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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と憤怒の赤 中篇

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 ???


 冤罪(?)によって、アルカとの試合……もとい死合いを強要された俺。
 いろいろあって顔を真っ赤にしたアルカが放った魔法は、土煙で観客席を覆った。

 その間にアルカが、観客を守るため魔法を使っていた俺に近づいてくる。
 空間転移でもして距離感を掴ませなかったがゆえに、俺はその発動を許してしまった。


「……ここ、どこ?」


 もともと居た闘技場も、彼女の空間転移により移動した場所だ。
 だが、再び彼女の魔法によって再びどこかへ来たらしい。

 ……スキルで状況を把握すると、ここはどうやら先ほどまでと同じ場所みたいだ。
 ただし、別の位相──つまり別のサーバーやらチャンネルの、と注釈が付くらしい。


「──『遷し隠世』。一時的に自分と接触した相手を別の場所へ移す魔法よ。これでしばらくの間、あの子たちが私たちを見ることはできないわ」

「そうか……それで、わざわざそんな魔法を使って隔離した理由は?」

「──本気を出しなさい、それだけ」


 本気、まあたしかに出してなかった。
 次元魔法で防御せずとも、そもそも楽に処理できる魔法はいくつでもあったし。

 だが味気ないことをしても、というまさに【傲慢】があったわけで。
 そこに【憤怒】しているかと思ったが、何やら様子がおかしい。


「アンタが私たち……というか、祈念者相手に本気だった時なんて、それこそ一度も無いはずよね? そりゃそうよ、【憤怒】一つでかなりの成長速度向上なのに、アンタはそれが何個も重なっているんだから」

「…………」

「地力が違う、それはそうよね。あの時……一番最初に会ったときに倒せなかったのだから、差は広がる一方よね」

「……まあな。正直、能力値云々だけなら祈念者が真っ当な手段で勝つ方法は無いと思うぞ。その点、『超越種』なんかは今の俺でもまだ届かないぐらいに強い……そりゃあ、普通は独りで挑むもんじゃないからな」


 アイ……は特殊性能に長けているので別として、『宙艦』と『万蝕』のスペックの高さはまさに生物としてのそれをはるかに超越したものである。

 曰く、それが必要になるほどの使命が課せらているからこそとアイは言っていた。
 そしてそれは、人の身を多少超越した程度では遠く及ばない力が必要になるらしい。

 アルカの言う通り、{感情}がもたらす経験値の超絶ブーストで俺は短期的に限界へ達し、そして『超越者』へと至った。

 祈念者を相手取るのであれば、もうレベルも能力値も関係ない。
 ただ蹂躙する意思と、ほんの少しの挙動だけで葬ることができるだろう。


「──それでも、私はアンタをこの手で倒すと誓った。倒すべきアンタの力を借りて、こうして【憤怒】を使うようになって……ようやく【大賢者】にも就いたわ」

「おおっ、おめでとう……でいいのか?」

「ありがとう。でも、それでもまだ届いていないじゃない。そう、どれだけ魔法を作り上げても、どれだけ【憤怒】を制御しても……今のままじゃ、決して」

「…………だろうな」


 彼女が極級職に達していたことは純粋に凄いと思うが、それで勝てるかはまた別。
 極級職【大賢者】、その本質は誰よりも優れた魔法使いであることだからな。

 職業スキルもその補助に傾倒しているし、奥義っぽいものもそれに特化している。
 結局のところ、その使い手が優れていればその分だけ強くなる感じの職業だ。

 アルカはそれを満たしているし、杖がありとあらゆる魔法を発動可能にしている。
 ──がそれでも、眷属の望む理想を抱くこの体は、その程度で壊れはしない。


「で、どうして本気を望むんだ?」

「別に、諦めるわけじゃないわよ。ただ、改めて向かうべき高みを知りたいだけ。ついでに倒せたら、ちょうどいいと思ってね」

「……ハッ、なかなかの挑発だな。こういうときはそうだな……どうか俺を、せいぜい失望させないでくれ。そして、諦めないでくれよ──“神域到達”」


 限界突破が至る極致の一つ。
 人の身に、そして理によって課せられた制限の尽くが一時的に解除され、現人神に相応しい存在感を纏う。

 アルカは魔法を唱え続ける。
 効果は多岐に渡るが、そのすべてが自己強化や特殊効果を付与していくもの……やがてその姿は、人から魔へと近づいていく。

 なればこそ、俺もまた全身全霊を以って答えるべきなのだろう。
 紡ぐべき言葉は決まった、あとはそれを世界に対して詠うだけ。


「無謀で無力、哀れな部品。無二を求め、唯一に成れぬ無才の愚者。偽りを重ね得た先、其は騙し抜きし変われぬ者」

「──『既死壊征』」


 俺は掌を胸に当て、言葉を唱える。
 礼装は必要ない──これだけは常に俺と共に在り、宿っているものだから。


「今ここに、理想と夢想を語ろう。我の求める人の夢、儚き願いを叶える力を」

「──『神等万掌』」


 アルカは杖を額に重ねる。
 今までは無かった神気の反応、それを擬似的に生み出し制御していく……それもまた、魔と共に体の一部と化す。


「──“偽善魂魄ソウルヒポクリシー”!」

「──『極魔同源』!」


 お互いにすべての準備を整えた。
 俺に見た目の変化は無い、俺という存在を顕在化させただけだ。

 だがアルカは違う、彼女を構築するすべてが空気中の魔力と同化している。
 実体を持たないがゆえに、その姿は蜃気楼のように揺らめていた。


「……じゃあ、始めるぞ」

「ええ、いつでも」


「「魔導解放──」」


 共に魔力を練り上げる。
 そして、一発目……考えることは同じ──


「“鏡写しの銀鏡世界”」

「“魔弾連鎖無限砲弾”」


 本来、魔法使いがどれだけ努力を重ねても届かないこともある魔導。
 それを開幕早々、一発目の行動として展開するのだった。


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