことです」
「そうか……まあ、別に戦闘狂じゃないから残念ではないけど。でも、それならそれで会えなさそうだな……そこは残念だ」
「! あ、会ってみたいのですか?」
なんだろうか、怖れというか緊張というかそういったものをリリーから感じる。
まあ、夢魔の全員が『夢幻』を見たわけでもないだろうし……そういうことか?
「俺、いちおう『還魂』、『宙艦』、それと『万蝕』に接触しているからな。せっかくここに来たからには、やっぱり会っておいて損は無いと思ったんだが……無理か?」
「え、ええっと……あ、会うには、条件がありまして──」
英霊となる資格を持っているか、あるいは一定回数の現夢世界の利用。
あるいは──
「契約した夢魔の度合い……」
「それぞれ、夢魔は実力ごとにランク付けされています。それらを数値として、その合計数が一定に達している場合、晴れて謁見することになるのです」
「…………ああ、それなら納得だ。だって、リリーさんでアレなんだから、何人も契約できる人の気が知れないよ」
「うっ……す、すみません」
夢魔の同伴、そして専属契約。
それらは決して、無償で行われるものではないわけで……吸われているのだ、常時──寝ている肉体には不要なエネルギーが。
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