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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と供血狩り その20
しおりを挟むユニーク種RTA討伐(討伐者指定)をするため、俺が成すべきこと。
それは──無属性魔法“魔法陣化”を連発することである。
「──“魔法陣化:森羅万燃”」
魔法陣を自在に創れる“魔法陣化”。
ただし前提として、この魔法の対象にできるのは自身が魔法スキルを所有している属性の魔法に限る。
そして魔法陣化のために魔力を支払い、そのうえで本来対象となる魔法を発動する分の魔力を支払う……二重の消費が必要となる極めて面倒臭い魔法だ。
それで魔法陣を生成しても、魔法陣のすべてが魔力によって構築されているため、維持する分の支払わないと自然に分解されてすぐに使えなくなる。
「はい、メィお姉ちゃん。魔力を少し籠めれば使えるから、どんどん使ってね」
「──『森羅万燃』」
『────ッ!!』
描いて構築した場合と、“魔法陣化”を用いて構築した場合の違い。
それは魔法陣を使用した際に、どれだけ補正が乗るかどうか。
描いた場合、その魔法に加わる補正は魔法陣の媒介と発動者の属性適正。
だが“魔法陣化”の場合、それを準備した者の補正も加わる。
……新人や中堅者ぐらいなら媒介の方が補正も高いが、一流の魔法使いが魔法陣を準備するなら後者がオススメだ──その見本が、今俺の眼の前で行われていた。
「…………なに、これ」
空間すべてを焼き尽くす勢いで燃え盛る。
事前に“決戦結界”を展開していなかったら、帝城ごと燃やし尽くしていただろう。
そんな超火力を、その身一つで受け止めている[ペウラヌ]。
アンデッドなので火への耐性は低く、与えるダメージに追加の補正が入る。
何より、俺が準備した魔法陣だからな。
レベル四桁、かつ眷属補正で魔力や属性適正がイカれた数値となっている魔法なので、誰が打とうとああなっていた。
「あとは──“魔法陣化:霊魂消滅”っと。メィお姉ちゃん、お願い!」
「……ごめんなさい──『霊魂消滅』」
なぜか[ペウラヌ]に対して謝罪をし、魔法陣を起動するメィ。
瞬間、横に開けていた穴が白く染まり、天井から膨大な量の光が降り注ぐ。
『────ッ!!!!』
神聖魔法の中でも、極めて強力かつ慈悲を持たない残酷な魔法。
名前の通り、霊魂を消し去り蘇生の余地をゼロにしてぶっ殺す殺意剥き出しの一撃だ。
手を上に掲げ、自身を構成する霊体を盾として必死に粘っている[ペウラヌ]。
それを呆然と見つめるメィ──そして、鼻歌交じりにまた魔法を使っている俺。
「ふんふ~ん──“魔法陣化:神聖浄化”」
「! ま、まだやるの?」
「だってアレ、まだ死んでないよ? 本当、執念って凄いね。妖怪の性質、吸血鬼の超再生、【裸王】の性能強化。そして、有象無象の職業の残滓、中にはHPを1残したり、死亡後も動ける能力があるからね……
「さ、さすが固有種……」
分かってもらえたようで何より。
実際、現人神である俺の神聖魔法……の魔法陣を使った一撃であるにも関わらず、今なお原型を保っているのだから恐ろしい。
スッと魔法陣を渡すと、しっかりと魔力を注いでくれる。
……まあ、“強制開示”で覗く限り、これで終わりだろうけどな。
「──『神聖浄化』」
「……“落加粒吸”っと」
メィが最後の魔法を唱えたその時、こっそりと発動したオリジナル魔法。
防ぐための盾を浄化され、無防備になった[ペウラヌ]を襲う滅魂の一撃。
そのまま呑み込まれ、HPの数値も消滅して粒子と化していく。
そして、その結果──
◆ □ ◆ □ ◆
今まで手にしていなかった、真っ赤なマイクを握り締めるメィ。
今回の特典、『拡醒血器[ペウラヌ]』の使用者として彼女が選定されたのだ。
「……一つ持っているだけで、誰でも英雄になれるって聞いたことがあるんだけど」
「まあ、それぐらいの価値はあると思うよ。今の時代は、祈念者が殺して奪い取ろうとする可能性もあるけどね」
「……やっぱり、要らなかったかも」
「あはは。でもまあ、さっき言った通り。使い方次第でメィお姉ちゃんの目的を果たすのに充分な力になると思うよ。頑張って使いこなしてね、それも立派な依頼だよ♪」
特典はその使用者が固定されているが、そこに死後は含まれない。
正確には、死後は使用者が洗浄され、次の獲得者が使用者として認定される。
なので『殺してでも奪い取る』を地で行く祈念者の過激派は、特典の保持者を狙う。
そのくせ、祈念者は死んでも権利が失われないので自分は逆襲を恐れないのだ。
「まあとりあえず、さっさと逃げた方がいいかな? そうだ、メィお姉ちゃん……私の世界に来る? そこなら絶対に追手が来ないと思うよ」
「……ありがとう、でも遠慮する。情報を集めていたいから」
「……そっか。うん、無理強いはしないよ。あっ、そうだ報酬を用意し──」
「じゃあ、私はこれで……むぎゅ」
途中まではかっこよかったのに、報酬の話に入った途端逃げ出そうとしたメィ。
予想はできたことだし、もしもの集団転移用に結界を張っておいて良かった。
そう、報酬は毎度お馴染みのブラッドポーション。
しかも今回は、特典もあるので少々比率を変えた代物も混ぜてある。
「ペフリには私から血を渡しておくから。ほら、メィお姉ちゃんも血を受け取ってよ」
「血じゃない、ブラッドポーション。それは諦めるから…………血は、止めてください」
「敬語で言うほどかな……でも、ダーメ♪」
嫌がるメィに、能力値のごり押しでアイテムの詰まった魔法鞄をプレゼント。
非常に顔をしかめながらも、渋々それを受け取ってくれた。
そして、その場で現地解散。
メィは影を移動して帝国のどこかへ、俺は転移魔法を使い──ペフリの下へ。
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