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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と真祖復活 中編

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 蘇った真祖の力。
 ただし、制限時間は何らかの理由で意識を失っている娘が目を覚ますまで。

 魔導の力で夜が強まった第一世界。
 魔物を模った影が暴れ回り、二振りの剣が透明な輝きと虹の軌跡を宙に描く。


「どいつもこいつも、位階が高い個体ばかりじゃないか……どれだけの魔物が犠牲になっているのやら」

「メルスさんほどではありませんよ。その強いと称した魔物が、一瞬で倒されているなんて信じられません……本当に、強化されているんですか?」

「それは自分で考えてくれ。俺には、効果の影響が無いからなっと」


 上下左右に点在する、あらゆる陰から飛び出してくる膨大な数の魔物(影)。
 すべては彼女の魔眼、『影像眼』によって生み出された偽りの生命体。

 レイドボス級の個体も含まれているが、それらを容赦なく双剣で切り伏せていた。
 今の俺は超高スペックのチート状態、むしろついて来れているペフリを褒めたい。

 俺の体は、眷属が弄繰り回した特注品。
 邪縛で初期値が1になったにも関わらず、これまでも無双し続けているのが何よりの証拠である。

 いかに魔導“禍つ明けぬは逢魔時”で夜の力が高まろうと、素のスペックが充分に高くなければ強化値もさほど見込めない……ペフリがそれだけ強いということでもある。


「だから、いつまでもこうして影とばかり踊るのもどうかと思うぞ──“破邪光輪パージオレオール”!」


 陽光の輝きを背負うと、闇を打ち払うように熱気と共に光が広まっていく。
 破邪効果もある太陽の輝きが、強制的に周囲の陰から『影』を蹴散らしたのだ。


「そして続けて──“魔技直付:黄金輝く日輪の生誕”!」


 背の光輪とは比べ物にならない、真なる太陽の現身うつしみを虹色の剣に宿す。
 剣を背後に背負うと、連動するように光輪もまた強く輝き、辺りの陰を奪い去る。


「ちょっと強引だが、これで良し。そろそろ自分自身で戦ってくれよ。いつまで経っても憂さ晴らし、できてないだろう?」

「……ふふふっ、そうですね。あの時より、もっと力が出せる今なら──やっぱり、取り出すことができるわ」


 一度目の邂逅時、彼女は影から一振りの呪剣を取り出した。
 それが今回の功労者(?)、[血涙]なのだが……彼女が取り出したのは別物だ。

 否、取り出すという表現は正しくない。
 ──呼び出したのは、小さな蜘蛛だった。


「この中でも影を出せる……いや、それっぽく見えるだけで魔眼とは無関係か」

「ええ、『血産蜘影』と言います。ほら、ご挨拶なさい」


 彼女の言葉に応じるように、俺に向けて器用に足を一本上げて挨拶を行う。
 今の名前は魔物でも、魔道具の名前でも無いのだろう……消去法で答えは一つ。


遺製具レリック……持ってたんだな」

「昔、たまたま空を歩いている蜘蛛が居ましたので──叩き落しました」

「いろいろと深い物語があっただろうに……まあ、厄介だということだけ分かればいい」

「準備はよろしいですね? では、始めるとしましょう──“昇り垂れる巣食いの糸ヤバミグモ”」


 ヤバミグモ、その言葉の意味を理解する前に事象は始まっていた。
 彼女の足元にまで縮めていた影の領域が、それが突如として広がっていく。

 そして影から手を伸ばすように、何かが這い上がってくる。
 まるで、蜘蛛が垂らした糸を登ろうとする亡者のように。


「この子の能力は、私が集めた血を糸にして巣を作るというもの。その巣を踏んだ方からは、血を奪うことができるの。影に広げられるその巣を全部破壊して、この特別な力を使うことができる」

「……見覚え、あるなぁ」

「“昇り垂れる巣食いの糸”、説明してもどうしようもありませんもの。集めた血と壊した巣を使って、私が血を吸ったナニカを再現する──それがこの子の必殺技よ」

「……【強欲】な俺か」


 某推理漫画のように、真っ黒なシルエットは俺と寸分違わぬ丈。
 違うのは持っている武器、そして黒く染まろうと輝く金色の瞳。

 一度目の俺は、【強欲】を使っての縛りの真っ最中だった。
 その際、説明を省くため血から記憶を読み取れる吸血鬼の力を利用したのだが……。

 その時の血を、特典が発動した能力の媒介となったようだ。
 能力値であれば、今の俺が圧倒しているだろう──が、ヤツには【強欲】がある。


『──“■■■■アンリミテッド・ウェイスト”』


 当時のアイテムまでは使えないのか、消耗するのは『俺』自身を構成する血そのもの。
 自らを削ることで相応の価値を得て、膨大な量の強化を得ている。

 ……そのうえで、特典が血の糸を生み出して『俺』に注いで補填していた。
 なるほど、外部から供給できるからこそできる面倒なコンボなわけだな。


「って、これじゃあ俺と『俺』で殺り合うだけでつまらないだろう」

「そんなことありませんよ。ですが、そこまで言うのであれば──イタダキマス」


 俺の知識から得たのか、わざわざ手を合わせてから『俺』の首筋に噛み付いた。
 そして、犬歯から血を吸い取り──『俺』はこの場から消える。

 その瞬間、ペフリが放つ存在感が一際強くなった。
 血を吸い、存在を奪ったことで彼女自身が一時的に『俺』と同一化したのだろう。

 今まではどうにか街に被害が無いよう調整していたのだが、これ以上はさすがに崩壊を覚悟して戦わないと……いやまあ、魔導ですぐに戻せるけどさ。


「魔導解放──“満天広がる眸子の夜空”」


 空に神眼を浮かべ、ある準備を行う。
 それが終わるのはまだ後の話……今は、彼女のストレス発散に付き合おうじゃないか。


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