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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その03
しおりを挟む現夢世界における戦闘も、ある程度感覚を掴みつつある。
魔物の討伐を行う中で、発覚したこともいくつかあった。
その一つが、魔物を討伐しても得られるのは自らの熟練度のみというもの。
経験値を奪い取ることはできず、また素材がドロップすることもできないようだ。
イメージ的には、殺しは無しで特訓を行うようなものである。
魔物もまた、こちらを訪れた来訪者だからかもしれないな。
「まあ、こっちも死なない仕組みで、ついでに言えば本来は夢魔の支援付きだからかもしれないな……奥に行けば行くほど、現れる魔物は強くなる制度は楽しいな」
隠蔽状態で魔物に忍び寄り、暗殺術を交えて首を一狩り。
夢の世界における体の状態にも、戦闘を通してかなり慣れてきた。
縛りで得たようなスキルであれば、いくつかを並列して起動できる状態にある。
先ほど挙げたようなこちらの世界の理に合わせ、最適な行動を取っていた。
「だからこそ、この場に合わせた対応をしないとならないよな。ふぅ……スキルを多用するとその分だけ、消耗が激しいから休む時間が必要になるな」
ルールその二、こちらの世界では微精霊などの自我が薄いモノは存在しない……そのうえ外部から個人の裁量で使役した存在などを呼び出すことはできない。
まあ要するに、本来の世界よりも回復に時間が掛かるのだ。
向こうの世界は精霊が生み出す、自然魔力などで回復が早まっているからな。
……だからこそ、精霊使いは魔力の回復が早いなどの恩恵が本来ならある。
うちの眷属精霊たちは、どちらも常軌を逸している例外だけどな。
「せっかく精霊と契約していても、呼べないならキャパの圧迫にしかならないな。大悪魔もナシェクも、来た時に装備していなかったから呼べないし……今までしてきた契約の意味がまったく無いじゃないか」
ぶつぶつと言いながらも、身力が回復すれば暗殺の繰り返し。
なお、一度倒した個体は何度も殺さず、距離を取って別の場所へ向かっている。
仮のこの世界に[GMコール]に似たナニカがあれば、確実に通報されるからな。
夢魔という監視の目もある以上、文字通りヤり過ぎはほどほどにというヤツだ。
「しかしまあ、この果てに何があるというんだろうか……位階もかなり高くなってきているんだが」
普段の俺なら鼻歌交じりで倒せるレベルの相手も、今の俺には制限がある。
暗殺によるダメージの補正でどうにか誤魔化していたが、そろそろ限界になっていた。
どうせ最奥へ到達しようものなら、ほぼ確実に『夢幻』が来ただろうしいいけども。
あくまでもこうしているのは暇潰し、あまり目立つ真似は(今更だが)できない。
「……仕方ない、撤退しますか。まさか、ここまで実入りが無いとは困ったものだ」
スキルの熟練度、もといレベルは上がったが新規スキルの獲得などは無かった。
祈念者で分かりやすく言うと、現状において[スキル習得]が選択できないのだ。
これは現夢世界という空間が、『超越種』の領域だからという理由に他ならない。
かつて宙海に向かう際に起きた、システムの使用不可。
アレの場合はシステムのいっさいが使えなくなったが、その緩和版ともいえよう。
今回はあくまで、体自体は本来の世界に置いてあるから緩んだと思われる。
だがスキルの習得、そして装備品などは本来肉体に無い物を身に着ける行為。
そういった観点から、夢の中には持ち込めなかった……なんて理由かもしれないな。
◆ □ ◆ □ ◆
空間魔法も魔術デバイスも持ち込んでいないため、帰りも足を使っての帰還だ。
帰還と言っても、歓楽街に戻るわけにもいかず街を覆う壁の外側に居るだけだが。
……耳を澄ますと壁の向こう側から、男女がいちゃつく声がする。
時々水気の多い音も混ざっているが、壁は割と頑丈なはず。
「さて、どうしたものか……いっそのこと、夢魔に頼るのも別に悪くないか? 実力さえあれば、その選択でも良かったんだが」
夢魔たちはかなり強い。
それは俺よりも更に奥へ向かった者たちからも、分かったことだ。
夢魔がそれを危険と捉えず、来訪者を支援可能だと認識できるからこそ。
倒し切れない魔物が居る俺の実力では、おそらく届かず存在が露見してしまうだろう。
だからこそ、他ならぬ夢魔に助力を願うことはおかしくはない。
来訪者に対応する夢魔を見る限り、嫌々同伴する個体は居なかった。
おそらく、来訪者に合わせた夢魔が用意されるのだろう。
まあ、『夢幻』がどこまで把握しているか分からないが、ある程度の自由はあるはず。
「郷に入っては郷に従え、みたいな言葉もあるし……ええい、考えるのが面倒だ。こうなれば、当たって砕けろだ!」
さんざん考え、最終的にはその場の状況に合わせるという適当な結論に至る。
大丈夫、幸運スキルは事前に取得しておいたから機能しているはずだ。
それに、夢魔が自分に合わせた個体になるなら…………おっと、これ以上は考えない方が良い気がする。
ともあれ、頼ることのできる相手がいるというのは頼もしいものだ──決して、理想の夢魔を見たいわけじゃないからな!
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