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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その05

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 見た目がエロいリリーさん(仮)が、俺の同伴者になった。
 俺の邪縛を無視できる存在、現状でそれが可能なのがリリーさんだけだったようだ。

 だがなぜだろう、ここの夢魔たちは来訪者への対応など日常茶飯のはずなのに……彼女の振る舞いはとても拙く、まるで初心な少女のようでもあった。


「えっと、リリーさん」

「は、ふぁい!?」

「…………とりあえず、口調は素のモノで大丈夫です。ここに来るのは初めてで、あまりよくは分かりませんけど。少なくとも、大人の人と同じような目的はありませんので」

「…………申し訳ありません。メルスさん、そちらも口調は気軽なモノにしていただいて大丈夫ですよ。あっ、メルスさんとお呼びしても構いませんか?」


 お互い、いろいろと複雑な心境だったのでそれらを少しずつ止めていく。
 完全にでは無いものの、相手を見る目も変わっていった。

 名前に関しては、事前の記入欄にきちんとプレイヤーネームを書いたからだろう。
 ……あるいは実名ぎめいでも、彼女はそちらで俺のことを呼んでくれていたかもしれない。


「改めまして。リリーです、メルスさんのご要望に……合っていますでしょうか?」

「うーん…………控えめに言って、かなりイイと思う。というか、こっちも聞いておきたいんだが……紙の内容的に俺って、とんでもないクズじゃないか?」

「『周りに美女や美少女だらけだから、それに釣り合うレベルが好い』でしたか? 街で見た夢魔たちに、ご不満はありましたか?」

「…………見た目的には無かったんだが、精神性まで求めるとな。実際、邪縛云々のことも含めるとかなり厳しいハードルだったって今更思っている」


 書いていた時の俺は(……というか今の俺もだけど)どうかしていた。
 現実では絶対に書かないような要望まで、ふわふわしたノリで書いていたのだから。

 邪縛云々などまだ理性があった頃の記入。
 リリーが語ったような、正直イカれたヤツか調子に乗っているヤツが書くようなことを思いっ切り書いていた。


「ご安心ください。容姿に関しては当然、メルスさんが望まない容姿の方はほとんどいませんよ」

「えっと、ほとんど?」

「世界には、さまざまな趣味嗜好がございますので。そういった事柄にもきちんと対応しております……なんせ、夢ですので」

「…………夢、だからか」


 忘れていなかったわけではないが、たしかにここは夢の世界だ。
 同時に現実ともリンクする要素があるのだが、その辺はどうなのだろうか。

 それについて尋ねてみると、リリーはあっさりと知りたかったことを教えてくれた。
 ソファに座り、用意されたドリンクを飲みながら話をすること数十分。


「──つまりアレか、ここは生命の揺り籠的な目的のために存在する場所だと。コウノトリがキャベツ畑から運んでくるって話は聞いたことがあったが、まさか夢魔が似たようなことをやっているなんてな」

「あ、あの……あ、あくまでもそういった・・・・・能力があるだけでして……その、そういうこと・・・・・・はしてませんからね!」

「そうだな、そういうこと・・・・・・はしていなくても問題ないんだな」

「……も、もう、あまりからかわないでください」


 結論通り、現夢世界は『夢幻』が課せられた使命──つまり生命のバランス調整のために存在している場所らしい。

 夢魔たちはその命に従い、来訪者たちから繁殖に必要な要素を回収。
 交渉(意味深)をせず、能力的に増やした別個体を外部に放出しているようだ。

 ゲームのような世界ではあるが、そのすべてがゲームのように動いてはいない。
 魔物の発生にもある程度法則性があり、無尽蔵に出現するわけでは無いのだ。

 だからこそ、現実世界でいうところの絶滅危惧種などを保護するのがこの世界。
 それに必要なエネルギーの回収を、主に人族の来訪者で行っているようだ。


「スキルの新規習得ができないのにも、納得がいった。成長の反映は、あくまでも夢から覚めてからなんだな」

「はい。本来、夢の中で得た経験は目を覚ませば忘れてしまうもの。その元来の性質を歪めようものなら、無意識の抵抗が強制的に意識を覚醒させてしまいます。なので、そういう弊害が無いように調整されています」

「……ちなみに祈念者が来た時、初期装備なことについてはどういった説明が?」

「えっと、それはですね……皆さんの場合、擬似的な魄……アバターと実際の魂との結びつきが不安定でして。そのため、一部のアイテムを除いて初めてここを訪れた際は強制的に解除されてしまうのです」


 祈念者は寝るとそのまま[ログアウト]するばかりで、残る者が稀だったため起きることが無かったらしい俺のようなケース……以降はどうにか調整を試みるらしい。

 なお、その例外というのが自我を持つ……つまり夢を見ることができるアイテム。
 俺が塗料シリーズを呼び出したのは、ある意味裏技のようなもの。

 まあ、神器や聖魔武具を持ち込んでいたら夢魔たちもかなり警戒していたらしい。
 ……『夢幻』に伝わる可能性もあったし、今回の流れで正解だったのだろう。


「えっと、質問はこれですべてですか?」

「ああいや、最後に二つだけ。この場所から出るには、どうすればいいんだ?」

「こちらの世界でも眠る、それがこの世界から出るもっとも簡単な方法です。時間については先にお話しした通り、向こうとこちらとでは速さが異なりますので、ある程度起床する時間は調整が可能ですよ」

「そっか……なら、じゃあ最後の一つ。ここに来るために必要なものって?」


 来訪可能というのであれば、眷属たちに今回の出来事を話したうえでもう一度来てもいいと思っている。

 だからこその問いだったのだが……どうしてか、再びもじもじしだしたリリー。
 ……何となく察しはついたが、あえて何も言わずに待つことに。


「その、ですね……二度目以降は、えっと、専属の同伴者を決めていないとですね、数か月単位で来られなくなりまして……その方法があの……えっと…………」

「…………」


 そこまで過激ではない、とだけ書き記しておこう。
 俺は【純潔】のままだ…………そう、だってこれは夢なのだから!


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