2,407 / 2,518
偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と療養中 前篇
しおりを挟む夢現空間 廊下
アイにさんざん怒られた結果、最低一日は大人しくしているように言われた。
アルカに関しても、かなり危ういことをしたと言われたからな……うん、反省反省。
死者の都を離れ、今は夢現空間内をひたすら彷徨っている。
色とりどりの扉が並ぶ中、俺は車椅子を押してくれているニィナと話していた。
「アルカを強化しちゃったことに若干の後悔はある、が……それでも間違ってなかったと俺は思います」
「兄さん……」
「いつか、本当に俺に届く時が楽しみだよ。なんて、上から目線で言うのはダメか。とにかく、諦めない人にプレゼントを勝手に押し付ける……それも偽善だからな」
「うーん、何か違う気が……」
ニィナよ、そう言いつつ説得を諦めようとしているではないか。
そう、時すでに遅し、そしてこれから同じ状況になれば同じことを繰り返すのだ。
……創作物でもよくある、何で『○○』しないんだというヤツ。
いわゆるノリとロマン、俺はそれに従順なだけです。
「とにかく、そんな偽善をするためにも今は雌伏……もとい至福の時を過ごさなければならない。あー、嫌なのになー、だけど仕方がないよなー」
「そんな『饅頭怖い』みたいに言っても、特に何も──」
「あるよ」
俺とニィナの会話に入ってきたのは、扉からちょうど出てきた小柄な少女。
頭部に生えた熊型の白い耳をピコピコと揺らしつつ、俺の膝の上に座った。
ただ、普段よりもやや声を渋くしているご様子……いや、いつも通り可愛いけども。
ただまあ、俺もその元ネタはそこまで知らないので、返事に困るんだよな。
「あるよ」
「えっと、その部屋は……」
「二名様、いらっしゃーい」
シロクマ少女──スーは自分が先ほどまで居た部屋に、ほぼ棒読みで俺たちを勧める。
正確には、進めている……うん、選択肢は無かったようだ。
彼女と言えばな結界操作により、俺たちは自らの意思に反して部屋へ導かれていた。
ベルトコンベヤーのような形で、そのまま扉の中へ。
◆ □ ◆ □ ◆
牧場
スーが最初に入っていたのは、朗らかな空気が流れる牧場。
眷属が遺伝子組み換えをした生物やら、管理用の魔物やらが配置されている。
特にクエラムが、聖獣の使命として動物たちを統率しているのだが。
どうやらスーも、今回俺たちを招いた件で参加していたらしい。
「これは……蜂の巣箱だな」
「うん、養蜂」
そういえば、と思い返すのはだいぶ前の出来事──スーの因子を借りた頃。
魂魄と違い、比較的リスクの低い因子注入スキルを使った際のことだ。
たしか、その中に蜂関係のスキルが存在していた気がする。
熊といえば蜂……みたいな、繋がりがあるのだろうか、とにかくスキルは有ったのだ。
それを使い、養蜂を始めたということはいちおう理解できた。
……問題はそれを、どうしてこのタイミングで教えてくれたかである。
「今までも少しずつやっていた。でも、上手くいかなかったから」
「へー、それはどういう理由で?」
「……蜂を創るところから始めた」
「そ、そりゃあなんとも、時間が掛かるのも仕方ないよな」
牛や豚など、定番の動物は初期から数体用意されていたのだが、蜂は居なかった。
養蜂を始めるのであれば、当然蜂が要るわけで……だから創ったのか。
蜂は迷宮産か、あるいはミントに頼むかすれば用意可能だ。
それを改良し、より蜂蜜を作るのに適した個体にしたのだろう。
「でも、スー……お姉ちゃん、どんなお花の蜜を集めているの?」
「ニィナ、良い質問。花はこっちにある」
自称、というか事実として武具っ娘たちの長女であるスーは、子供の姉として振る舞っている……遠慮がちな子も、スーの程よい圧に負けて最後は姉として扱うんだよな。
再び結界のベルトコンベヤーが動き、俺たちは養蜂箱が置かれた場所から移動。
少し離れた場所に、数種類の花々が僅かながらに咲き誇っていた。
「花は植物園から、蜜を抽出した際の味の違いを楽し……きちんと調べている」
「うん、調べることは大切だな。スーの満足のいく出来の物が完成したら、一度味見させてくれよ。それを活かした料理とか、考えることもできるからな」
「! じゃあ、これが試作品──すぐに、すぐに作って」
「お、おう……分かった」
蜂蜜料理と聞いて、これまでまったく見せてくれなかった蜂蜜を差し出すスー。
なんというか、液体の黄金とでも呼ぶべき輝きを放っている……これ、本当に蜂蜜か?
だがまあ、任された以上俺がやるべきことはただ一つ。
スーが求める料理を作り、喜んでもらうだけだ。
とりあえずは……錬金術を応用し、一掬いした蜂蜜を加工する。
手の上に転がる小さな飴玉、それをスーにプレゼントした。
「~~~~ッ! 甘い、最高!」
「そりゃあ良かった……ニィナ、お前の分もあるぞ」
「あ、ありがとう、兄さん……うん、本当に甘くて美味しいよ!」
ただ球状にしただけでなく、甘さを引き立てるように錬金していたのだ。
ただ糖分を上げるだけでは、甘過ぎるのでその辺の調整が重要である。
まあ、二人の反応で蜂蜜の使い方はある程度決まった……決まったのだが。
──これ、療養していると言って良いのだろうか?
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる