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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と療養中 前篇
しおりを挟む夢現空間 廊下
アイにさんざん怒られた結果、最低一日は大人しくしているように言われた。
アルカに関しても、かなり危ういことをしたと言われたからな……うん、反省反省。
死者の都を離れ、今は夢現空間内をひたすら彷徨っている。
色とりどりの扉が並ぶ中、俺は車椅子を押してくれているニィナと話していた。
「アルカを強化しちゃったことに若干の後悔はある、が……それでも間違ってなかったと俺は思います」
「兄さん……」
「いつか、本当に俺に届く時が楽しみだよ。なんて、上から目線で言うのはダメか。とにかく、諦めない人にプレゼントを勝手に押し付ける……それも偽善だからな」
「うーん、何か違う気が……」
ニィナよ、そう言いつつ説得を諦めようとしているではないか。
そう、時すでに遅し、そしてこれから同じ状況になれば同じことを繰り返すのだ。
……創作物でもよくある、何で『○○』しないんだというヤツ。
いわゆるノリとロマン、俺はそれに従順なだけです。
「とにかく、そんな偽善をするためにも今は雌伏……もとい至福の時を過ごさなければならない。あー、嫌なのになー、だけど仕方がないよなー」
「そんな『饅頭怖い』みたいに言っても、特に何も──」
「あるよ」
俺とニィナの会話に入ってきたのは、扉からちょうど出てきた小柄な少女。
頭部に生えた熊型の白い耳をピコピコと揺らしつつ、俺の膝の上に座った。
ただ、普段よりもやや声を渋くしているご様子……いや、いつも通り可愛いけども。
ただまあ、俺もその元ネタはそこまで知らないので、返事に困るんだよな。
「あるよ」
「えっと、その部屋は……」
「二名様、いらっしゃーい」
シロクマ少女──スーは自分が先ほどまで居た部屋に、ほぼ棒読みで俺たちを勧める。
正確には、進めている……うん、選択肢は無かったようだ。
彼女と言えばな結界操作により、俺たちは自らの意思に反して部屋へ導かれていた。
ベルトコンベヤーのような形で、そのまま扉の中へ。
◆ □ ◆ □ ◆
牧場
スーが最初に入っていたのは、朗らかな空気が流れる牧場。
眷属が遺伝子組み換えをした生物やら、管理用の魔物やらが配置されている。
特にクエラムが、聖獣の使命として動物たちを統率しているのだが。
どうやらスーも、今回俺たちを招いた件で参加していたらしい。
「これは……蜂の巣箱だな」
「うん、養蜂」
そういえば、と思い返すのはだいぶ前の出来事──スーの因子を借りた頃。
魂魄と違い、比較的リスクの低い因子注入スキルを使った際のことだ。
たしか、その中に蜂関係のスキルが存在していた気がする。
熊といえば蜂……みたいな、繋がりがあるのだろうか、とにかくスキルは有ったのだ。
それを使い、養蜂を始めたということはいちおう理解できた。
……問題はそれを、どうしてこのタイミングで教えてくれたかである。
「今までも少しずつやっていた。でも、上手くいかなかったから」
「へー、それはどういう理由で?」
「……蜂を創るところから始めた」
「そ、そりゃあなんとも、時間が掛かるのも仕方ないよな」
牛や豚など、定番の動物は初期から数体用意されていたのだが、蜂は居なかった。
養蜂を始めるのであれば、当然蜂が要るわけで……だから創ったのか。
蜂は迷宮産か、あるいはミントに頼むかすれば用意可能だ。
それを改良し、より蜂蜜を作るのに適した個体にしたのだろう。
「でも、スー……お姉ちゃん、どんなお花の蜜を集めているの?」
「ニィナ、良い質問。花はこっちにある」
自称、というか事実として武具っ娘たちの長女であるスーは、子供の姉として振る舞っている……遠慮がちな子も、スーの程よい圧に負けて最後は姉として扱うんだよな。
再び結界のベルトコンベヤーが動き、俺たちは養蜂箱が置かれた場所から移動。
少し離れた場所に、数種類の花々が僅かながらに咲き誇っていた。
「花は植物園から、蜜を抽出した際の味の違いを楽し……きちんと調べている」
「うん、調べることは大切だな。スーの満足のいく出来の物が完成したら、一度味見させてくれよ。それを活かした料理とか、考えることもできるからな」
「! じゃあ、これが試作品──すぐに、すぐに作って」
「お、おう……分かった」
蜂蜜料理と聞いて、これまでまったく見せてくれなかった蜂蜜を差し出すスー。
なんというか、液体の黄金とでも呼ぶべき輝きを放っている……これ、本当に蜂蜜か?
だがまあ、任された以上俺がやるべきことはただ一つ。
スーが求める料理を作り、喜んでもらうだけだ。
とりあえずは……錬金術を応用し、一掬いした蜂蜜を加工する。
手の上に転がる小さな飴玉、それをスーにプレゼントした。
「~~~~ッ! 甘い、最高!」
「そりゃあ良かった……ニィナ、お前の分もあるぞ」
「あ、ありがとう、兄さん……うん、本当に甘くて美味しいよ!」
ただ球状にしただけでなく、甘さを引き立てるように錬金していたのだ。
ただ糖分を上げるだけでは、甘過ぎるのでその辺の調整が重要である。
まあ、二人の反応で蜂蜜の使い方はある程度決まった……決まったのだが。
──これ、療養していると言って良いのだろうか?
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