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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と現な夢 その01

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 夢現空間 自室


 自身のやらかしにより弱体化した状態でもできることを、いろいろとやってきた。
 最後は魔術を組み込んで、その後は眷属たちと共に食事を取って終わりだ。


「ふぅ……なんだか物凄く疲れた」


 自室のベッドにダイブし、重い体を休ませるべくグッタリと脱力。
 食事が終わった後、当然入浴を済ませるわけだが……ここでも一騒動。

 襲ってくる者、庇う……ていで恩を売ってくる者、傍観している者。
 眷属それぞれ行動は違っていたが、総じて男湯に入っていた。

 今の俺にそれを咎める術は無く、どうにでもなれという心境で時間をやり過ごす。
 いろんな意味で真っ新な体となり、こうして今就寝の段階になっていた。

 なお、風呂に入った時点でニィナによる車椅子運搬は中止していた。
 子供は寝る時間だ、わざわざ俺のために時間を使わせるわけにはいかないからな。


「睡眠不要スキルで飛ばしてもいいけど……今日はちゃんと寝ないといけないからな。アイ曰く、睡眠は魂を癒す時間らしいし」


 損耗著しい現状、心身以上に問題となっているのは俺の魂魄そのもの。
 それが寝ることで、少しでも良くなるのであればしっかりと就寝しようではないか。

 明日にはアイが治してくれるが、それはきちんと指示に従っていた場合に限る。
 なので言われたことには従順に、布団を被り枕に頭を付けて目を閉じた。


「眷属たちが全部やってくれているからな、今日ばかりは大丈夫か……思考の並列化をすべて解除、完全凡人モードでご就寝っと」


 この状態で寝れば、間違いなく昔のように夢を見ることになるだろう。
 なお、祈念者でも寝ようと思えば普通に睡眠を取ることは可能だ。

 基本的には[ログアウト]処理になるが、意図して設定しておけば[ログアウト]するよりも身力回復やデスペナ解消速度を上げられる状態になる。

 これこそが、アイのいう魂を癒すということなのだろう。
 ……なんて無駄なことを考えている内に、意識が微睡み始めてきた。

 抗う必要は無い、そのまま俺は眠りに着いた…………のだが、最後の最後、その一瞬で俺はあることを思い出した。

 ──寝る子は育つ(本気)。

 その言葉が意味するものを、真に理解しようと思っていなかった。
 だが、ある意味本気で寝ようとするのはこれが初めてだ……そんなことを、無意識で。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ???


「……ここ、どこだ?」


 気が付いたら、俺はまったく見覚えの無い場所に立ち尽くしていた。
 何もないわけではない、むしろいろいろな物があり過ぎて情報過多になっている。

 多くの人々が意気揚々と歩く街の中。
 イメージ的には夜のネオン街、多くの男女が体を密に触れ合っている……うん、歓楽街という説明の方が正しいだろう。


「[メニュー]から[マップ]を……ダメだこりゃ、文字化けしてるな」


 少なくとも、自由世界のどこかへ強制転移させられたわけでは無いらしい。
 同様に、運営神の手が入ってない場所でもある、[マップ]非対応はそういうことだ。


「スキルは……全部は無理みたいだが、一部は可能だな──“隠蔽”」


 この謎空間の性質……ではない。
 損耗し切った魂魄が、強力なスキルの行使に耐えられないのだ。

 恵癒室での一時が、少し良くなっていた損耗を悪化させている。
 ……全部アイ任せにしようとしていたツケが、まさかここに来て仇となるとはな。

 隠蔽スキルで身を隠し、一先ずは接触されないような場所へ。
 すぐにこういう行動が取れるのは、ある意味経験によるものか。


「スキルは縛りで使うヤツなら……うん、イケるか。装備は…………ん? 今更だが初期装備になっているな。理由は分からんが、それならちょうどいい──『来い』」


 見た目的には寝る前と何ら変わらない姿なのだが、[ステータス]画面から確認した俺はそのいっさいを装備していない……ほぼ丸裸(比喩)な状態だった。

 なので魔力を籠めて言葉を告げると、身に纏っていた装備一式が切り替わる。
 これこそ、『常在』の性質を与えた塗料シリーズ(仮)の力だ。

 まあ、簡易神器でもあるし、当然と言えば当然だけども。
 こういうことができる辺り、いきなり異世界に飛ばされたわけでもないのだろう。


「しばらくは情報収集に徹するべきか……ここがどういう場所で、また俺にできることの限界も把握しておかないと不味いか。体感的に神器は呼べない……というか、呼んだら体が持たないことは分かるな」


 この状況、『断界斧[裂覇]』があれば一瞬で解決できるだろう。
 ここで起き得る被害を想定していないが、次元すら切り開く一撃は道を必ず生み出す。

 ──が、その反動に耐えられず確実に俺は死ぬことになる。
 この空間での死がどうなるかは分からないが、死に戻りするなら文字通りおしまいだ。

 今の俺は祈念者であり、それと同時にただの人でもある。
 これまでは蘇生可能な状態を維持していたが、ここでそれが機能するかは不明だ。


「目的を決めないと……一つ、俺の体を十全な状態にする。二つ、この空間について知っておく。そして三つ……連絡が取れない眷属たちに、どうにか状況を説明する」


 最悪、明日になれば俺の不在に気付いて眷属が動いてくれるだろう。
 なので、そこまで心配はしていない……生き残れるか、気にするのはその問題だけだ。


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