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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と偽善魂魄 前篇

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 夢現空間 自室


 アルカが超絶パワーアップした。
 正直、今の彼女であれば眷属と一騎打ちしても必敗とはならないだろう……それができるのは、ほんの一握りの存在だけだ。

 ただまあ、これはアルカが曲がりなりにも俺の眷属だったからできたこと。
 まだ眷属たちも完成させていないアバターの改造は、未知の領域が多い。

 俺の場合、失敗しても[概念再成]スキルがあるからこそのトライだった。
 眷属なら、大したリスクも無く復元することができるからな。


「杖もそれに合わせて成長したみたいだし、本当に……死ぬかもしれないな」


 デスペナや魂魄の不安定さで弱体化していなければ、危うかったかも。
 それぐらい、施術後のアルカはとても自信に満ち溢れていた……どうしてだろうか。

 だからこそ、そんな彼女の変化に合わせて杖も成長を遂げたのだろう。
 突然現れた杖が、彼女のすぐ傍で光ったときには驚いたものだ。

 ……何かを阻むような感じだった気もするけど、まあ気のせいだよな。


「まっ、意識を切り替えてやっていくか。俺だけでどうにもならないことは、眷属に任せればいいんだしな」

「──兄さん、大丈夫なの?」

「俺の意識的には全然問題ない、ただ肉体的には……まったくダメだな」


 戦いを終えて、俺の体は限界を迎えた。
 さまざまなスキルがもたらしたデメリットが重複し、外部からの干渉で強引に操らない限りは自由に動かせなくなっている。

 なので現在、なぜか眷属たちに看病されている始末。
 心配そうに俺を見ているのは、『超越種』の一人『覚成』のニィナだった。


「ところで──どうしてナース服?」

「? 兄さんが喜ぶからって、渡されたんだけど……嫌だった?」

「それを渡したヤツの名前を言いなさい……あと、それは可愛いと思うぞ」


 残念ながら、眷属同士で回覧板のように回した情報で誰が事の発端かは分からない。
 しかしながら、犯人は必ず居るわけだ……絶対見つけ出して文句おれいを言ってやる。


「それじゃあ兄さん、診察を始めるよ」

「……それはごっこ遊びか? それともスキル的な意味か?」

「いちおう両方、かな?」

「……まあいいか、お願いしまーす」


 かつては俺と共に、縛りプレイでさまざまな場所へ向かっていたニィナ。
 彼女の才能はあらゆるスキルの適性を以って、あまねく存在に対処するためにある。

 俺との縛りでは使っていなかったスキルだが、アレはアレの時用のスキル構成になっているだけ……実際には、祈念者から学習した大量のスキルをニィナは持っていた。

 そんな一つであろう診察スキル、そしてその他口頭では説明していないスキル群の力で俺の体を調べていくニィナ……しばらくすると、深い溜め息を一回吐く。


「兄さん、どんな無茶をしたら全身が砕けるようなことになるのかな?」

「うーん、それは戦闘そのものっていうより俺の魂魄を纏ったからだろうな」

「……兄さんの?」

「“偽善魂魄ソウルヒポクリシー”。他の眷属たちから魂魄を借りる場合、礼装を媒介にして留めているんだが……俺自身の魂魄を使う分、ダイレクトにそれを纏うことができる。けど──要は外側に曝け出しているのと同じなんだよな」


 その分だけ、あらゆる行動を最速で反映させられるメリットはあるんだけども。
 それを上回るデメリットが、ニィナの言うう通り自壊を引き起こしていた。


「まあ……なんだ、魔導やらいろいろと使っていたからな。その分、魂魄の方にもガタが来ていたんだろう。再び内側に定着させたときに影響が反映されて──」

「壊れちゃった……?」

「魂魄の損壊が肉体に反映されているんだ。治すなら、肉体の治癒よりも魂魄への治癒の方が必要になるだろう。ニィナ、そういう系は使えるか?」

「うん、大丈夫だよ。祈念者の人に、そういうスキルを育てている人も居たから」


 自由民ではそもそも存在を知らず、習得しないようなネタスキル。
 それらをSP習得で取る祈念者を介し、学習しているニィナ。

 たまに名前だけアレだが、有用なスキルなども存在しており……もしかしたら、そういうスキルなのかもしれないな。

 ニィナが俺を介抱していると、感覚的に魂魄が癒えていくのが分かる。
 しばらくして、ニィナがいったん離れるときにはある程度修復が済んでいた。


「本当なら、アイちゃんの方がこういうのは得意なはずだし……呼んで来ようか?」

「いや、それは大丈夫だ……というか、アイちゃんって呼んでたのか」

「うっ。そ、それは……その、アイちゃんにそう呼ばないとダメだって言われて……」

「冗談だよ、冗談。いやまあ、アイは本気だろうけど。彼女なりのスキンシップなんだ、受け入れてやってくれ」


 アイ、『還魂』の『超越種』アイドロプラズムの愛称だ。
 魂に関するプロフェッショナルなので、今回の問題に一番的確な存在でもある。

 だがまあしかし、彼女は多忙なはず。
 俺の眷属として仕事をしつつ、『超越種』として行わねばならないことも時折死者の都へ行って行っているからな。


「……しかしそうか、アイは忙しいのか」

「…………兄さん?」

「ニィナ、車椅子を出してくれ。そして、連れて行ってほしい場所がある」


 アバター関係の話で、アイに聞きたいこともあったのでちょうどいい。
 ニィナに手伝ってもらう形になるが、一度会いに行っておこうか。


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