2,412 / 2,519
偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と現な夢 その01
しおりを挟む夢現空間 自室
自身のやらかしにより弱体化した状態でもできることを、いろいろとやってきた。
最後は魔術を組み込んで、その後は眷属たちと共に食事を取って終わりだ。
「ふぅ……なんだか物凄く疲れた」
自室のベッドにダイブし、重い体を休ませるべくグッタリと脱力。
食事が終わった後、当然入浴を済ませるわけだが……ここでも一騒動。
襲ってくる者、庇う……体で恩を売ってくる者、傍観している者。
眷属それぞれ行動は違っていたが、総じて男湯に入っていた。
今の俺にそれを咎める術は無く、どうにでもなれという心境で時間をやり過ごす。
いろんな意味で真っ新な体となり、こうして今就寝の段階になっていた。
なお、風呂に入った時点でニィナによる車椅子運搬は中止していた。
子供は寝る時間だ、わざわざ俺のために時間を使わせるわけにはいかないからな。
「睡眠不要スキルで飛ばしてもいいけど……今日はちゃんと寝ないといけないからな。アイ曰く、睡眠は魂を癒す時間らしいし」
損耗著しい現状、心身以上に問題となっているのは俺の魂魄そのもの。
それが寝ることで、少しでも良くなるのであればしっかりと就寝しようではないか。
明日にはアイが治してくれるが、それはきちんと指示に従っていた場合に限る。
なので言われたことには従順に、布団を被り枕に頭を付けて目を閉じた。
「眷属たちが全部やってくれているからな、今日ばかりは大丈夫か……思考の並列化をすべて解除、完全凡人モードでご就寝っと」
この状態で寝れば、間違いなく昔のように夢を見ることになるだろう。
なお、祈念者でも寝ようと思えば普通に睡眠を取ることは可能だ。
基本的には[ログアウト]処理になるが、意図して設定しておけば[ログアウト]するよりも身力回復やデスペナ解消速度を上げられる状態になる。
これこそが、アイのいう魂を癒すということなのだろう。
……なんて無駄なことを考えている内に、意識が微睡み始めてきた。
抗う必要は無い、そのまま俺は眠りに着いた…………のだが、最後の最後、その一瞬で俺はあることを思い出した。
──寝る子は育つ(本気)。
その言葉が意味するものを、真に理解しようと思っていなかった。
だが、ある意味本気で寝ようとするのはこれが初めてだ……そんなことを、無意識で。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「……ここ、どこだ?」
気が付いたら、俺はまったく見覚えの無い場所に立ち尽くしていた。
何もないわけではない、むしろいろいろな物があり過ぎて情報過多になっている。
多くの人々が意気揚々と歩く街の中。
イメージ的には夜のネオン街、多くの男女が体を密に触れ合っている……うん、歓楽街という説明の方が正しいだろう。
「[メニュー]から[マップ]を……ダメだこりゃ、文字化けしてるな」
少なくとも、自由世界のどこかへ強制転移させられたわけでは無いらしい。
同様に、運営神の手が入ってない場所でもある、[マップ]非対応はそういうことだ。
「スキルは……全部は無理みたいだが、一部は可能だな──“隠蔽”」
この謎空間の性質……ではない。
損耗し切った魂魄が、強力なスキルの行使に耐えられないのだ。
恵癒室での一時が、少し良くなっていた損耗を悪化させている。
……全部アイ任せにしようとしていたツケが、まさかここに来て仇となるとはな。
隠蔽スキルで身を隠し、一先ずは接触されないような場所へ。
すぐにこういう行動が取れるのは、ある意味経験によるものか。
「スキルは縛りで使うヤツなら……うん、イケるか。装備は…………ん? 今更だが初期装備になっているな。理由は分からんが、それならちょうどいい──『来い』」
見た目的には寝る前と何ら変わらない姿なのだが、[ステータス]画面から確認した俺はそのいっさいを装備していない……ほぼ丸裸(比喩)な状態だった。
なので魔力を籠めて言葉を告げると、身に纏っていた装備一式が切り替わる。
これこそ、『常在』の性質を与えた塗料シリーズ(仮)の力だ。
まあ、簡易神器でもあるし、当然と言えば当然だけども。
こういうことができる辺り、いきなり異世界に飛ばされたわけでもないのだろう。
「しばらくは情報収集に徹するべきか……ここがどういう場所で、また俺にできることの限界も把握しておかないと不味いか。体感的に神器は呼べない……というか、呼んだら体が持たないことは分かるな」
この状況、『断界斧[裂覇]』があれば一瞬で解決できるだろう。
ここで起き得る被害を想定していないが、次元すら切り開く一撃は道を必ず生み出す。
──が、その反動に耐えられず確実に俺は死ぬことになる。
この空間での死がどうなるかは分からないが、死に戻りするなら文字通りおしまいだ。
今の俺は祈念者であり、それと同時にただの人でもある。
これまでは蘇生可能な状態を維持していたが、ここでそれが機能するかは不明だ。
「目的を決めないと……一つ、俺の体を十全な状態にする。二つ、この空間について知っておく。そして三つ……連絡が取れない眷属たちに、どうにか状況を説明する」
最悪、明日になれば俺の不在に気付いて眷属が動いてくれるだろう。
なので、そこまで心配はしていない……生き残れるか、気にするのはその問題だけだ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる