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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と真祖復活 後篇

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 お互いにチートの限りを尽くす。
 スペックだけは最強の俺に対し、【強欲】使用時の『俺』を取り込んだペフリ。

 夜空によって強化される彼女、星々のように煌く神眼を展開した俺。
 流星のように上空で魔眼が流れ──光線が降り注いだところで、再び動き出す。


「夢現流武具術剣之型──“斬々舞キリキリマイソウ”」

「──“■■■ライフテイカー”」


 双剣を振り回してコンボ数を稼ぐ俺。
 ペフリはそれに対し、異常な再生力と強靭な肉体を用いて素手で防御を行う──同時に【強欲】の力を使い、俺から生命力を奪う。

 ただ、ここで“奪魂掌ソウルテイカー”などの即死技を使わない辺り、完全なコピーには失敗したように思える……まあ、時間の延長という意味ではちょうどいいんだけどな。

 斬撃の速度は振るえば振るうほどに上がっていく。
 優れた動体視力でどうにか捌いていたペフリだが、次第に手が追い付かなくなる。

 どうするかと思えば……周囲から溢れ出す大量の血液が、手の形を取って俺を追いかけてくるようになった。


「ふふっ、メルスさんの記憶といっしょに流れてきましたよ。こんなやり方があったなんて……知りませんでした」

「知らなくても良かったんだけどな。なら、一気に掃除だ──“神殺滅封:焉ノ神焔”」


 透明だった剣が黒い焔を纏い、触れたものすべてを焼き尽くしていく。
 黄金の輝きと漆黒の昏さ、二つの力を剣に宿して──姿を消す。


「! どこへ──」

「闘之型──“移転闘法”。あっ、今のは転移眼な」

「くっ……」

「俺、ストレス発散、には、付き合うけど。殺される、のは、嫌だしな。うん、やっぱり無理か。諦めてくれ」


 まったく予備動作を行わず、唐突に転移しては剣を振るう。
 さすがのペフリも防戦一方となり、再び俺が優位な状況へ。

 というか、五分にはなってもペフリが優勢になったことは一度も無い。
 ……すまんな、俺は自分から進んでサンドバックにはなりたくないんだ。


「…………」

「おや、ペフリ……どうしたんだ?」

「……そんなことだろうと思いました。いいでしょう、そこまで言うのであれば私、本気で行かせてもらいます」

「今まで、本気じゃなかったのか? そりゃあいくらなんでも舐め過ぎだろぉ」


 どの口が言っているんだ、と言われるであろう台詞を告げると──どこからともなく、何かがキレた音がした。


「──“■■■ザ・グリ──」

「『お母さん、止めてぇええええ』!!」

「っ……!?」

「おっと、タイムリミットのようだな。」


 だがその音がもたらすものを知る前に、空から少女が降ってくる。
 ペフリは発動しかけていたオーラの靄を消して、すぐに彼女を救いに向かった。

 かなり驚いた表情をしている。
 そりゃそうだ、かなり遠くに『影』の魔物たちを見張りに就けて厳重に隠していたはずだからな。


「『お星さまは何でも見ている』、そう言うだろう?」

「……端から、これが狙いでしたか」

「俺の最初の依頼主は、ペフリじゃなくてあくまでウェナだからな。望まれないなら、そこまでの無茶はしないさ」

「あ、ありがとうございます、メルスさん。もう、お母さん……こんなことになるまで暴れるなんて!」


 戦闘痕は凄まじく、街の至る所に穴や罅ができている。
 現代技術では、元通りになるまで相当な時間を要するだろう。


「まあまあ、これは俺にも責任があるんだ。何とかするから気にしなくていい、一瞬で済む──“時空遡行トラベル”」


 対象を生命体以外に指定し、魔法を発動。
 すると、物や地面が勝手に動き出し動画を逆再生したかのような光景が起きる。

 やがて摩訶不思議な現象が終わったとき、そこには少し前の街並みと何ら変わらないものが存在した。


「とまあ、魔力のごり押しでこんなこともできる。たぶん、ペフリも時空魔法使いの血でも吸えばできると思うが……」

「ふふふっ」

「当人に殺る気はあってもやる気は無いみたいなので、どうしようもないな。ともあれ、鬱憤も晴らせて……はいないけれど、全人類抹殺計画みたいなことをする気は失せてもらえたようで何よりだ」


 本気でそれをやりかねなかったペフリなのだが、今は殺気が収まっている。
 とどのつまり、独りの犠牲者と引き換えに世界は平和になったわけだな。


「メルスさん……あの……」

「いいんだ。どうせ俺、同じようなヤツにもう狙われているし」

「あら、その人とは仲良くなれそうです」

「……今度紹介するよ。間違いなく、意気投合はすると思うぞ」


 ウェナは大変申し訳なさそうだが、俺としてはこの結果──殺意を俺一人に向けさせるというやり方で充分だった。

 殺意は向けていても、すぐに殺そうというわけでもない……まあ、殺せたら殺すぐらいのノリだろうか。

 現実の凡人ならまだしも、こちらの世界の『偽善者』は超人染みているからな。
 いずれ来るその時まで、何度だって挑戦を受け入れようじゃないか。


「……あの、メルスさん。少し、ご相談があるんですけど」

「ん? 内容によっては、俺より眷属の方が頼れると思うけど……なんだ?」

「えっと……お母さん、復活したってことでいいんでしょうか?」

「? ああ、血は全部戻ってきたはずだからそれでいいと思うぞ──『捕らえよ』」


 なぜか逃げようとしたペフリに対し、神気で硬度を高めたグレイプニル(鎖)を使い捕縛しておく……この反応とウェナの深刻そうな表情、いろいろと先が読めてきたな。


「あ、あの、お母さんに──!」

「……やっぱり、俺より眷属の方が向いている質問だな、それ。うん、それかちゃんと行く方がいいな──役所に」

「う、ウェナ? 私、せっかく自由になれたのだけれど……あ、あんまりじゃないの?」

「私、前から決めていたんです。今まではそれだけの事情があったからいいにしても、もしメルスさんがお母さんの血を全部集めてくれたら──仕事を見つけるって!」


 真祖の吸血鬼も、可愛い娘にはいろんな意味で敵わないようで。
 ……翌日、嫌がる母親を連れた娘が役所を訪れたそうだ。


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