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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その06

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 現夢世界について、まずはリリーから確認することに。
 そして、この世界を再訪するために彼女と契約を交わすことになった。

 それをしておかないと、次に来るのがいつになるのか分からなかったからこそ。
 ……済ませた後、顔を真っ赤にしているリリーについては見なかったことにする。

 案内所という名のキャバクラを出た俺たちは、外を見渡す。
 なぜか、夢魔たちが俺たち……というよりリリーさんを見てギョッとしていた。


「……そ、それでは外へ向かいましょう! ええ、いろいろなものがありますよ!」

「そうだな……うん、リリーさんのオススメの場所を案内してほしい。食べ物でもショッピングでも、外で戦闘経験でも何でもいい。リリーさんにお任せしたい」

「わ、分かりました。えっと……その、メルスさんは……スッキリしたいでしょうか?」

「…………そういうのは、気にしなくても大丈夫だから。分かると思うけど、そういう気分になっていないしさ」


 夢魔は少々相手がアレなことを考えていると、察しが付くらしい。
 能力なのか、あるいはここでの経験が基づいているのかは不明だけども。


「えっ? そ、そう……でしたか。す、すみません! わ、私、そういうのに……その、疎くて……」

「いや、分かってくれればそれでいい。それより、そんな俺でも案内してもらえるような場所ってあるか?」

「は、はい! で、では……い、行きましょうか、メルスさん」

「んぐっ!? ……あ、ああ」


 相手の反応に引き摺られ、俺もまた行動の一つひとつに恥じらいを覚えてしまう。
 ……ただ手を繋ぐだけなのに、俺たちは赤面したまま街を歩くことになった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 街からすぐに外へ出た俺なので、何があるのかなどはそこまで把握していない。
 せいぜいが、今日はどの店に居る誰の所へ行くという男たちの会話ぐらいだ。

 そんな俺なので、普通に並ぶ料理店やアイテムの販売店に驚いてしまう。
 リリーは紹介が上手くいったと感じてくれたようで、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「驚きましたか? そういった需要はありますので、こうして店などはございます。もちろん、現実のお店と何ら変わりありません」

「えっと、現実に反映されるのか?」

「食べた記憶は反映されますが、食べた物は反映されません。買い物に関しては、お代さえ払ってもらえれば、商品が皆さんの枕元に届くようになっていますよ」

「有名な店が多いな……これ、現実の店との繋がりはどうなっているんだ?」


 尋ねると、きちんと答えてくれる。
 曰く、各お店の元お偉い様がこの世界に招かれているらしい。

 現実では霊薬なども効かない体となり、そのまま死んでしまうような身。
 それが無い夢の世界へ招かれることで、彼らは再び自由に活動ができるようになる。

 その話を聞いて、俺の中で北欧神話に伝わるワルキューレとエインヘリヤルという存在が頭に浮かんだ……実際には、夢魔とそれに惑わされた人々なんだけれども。


「彼らはそのままここに残っているのか?」

「定期的にお戻りになられますが……少しずつ、こちらに居る時間が長くなりますね。向こうでは不自由で、のびのびとしたいという思いに応えて招いておりますので。なお、死亡後は普通に来れなくなります」

「そこは『還魂』の領分だからか?」

「……よくご存じですね。はい、概ねその通りです。お世話になっていますが、彼らでは永住はできません。幸せな夢の中で眠ってもらえるように私たちは協力しております」


 永住、つまりは現実にもう戻らなくなる。
 それが意味するところは……現実での死なのだが、現実世界において生と死を担当するのは他でもない『還魂』であるアイだ。

 ゆえにこちらへ引き込みずっと生かすことはできず、死なせているらしい。
 だがその例外、永住できる者も彼女の言い方では居るみたいだな。


「たとえば……あっ、居ました。あちらの方のような者であれば、この世界に死後も残ることになります」

「……強いな」

「はい、生前は極級職として自国を魔物たちから守護していました。その功績が評価されて、彼はこちらの世界での永住が許されたのです」

「…………英雄は色を好むっていうけど、まさにそんな感じだな」


 それこそ、先ほど考えたエインヘリヤルのような存在なのだろう。
 彼らだけは、アイの下にではなくこちらの世界へ招かれることになると。

 死者の都の人々も、死に方によってはこちらに来ていたかもしれない。
 濃密な負の魔力によって、それも叶わずにアンデッドとなっていたわけだし。

 知っている極級職の故人と同等の実力を、今の状態でも感じ取れた。
 ……ただし、周囲は夢魔に囲われていていろいろと顔がだらしなかったけども。

 まあ、実力は本物なのだろう。
 そんな彼と同様に、実力者たちが街の中には点在している……騒ぎを起こせば、彼らと敵対することになっていたはずだ。


「まあ、祈念者でもない限り、わざわざそんな愚行はしないか。その祈念者も、ここにはほぼ来れないし……大丈夫だな」


 なお、彼らは契約によって職業を離職しているらしい。
 なので彼らから直接聞けば、その英傑としての力を得るヒントが得られるだろう。

 そういった意味でも、祈念者はここに来ることを求めるだろう。
 ……まっ、許可が貰えたら、信頼のできる連中を介して少しずつ流していきますか。


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