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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と紅の源魔
しおりを挟む第三世界 闘王技場
アルカとの本気を出した戦いが終わった。
突然別の場所へ飛ばされ、誰も見ていない場所で行われた一騎打ち……その結果、俺の罪とやらは帳消しになったらしい。
戻ってきた俺を見るのは、途中まで観戦をしていた祈念者の眷属たち。
試合が終わったことは、ユウの手錠を介して把握していただろう。
──だからこそ、彼女たちが驚いているのは俺の隣に在るモノについてだ。
「し、師匠……それって」
「ん? ああ、アルカだ」
「……えっと、師匠は女の子をコレクションする趣味があったの?」
「おい、どういう意義のある質問だ? これは違うぞ、ほらアレだ…………えっと、封印しておくための檻みたいな物だ!」
俺のアンサーを聞いて、ドン引きといった様子……オブリだけは首を傾げていたが、彼女に縋るわけにはいかない。
少女たちの目を意にも留めず、成すべきことを俺は成す。
差し当たっては、魔導によって氷の中へ封じたアルカを解き放つことからだな。
「ええい、そんな目をするんじゃない! ほらほら、まずはアルカを蘇生するからみんな離れた離れた!」
彼女たちは言われた通りに、舞台場から俺とアルカ(の棺)だけを残して離れた。
俺はゴホンッと咳払いをした後、準備していたモノを発動させる。
「今のアルカは、自滅覚悟で発動したスキルやら魔法で死んだ状態だ。それを死に戻りする前にこの棺の中に入れて…………さて、蘇生するとしますか」
「ねぇ、今何を隠したの?」
「…………それじゃあ蘇生を──」
「そういえば、アルカお姉ちゃんの髪が赤いままだね?」
彼女たちの中で、そういえば……という考えた浮かび上がった。
オブリの素朴の疑問、たしかに死亡後や発動終了後は髪の色は戻っていたはずだしな。
ジッと見つめてくる少女たち。
俺は……溜め息を深く零した。
「本当に、オブリは察しがいいなぁ」
「……ダメ、だった?」
「いいや、言葉にするかはともかくとして、考えを巡らせ続けるのはいいことだ。俺も、それに眷属もオブリの疑問を拒絶したりはしない。気になることがあるなら、それを隠したりしなくていいぞ」
「……えへへ」
優しい【救恤】の妖精を撫でて、元の場所に戻る。
そして、改めて蘇生に必要なモノの準備を整えた。
「──“天神慈施”」
それは【慈愛】がもたらす蘇生の力。
蘇生魔法を使うより、この蘇生能力を使う方が今回の用途には合っていた。
蘇生、それは何らかの要因で切り離されてしまった魂と魄を結び付ける行為。
今回の場合、アバターという擬似的な魄へ祈念者であるアルカの魂を戻す。
普通の回復魔法では、治す──もとい直すことのできない器の修復。
それを同時に行うことで、蘇生ができないほどに損壊したアバターを使用可能に戻す。
今回、わざわざ【慈愛】を利用したのは、その修復能力がもっとも高いため。
……そうでもしないと、今の状態を維持したまま蘇生するのは難しかったのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
ミントが気づいた色に関する変化の他に、手が加えられているアルカのアバター。
なぜか俺は距離を取られ、少女たちがアルカを囲っていた。
どうやら、アバターの変化がどこにあるのか探しているようだ。
いやまあ、[ステータス]を視ればすぐに分かるだろうけども。
なお、答えは種族──普人族だった種族だが、アルカが膨大な魔力に身を晒した結果として一部が変異している。
表記的には今なお普人族のままだが、それは手を加えた際に偽装もしておいたから。
彼女も感覚的にその変化は分かっているだろうが、具体的にどこかは不明なはずだ。
──だからこそ、少女たちと話しながらも俺を睨みつけているわけだな。
「今のアルカは体がそのものが魔力伝導率を高める触媒。【憤怒】で『侵化』か『蝕化』状態になると、その分だけ魔力を取り込みやすくなるわけだな」
要するに、最終決戦モード(仮)を限定的にノーリスクで使える。
また、魔力を消費していくつか便利なこともできるなど、特殊な性質も行使可能だ。
それが彼女の種族──【源魔】。
本来、魔族の祖の血を引く『皇魔族』、その中でも覚醒した個体のみが到達できる種族だが……自力で強引に辿り着いていた。
本来はその力の代償として死ぬ。
だがそれを乗り越えたからこそ、彼女は新たな力を手に入れた……というか、初代もまたそんな感じだっただろうしな。
「──おっ、もういいのか?」
「……これ、どうなるの?」
「これっていうのがアバターのことなら、しばらくしたら元に戻る。【憤怒】の制御が大変になるだろうが、体感している通り魔力をより上手く扱えるようになるはずだ」
「そう……なら、早く使いこなしてまた再戦しないといけないわね」
再戦は……うん、しばらく控えてほしい。
俺も俺で、いろいろと制限を解除していたのでその代償を支払って弱体化している……そんな状態でアルカに干渉していたからな。
「……なあ、アルカ。今、楽しいか?」
「全力を出して負けたうえ、なんだかよく分からない体にされて……楽しいと思う?」
「…………すみません」
「でもまあ、そうね──少しだけ、本当に少しだけね」
彼女は自分の言葉通り、ほんの少しだけ笑みを零す。
それは一瞬のことだった……だが強く、印象深く脳内に焼き付くような笑顔だった。
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