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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と偽善魂魄 中篇

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 アニワス戦場跡 死者の都


 ニィナに看病され、そうなっている原因が“偽善魂魄ソウルヒポクリシー”であることを説明した。
 そして、魂関係のプロフェッショナルであるアイの下へ向かうことになる。

 自らの足で動けない俺は、ニィナに車椅子で輸送されながらの来訪だ。
 すると、今なおこの地に残る死者たちが俺たちの下へ駆け寄ってくる。


「おいおい、どうしたんだよその恰好……メルスにニィナの嬢ちゃんまで」

「まあ、いろいろあってな。それより、アイは居るか?」

「おう、アイドロプラズム様だったらいつも通り奥に居るはずだ。まったく、あの人には敵わねぇよな」

「そりゃあもう、いろんな意味で」


 なんて軽口を叩きながら、街を進む。
 アニワス戦場跡には、かつて膨大な数の死者が生まれ、それゆえに『還魂』としての使命を果たすべくアイが滞在していた。

 結果、安らかな眠りを望んだ者はそのすべてが輪廻の環に入る。
 そして、逆にそれを望まない者たちにはここでの生活を提供していた。

 俺、そしてニィナはこの街を何度も訪れているため知り合いが多い。
 ニィナは『超越種』としての力の使い方について、よく聞いていたからな。

 眷属になってからはうちの世界にも来るようになったのだが、それとはこちらに来ることも忘れていないのがアイのいいところ。

 まあだからこそ、俺はここの住民たちに滅多打ちにされていないとも言えるよな。
 ……そうなっていないだけで、それなりに挑まれたりはしたけども。


「そういえば、アイから教わっているアレの進捗はどんな感じだ?」

「あんまりかな? ぼく自身に、扱う適性自体はあるみたいなんだけど……具体的にどういったものなのか、それを上手く認識しないとダメみたい」

「そりゃあ協力できないな……まあ、焦らずゆっくりと探していけばいいさ。本当にダメそうなら、最悪眷属数人を一度に相手取ってみるか? もしかしたら、ピンチからの覚醒イベントで目覚めるかもしれないぞ」

「…………、止めておく。なんだか、何もできないまま相手の思うようにされそうだし」


 ニィナの覚醒イベントをやるためには、自身の中に眠る力を探すだけでなく、彼女を可愛がろうとする眷属の精神攻撃に耐えなければならないわけだな。

 実際にそうなったらと考え、どうやらやることは断念したらしい。
 俺も同じようなことを経験したことがあるので気持ちが分かる……うん、危ういよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 死者の都には似つかわしい、教会。
 色だけは場に合わせて暗いものだが、それでも周囲に漂う瘴気を考えると、やはり違和感が否めない。

 そんな建物の中に入ると、最奥で祈りを捧げる女性が一人。
 俺がメルの時によく纏う修道服、その正規品を身に纏っている。

 彼女こそ、『還魂』のアイドロプラズム。
 彼女をよく知る者たちからは、親しみを籠めてアイと呼ばれたりもしている。


「あら、メルス君にニィナちゃん……本日はどのようなご用件で、と尋ねた方がよろしいでしょうか?」

「ああ。これを治してほしいって理由じゃないから、聞いてくれると助かる。いろいろ、相談したいことがあるんだ」

「分かりました。ですが、少々お待ちください。もう少しで終わりますので」

「大丈夫だ、ニィナもいいよな?」
「うん……そうだ兄さん、ぼくたちも祈ろうよ。その方がいいと思うんだ」


 ニィナが突然訴えかけてきたのは、アイと同じく祈りを捧げること。
 祈ることは別に構わなかったが、どうしてこのタイミングなのやら。

 しかし、曲がりなりにも神が創造したからか、ニィナの勘はかなり精度が良い。
 何か意味があるのだろう、ということで二人で共に祈ることに。


「…………」
「…………」
「…………」


 沈黙の時間がしばらく流れる。
 大半の神が眠りに着き、運営神とその配下となった神だけが存在しているこの世界で、祈りとは彼らの糧になる行為。

 明確にその眠りに着く神を指定しないと、運営神の一派に信仰が生み出すエネルギーを持っていかれてしまう。

 なので眷属たち、そしてアイに尋ねて確認した眠れる神々に祈りを捧げる。
 時々祈り自体は、夢現空間でもやっていることなので慣れたものだ。





 すると、神々しい光が──ということも何もなく、アイが祈りを止めて立ち上がった。
 ニィナに目で確認したが、彼女は首を横に振る……何だったのだろうか。


「二人とも、祈りを捧げてくれてありがとうございます」

「それはいいんだが、もしかして何かに影響が及んだのか?」

「……いえ、それは分かりません。もう一度確認してみますか?」

「いや、止めておこう。神秘ってのは、謎の方がいいこともある。下手に暴くより、案外そのままの方がいい結果になるかもしれないからな」


 神を秘する、という意味ではまさに今こそが神秘を必要としている。
 そして、俺たちもまた神から秘される必要があるからな。


「それでメルス君、その傷ついた魂魄はどうされたのですか?」

「おっと、まだ観ていなかったのか。まあ、それならそれで口頭で説明しよう」


 そして俺は、アルカとの一件を話した。
 ──話を聞き終えたアイは、なぜか頬を膨らませているのだった……うん、可愛い!


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