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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その19

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 ──『血魅冐霊[ペウラヌ]』。

 限りなく人為的に近い形で誕生したこの固有種は、大きく分けて四つの要素を基に構築されている。

 一つ:吸血鬼真祖の血と【儀血団】。
 強大過ぎる吸血鬼の血、そしてそれを他者が利用可能となる固有スキル……それがその他三つの要素を繋ぎ合わせた。

 二つ:膨大な数の魑魅魍魎。
 過去、帝国が裏取引にて手に入れていた妖怪たちの体……生きた物も死んだ物も含め、多種多様な個体が特異性を生み出した。

 三つ:かつて討伐されたユニーク種。
 帝国内で暴れた『冐乞盛膳』という個体から得られた特典素材が、その他の要素の影響により再び力を取り戻していた。

 四つ:アニワス戦場跡のアンデッド。
 多くの犠牲を払い、何度も挑み強力な個体の捕獲に成功していた……その中には、死亡前に超級職だった者も存在した。

 循環するエネルギー、特異性、固有種と成り得る■■、そして強靭な器。
 これら四つが組み合わさった結果、吸血飢のユニーク種が誕生したのだった。

  □   ◆   □   ◆   □

 皇帝陛下の置き土産、[ペウラヌ]の討伐はメィに任せてみた。
 特典を彼女に与えるためにも、俺は最低限の支援に留めなければならない。


「縛りはほどほどにして、アシストに専念しないとね──“決戦結界コロシアム”!」


 これまでは封印していた結界魔法を発動。
 俺とメィ、[ペウラヌ]を包み込むように結界が構築された。

 これで後から祈念者が入り込むことはできないし、[ペウラヌ]の逃亡も防げる。
 何よりこの行動は良くも悪くも無い、中途半端な選択なので貢献にはならない。

 メィに特典を取らせるという観点では正解だろうが、討伐という一点だけを見れば他のの者を拒むことは間違っているからな。


「魔導……はさすがにやり過ぎだし、正直に言うと【聖者】の能力も大当たりっぽい気がするからなぁ…………鑑定とか解析でもしてみますか──『構造解析アナライズ』、“強制開示ステータスオープン”」


 魔術と魔法、二つの観点から同時に固有種の解析を試みる。
 ただし、盗み見る行動は全存在から多大なヘイト値を稼ぐもの。

 当然俺も狙われるのだが……そこはメィが間に入り、攻撃を防いでくれる。
 そして海聖剣で攻撃を繰り返し、意識をそちらへ向けてくれた。


「無茶、やり過ぎ」

「あはは……ごめんごめん。それより、情報がある程度掴めたよ。いきなりユニーク種認定みたいで、ついでに大きく分けて能力は四つある。まずは吸血鬼の──」


 ちょうど俺がそう言いかけたとき、メィの眼前で[ペウラヌ]が無数の蝙蝠になった。
 吸血鬼の能力の一つ、動物化を行ったのだろう……と思ったのだが違ったようで。


「何これ……見たことない」

「二つ目、妖怪への変化。これはそれらを総じたスキル“百奇也更”、血を消費して吸血飢化した妖怪を百体ぐらい作るみたい」

「……妖怪?」

「あー、そこからなんだね。えっと、妖怪というのは──」


 俺の説明を阻むように、メィを避けるようにして近づいてきた妖怪たちがさまざまな妖術を放ってきた。

 だが、リンカにあらゆる妖術への対策を教えてもらっている俺としては、特出危険な物も無かったので、サクサク回避していく。


「まあ、要するにちょっと特別な魔法を種族単位で持っている存在かな? で、それを百種類ぐらい使えるみたい」

「…………」

「全部が全部、便利なものじゃないから平気だけどね。問題なのは三つ目、それを本体が再び取り込むと……あんな風に、素の状態で全部が使えるようになるんだ」


 かつて討伐されたユニーク種、その性質が色濃く受け継がれている能力だ。
 体内に取り込んだ物を自らの糧とする、それ自体は定番とも言える。

 だが、その効果が他の要素と相まって凶悪化していた。
 自らを増やし、それを取り込み強化……一種の永久機関である。


「あと、四つ目。裸だと強い。これは本当にすっぽんぽんってことじゃなくて、何も装備していないってこと。魔物だから、当然条件は満たしているんだけど、その強化幅が尋常じゃないんだ」


 血を打ち込む前の脈打っていたアレ、どうやらその中に【裸王】というネタ職っぽい超級職の使い手も含まれていたらしい。

 本来なら人族しか就けない職業の恩恵だからこそ、ある程度制限されていたその真価。
 それが残酷なことに、魔物であるからこそ最大限に発揮されるようになってしまった。


「……理不尽過ぎる」

「うん、要するに真祖クラスの吸血鬼の力でさまざまな妖怪の妖術を使い、自己強化を無限に重ねる超級職クラスのアンデッドだよ。まあ、ユニーク種だからそれぐらいはあって当然だけどね」

「勝てるの?」

「──そりゃあ、もちろん♪」


 おそらく、真っ当に挑めば小説の醍醐味にできるぐらいの長い戦いとなるだろう。
 だがそんな長いことこの場に居たら、どこかへ行った皇帝陛下が何かするはずだ。

 可及的速やかに、それこそRTAレベルで倒さなければならない。
 ……さて問題です、いったいどうやって倒すでしょうか?


「答えは──“魔法陣化マジックサークル”♪」

「…………嫌な予感がする」

「ふふっ、メィお姉ちゃんが殺ればいいんだもんね♪」


 選考システムの裏を突く、少々手間の掛かる方法を実行する。
 魔法陣はあくまで、使用者の魔力を用いているわけで……つまりはそういうことだ。


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