2,416 / 2,518
偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その05
しおりを挟む見た目がエロいリリーさん(仮)が、俺の同伴者になった。
俺の邪縛を無視できる存在、現状でそれが可能なのがリリーさんだけだったようだ。
だがなぜだろう、ここの夢魔たちは来訪者への対応など日常茶飯のはずなのに……彼女の振る舞いはとても拙く、まるで初心な少女のようでもあった。
「えっと、リリーさん」
「は、ふぁい!?」
「…………とりあえず、口調は素のモノで大丈夫です。ここに来るのは初めてで、あまりよくは分かりませんけど。少なくとも、大人の人と同じような目的はありませんので」
「…………申し訳ありません。メルスさん、そちらも口調は気軽なモノにしていただいて大丈夫ですよ。あっ、メルスさんとお呼びしても構いませんか?」
お互い、いろいろと複雑な心境だったのでそれらを少しずつ止めていく。
完全にでは無いものの、相手を見る目も変わっていった。
名前に関しては、事前の記入欄にきちんとプレイヤーネームを書いたからだろう。
……あるいは実名でも、彼女はそちらで俺のことを呼んでくれていたかもしれない。
「改めまして。リリーです、メルスさんのご要望に……合っていますでしょうか?」
「うーん…………控えめに言って、かなりイイと思う。というか、こっちも聞いておきたいんだが……紙の内容的に俺って、とんでもないクズじゃないか?」
「『周りに美女や美少女だらけだから、それに釣り合うレベルが好い』でしたか? 街で見た夢魔たちに、ご不満はありましたか?」
「…………見た目的には無かったんだが、精神性まで求めるとな。実際、邪縛云々のことも含めるとかなり厳しいハードルだったって今更思っている」
書いていた時の俺は(……というか今の俺もだけど)どうかしていた。
現実では絶対に書かないような要望まで、ふわふわしたノリで書いていたのだから。
邪縛云々などまだ理性があった頃の記入。
リリーが語ったような、正直イカれたヤツか調子に乗っているヤツが書くようなことを思いっ切り書いていた。
「ご安心ください。容姿に関しては当然、メルスさんが望まない容姿の方はほとんどいませんよ」
「えっと、ほとんど?」
「世界には、さまざまな趣味嗜好がございますので。そういった事柄にもきちんと対応しております……なんせ、夢ですので」
「…………夢、だからか」
忘れていなかったわけではないが、たしかにここは夢の世界だ。
同時に現実ともリンクする要素があるのだが、その辺はどうなのだろうか。
それについて尋ねてみると、リリーはあっさりと知りたかったことを教えてくれた。
ソファに座り、用意されたドリンクを飲みながら話をすること数十分。
「──つまりアレか、ここは生命の揺り籠的な目的のために存在する場所だと。コウノトリがキャベツ畑から運んでくるって話は聞いたことがあったが、まさか夢魔が似たようなことをやっているなんてな」
「あ、あの……あ、あくまでもそういった能力があるだけでして……その、そういうことはしてませんからね!」
「そうだな、そういうことはしていなくても問題ないんだな」
「……も、もう、あまりからかわないでください」
結論通り、現夢世界は『夢幻』が課せられた使命──つまり生命のバランス調整のために存在している場所らしい。
夢魔たちはその命に従い、来訪者たちから繁殖に必要な要素を回収。
交渉(意味深)をせず、能力的に増やした別個体を外部に放出しているようだ。
ゲームのような世界ではあるが、そのすべてがゲームのように動いてはいない。
魔物の発生にもある程度法則性があり、無尽蔵に出現するわけでは無いのだ。
だからこそ、現実世界でいうところの絶滅危惧種などを保護するのがこの世界。
それに必要なエネルギーの回収を、主に人族の来訪者で行っているようだ。
「スキルの新規習得ができないのにも、納得がいった。成長の反映は、あくまでも夢から覚めてからなんだな」
「はい。本来、夢の中で得た経験は目を覚ませば忘れてしまうもの。その元来の性質を歪めようものなら、無意識の抵抗が強制的に意識を覚醒させてしまいます。なので、そういう弊害が無いように調整されています」
「……ちなみに祈念者が来た時、初期装備なことについてはどういった説明が?」
「えっと、それはですね……皆さんの場合、擬似的な魄……アバターと実際の魂との結びつきが不安定でして。そのため、一部のアイテムを除いて初めてここを訪れた際は強制的に解除されてしまうのです」
祈念者は寝るとそのまま[ログアウト]するばかりで、残る者が稀だったため起きることが無かったらしい俺のようなケース……以降はどうにか調整を試みるらしい。
なお、その例外というのが自我を持つ……つまり夢を見ることができるアイテム。
俺が塗料シリーズを呼び出したのは、ある意味裏技のようなもの。
まあ、神器や聖魔武具を持ち込んでいたら夢魔たちもかなり警戒していたらしい。
……『夢幻』に伝わる可能性もあったし、今回の流れで正解だったのだろう。
「えっと、質問はこれですべてですか?」
「ああいや、最後に二つだけ。この場所から出るには、どうすればいいんだ?」
「こちらの世界でも眠る、それがこの世界から出るもっとも簡単な方法です。時間については先にお話しした通り、向こうとこちらとでは速さが異なりますので、ある程度起床する時間は調整が可能ですよ」
「そっか……なら、じゃあ最後の一つ。ここに来るために必要なものって?」
来訪可能というのであれば、眷属たちに今回の出来事を話したうえでもう一度来てもいいと思っている。
だからこその問いだったのだが……どうしてか、再びもじもじしだしたリリー。
……何となく察しはついたが、あえて何も言わずに待つことに。
「その、ですね……二度目以降は、えっと、専属の同伴者を決めていないとですね、数か月単位で来られなくなりまして……その方法があの……えっと…………」
「…………」
そこまで過激ではない、とだけ書き記しておこう。
俺は【純潔】のままだ…………そう、だってこれは夢なのだから!
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる