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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その04

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 切羽詰まったので、この世界の主『夢幻』の配下である夢魔を頼ることに。
 ……別に、同伴者として俺の理想の夢魔が欲しいわけじゃない、本当なんです。


「──それでは、しばらくお待ちください」

「は、はい……」


 初めて街に入った者を装い、夢魔たちに話しかけたら案内された場所。
 そこは派手派手しい装飾で彩られた、無数のテーブルとソファが並ぶ空間。

 ……行った経験は無いが、ここはいわゆるキャバクラみたいな場所だった。
 そして俺は、渡されたその本……というかメニューのような物を確認する。


「…………これを、どうしろと?」


 最初の数ページは、この世界に関するルールが記されていた。
 自分で調べ上げたものと比べ、そこまで差が無かったことに満足したものだ。

 ……問題はその後、さまざまな容姿の夢魔の姿が載っているページである。
 いやまあ、そういう・・・・場所なのでそういう・・・・ことだとは思うけども。

 ページをひたすら捲り、誰を頼るわけでもなく唸り続けること数十分。
 先ほど俺を案内した、男性の夢魔が再びここに戻ってきた。


「──お決まりでしょうか?」

「えっ? あ、いや……その……こういうことをした経験が無くて……」

「なるほど、でしたら一つご提案が。貴方様にピッタリな夢魔を、こちらでご用意するというのは……いかがでしょうか?」

「…………えっと、説明をしてもらっても大丈夫ですか?」


 曰く、俺のような来訪者は時々現れるんだとか……自分に自信が無い連中が特に。
 なので先んじてプロフィールを書き、ある程度条件を指定する。

 それを確認した夢魔の中で、逆にOKだという者が同伴者になってくれると。
 こういうの、なんて言うんだっけ……婚活とかマッチングだった気がする。


「まあ、とりあえず書いていくか……種族はとりあえず『普人(?)』で、職業は無職。外で戦いたいにチェックを入れて、どういうポジションかの記入っと……」


 他にもシンプルに趣味嗜好を書いたり、好きな異性のタイプなどを紙に記す。
 ……最後のは特に浮かばなかったので、適当に『邪縛に耐えられる人』と書いた。

 それから紙を提出し、しばらく待機していたが……再び夢魔が戻ってくる。


「お客様、邪縛というのはどういったものなのでしょうか? 内容については書面にて把握しましたが……問題があるモノならば、少しこちらの方で対策を練らなければならないかもしれません」

「今は制御しているんですけど……一度、解除した方がいいですか?」

「ええ、確認のため。ご安心ください、他の夢魔には影響が出ないようにしております」

「貴方が心配なんですが……まあ、それならそれで、別の要員を出してもらえれば大丈夫ですので──解除」


 今回、紙に書いた通り一時的に因子を注入することで邪縛を無効化していた。
 だがそれを解除すれば、当然邪縛も元に戻るわけで……夢魔は一瞬で顔を顰める。


「! なるほど……失礼しました」

「“因子注入・普人”──いえ、慣れていますので。それよりも、大丈夫ですか?」

「ええ……しかし、かなり強力ですね。これまでも邪縛を背負った者は何人か訪れたのですが、貴方様ほどは極めて珍しいです」


 嫌われる呪い、というもの自体はごくありふれたものだ。
 だが邪縛の域に達すると、その凶悪さも格別のものになる。

 精神耐性、そして魂魄への干渉そのものへの耐性が無ければ対処は不可能だ。
 それ以外の方法だと……圧倒的な力量差ぐらいだろうか。


「少々お待ちください。次に訪れるのは、貴方様の同伴者となる夢魔です」

「そ、そうですか……分かりました」


 丁寧にお辞儀をした夢魔が立ち去り、再び俺はこの場に残される。
 邪縛云々の時点で、もうこの空間には俺しか居なかった。

 そのため、待っている間はひたすら部屋に流れる音楽を聴いているだけ。
 待つことは苦ではないが、それでもかなりの間待った。


「……やっぱり、邪縛がネックだったか? いや、それ以前に種族がおかしかったり職業が無職だったりしているし……あと、趣味嗜好が問題だったのかもな」


 思い浮かぶものがかなりあって、正直どうしたものかと頭を抱える。
 だが、それは唐突に終わる──部屋に誰が入ってきた気配を感じ取ったからだ。


「お、遅れてごめんなさいね……ま、待たせちゃったかしら……えっと、ぼ、坊や?」

「…………お、おぉ」


 そこに居たのは、ある意味夢魔という存在の体現者と言えよう。
 煽情的な衣装で最低限身を覆い、蠱惑的な姿態を見せつけるように歩くその姿。

 正直、夢魔というよりも淫魔みたいな感じがしないでもない。
 俺はそれに目を奪われ……るよりも、何というか憐れむような目を向けていた。

 たしかに存在感は凄まじいし、美貌も姿態もかなりのものである。
 だが言っている台詞が棒読みで、物凄く恥じらう姿を見ると……うん、残念だった。


「えっと、貴女が俺の同伴者?」

「そ、そうよぉ坊や、私のことはそうねぇ、り、リリーとでも呼んでちょうだい」


 最初は俺も緊張していたはずなのだが、自分以上に緊張している人を見ると落ち着くというのは本当だったみたいだ。

 たしかに緊張から竦んだ体が、一部を強調させエロいはず……なんだけど。
 それでも、なんだろう……うん、可哀そうだという感想しか浮かばなかった。


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